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虐げられた追放王女は、転生した伝説の魔女でした ~迎えに来られても困ります。従僕とのお昼寝を邪魔しないでください~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部4章〜

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213 確信


「あの状態からもう動けるようになったなんて、すごいのね」

「来い。もう二度と、お前を自由にさせることはない」


 レオンハルトがクラウディアを掴んだ力は強く、魔法でも使わなければ振り解けそうにない。

 だが、それを止める声があった。


「クラウディアを離せ。レオンハルト」


 ジークハルトが呼んだ名に、レオンハルトの肩がぴくりと跳ねる。


「――君はいま、誰の意思で動いている?」

「……黙れ」


 静かにジークハルトを見据えたレオンハルトの双眸は、深い深い闇の色だ。


「俺がこれまで、お前を見付けられない故に放置していたと思うのか?」

「……分かっているさ、見逃されていたことはな。僕だって、正当な王が君であることに異論はなく、敵対する意思はなかった」


 ジークハルトは真っ向から対峙して、言葉を続ける。


「だが、こちらも看過は出来ない。クラウディアを手に入れて、何をしろと命じられている?」

「これは、俺の意思だ」


 レオンハルトの言葉には、一切の迷いや淀みがなかった。


(……けれど)


 彼の横顔を見上げながら、クラウディアは目を眇める。


(こうしてみると、やはりライナルトの魔力を感じる)


 彼らの血縁者であるからこそ、巧妙に溶け込んで隠されている。

 けれど、そこへ確かに感じる『最初の弟子』の面影に、クラウディアはそっと手を伸ばした。


「レオンハルト」

「……っ!?」


 クラウディアがレオンハルトの頬に触れると、彼が眉根を寄せる。


「お前が勝手に、俺に触れるな。アーデルハイト」

「…………」

「俺の名前を、呼ぶなとも、言った……!」


 空気がさらに張り詰めて、肌の表面が痺れるかのようだ。

 クラウディアはくちびるを開き、柔らかな声音を意図して紡ぐ。


「――では、『ライナルト』」

「…………っ!!」


 レオンハルトに触れていた手が、強い力で掴まれる。


「クラウディア!」

「大丈夫よ。ジークハルト」


 これでクラウディアの両手はどちらも、レオンハルトに捕らえられた。

 クラウディアはにこりと微笑んで、さらに告げる。


「違うというのなら、拒絶しなさい。それは自分の名ではない、『ライナルト』と呼ぶなと、拒めばいいの」


 クラウディアが、彼のことを『ノア』と呼んだときのように、別の存在だと否定するべきだ。


「……俺は」

「もちろん。あなたを支配する者が、『アーデルハイト』にもう一度名前を呼んでもらうことを、願っていないと言うのであればだけれど……」


 レオンハルトの双眸を見上げ、クラウディアはくすっと微笑んだ。


「それは、出来ないみたいね?」

「――――……っ!!」


 彼は何かを振り払うように、クラウディアの体を引き寄せた。


「アーデルハイトを奪うことに、『レオンハルト』の意思なんて存在していない」

「違う。……これは、俺が」

「でも、あなたはどうあっても逆らえない」


 クラウディアは、可愛いノアと同じ魂を持つ存在を、大切に見つめる。


「ライナルトに、支配の魔法を掛けられている――それだけじゃないわね」

「……っ、く……」

「逆らえない理由を、どうか教えて」


 恐らくは無駄だと分かっていても、交渉めいた願いを口にする。


「私はもうじき、自分のいるべき世界に帰るから」

「……駄目だ、行かせない……!!」


 それは、ほとんど子供の我が儘にも似ていた。

 そんな言葉を述べるばかりで、交渉のようなものを口にする訳でもない。かといって、クラウディアを無理やりに扱って、従わせようとするのでもない。


 何らかの深い葛藤や、苦しみのようなものすらも垣間見える。


「ごめんね。……とっても可愛いおねだりだけれど、聞いてあげない」

「逃がす、ものか。そもそも、お前が『帰る』手段なんて、この世界には存在しない……」

「この世界ではね。だけど、おおよその予想はついたわ。現実の世界で、欠けている私が満ちればいい」


 母が名前に残した答えを、クラウディアは口にした。


「それくらいなら、容易い方法だわ。私が幼い頃、ノアに預けた魔力を、私に戻してくれるだけで終わる」

「それを、お前が分かったとして、どうなる」


 クラウディアの手首を掴むレオンハルトの指に、さらなる力が籠る。

 ジークハルトが動こうとしてくれるのを視線で制しながら、クラウディアはその痛みを顔に出さず、堪えていた。


「元の世界とやらに、それを伝える方法もない……。お前は、永劫、ここで」

「――伝える必要なんてないわ」


 レオンハルトの双眸が、驚きによって見開かれた。


「……なに?」

「だって、私のノアが居るもの」


 ひとつも疑うことのない確信の中で、クラウディアはくちびるを綻ばせる。


「私が辿り着いた答えなら、あの子だってすぐに見付けるに決まっている」

「……ふざけるな」


 黒曜石の色をした瞳に、深い憤りが滲んで見えた。

 けれど、はっきりと告げる。


「私のそんな信頼に、ノアが背くことはないと言い切れるわ。……絶対に」


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