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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 貫く鉄錐

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擦023 見限る観客席

 フィールドは荒野と化した。

 ロッカ=ウィルコークスは数多の血を流して瓦礫の上に跪き、ナタリー=ベラドネスはへし折れた石柱に片足を乗せ、清々しく笑っている。


「あー、魔力使い過ぎちまった。頭がクラクラしやがる。パイクも全部消えちまったよ、ウヒヒッ」


 もう瓦礫の上に鉄針は無い。

 フィールドに突き刺さっていた針達は、ナタリーの魔術スティグマ(再び貫け)スティ・レット(我が鉄錐)によって、逆方向へ推進する新たな鉄針としてサイズを小さくして撃ち出され、それが何度か繰り返されるうちに、全て消滅してしまったのだ。

 行われたのは、鉄針による無造作な大規模破壊。

 ロッカが建てた全ての石柱は砕かれ、倒された。破片だけは残るものの、もはや障害物と呼べるほどの影はない。


「さあロッカ、もっと足掻け。もっと無様な姿を晒せ。生意気にもアタシに刃を向けたんだ。ここで降参はねーだろ? ぁあ?」


 勝機も無く杖も破壊されたロッカに残されたものは、身を守る敗北宣言か、敗北を認めぬ蛮勇のどちらかであった。




「ロッカ……!」


 ナタリーの豪快な魔術によって、観覧席は異様な盛り上がりを見せていた。

 その大興奮にぽっかりと穴が空いたように静かな特異科の一団の中で、ソーニャは青ざめた顔を隠さず、席から立ち上がる。

 が、ソーニャの手首は静かに試合を見守っていたヒューゴによって掴まれた。


「どこに行くつもりだい? ソーニャ」

「壇上に飛び込んで、中止にさせるの。このままじゃロッカが死ぬわ」


 ソーニャは当然のように答えたが、ヒューゴは神妙な顔を横に振る。


「駄目だ。まだ、ロッカ自身が負けを認めていない」

「認めなかったらロッカが勝てるっていうの?」

「そういう問題じゃないだろ」

「じゃあどういう問題よ! ここで行かないで、何が友達なのよ!」


 彼女の気持ちはヒューゴも充分理解していたが、それでも苦い顔のまま、腕を離そうとはしない。

 そんなやり取りの横で、心底鬱陶しそうな目つきのクラインが口を挟む。


「馬鹿がもう一人乱入したところで、闘技演習は中止されない。入り込んだ馬鹿を排除されるまで、一時的な試合中断がいいところだ」

「あんたは……全てをわかってるみたいな口で……!」

「君よりは解ってるつもりだが」

「あんた達は、友情とか、思いやりとか……! そういう言葉を知らないの!? このまま何もせずに、あんな姿のロッカを黙って見てろっていうの!?」

「なら君は北側にある、ウィルコークス君の転送場所へ行けばいいだろ」


 夜中に吠え続ける隣の家の飼い犬でも見るような目で、クラインはソーニャを睨んだ。


「そこで、ボロ雑巾のようになった奴でも待てばいい」

「……!」


 ソーニャは二人を見限り、手荷物をまとめて慌ただしく席を立った。

 彼女の行き先はもちろん、ロッカが転送される際の北側治療室前だろう。


 ヒューゴは小走りで去るソーニャの後ろ姿を見送っていたが、すぐに厳しい目線をフィールドへと移した。


「クライン、あんな言い方はないだろ」

「闘技演習を妨害しようなど、馬鹿以外の何者でもないだろう」

「そっちじゃないぞ」

「じゃあ何だ」

「……それは、聞くことじゃないな」

「意味不明だ」


 二人はどこかぎこちない雰囲気に包まれていたが、クラインもヒューゴも、決闘の成り行きを見届けるつもりのようである。




「ナタリー……すごいじゃないか。あんなに立っていた石柱を、一瞬で全て壊してしまうなんて」


 最後列の席で、イズヴェルが杖の柄を強く握る。

 隣の席のミスイは、退屈そうな眼差しを壇上に送っていた。


「術の分解と再構築。既に撃ち放った鉄魔術から式を再び展開するとは、なかなか面倒な事をしますよね」

「ああ、ナタリーが使う魔術は複雑だな。でもあの術で、ナタリーは鉄専攻三年のトップにいる」

「厄介ですよね、鉄魔術って。芯まで壊すのも骨ですし、環境に残られるとああいう仕掛けの対処が面倒です」

「でもミスイ、君ならどうとでもなるんじゃないのか?」

「ええ、どうとでもなりますよ。あくまで一般的な魔道士レベルでの話をしたまでです」


 最後列とはいえ、立ち見の学徒もいる満員の闘技演習場だ。

 ミスイとイズヴェルの後ろでも、多くの学徒らが背伸びしながらフィールドを見守っている。

 小さな粒にしか見えない最後列以降の彼らですらも大いに盛り上がる、上級保護のこの闘技演習。

 その中で彼ら二人は、どこまでも静かだった。


「あのロッカ=ウィルコークスという女は……一般的な魔道士以前の存在ですね」

「うん? ああ、そうだな。ナタリーとはまだまだ……」

「違いますよ、イズヴェル」

「?」


 疑問に思うイズヴェルの紅い眼差しを、ミスイの濁った目が受け止める。


「石クズをばら撒くだけの惨めな鉱夫は、決して魔道士などではないのですよ」


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