表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた追放王女は、転生した伝説の魔女でした ~迎えに来られても困ります。従僕とのお昼寝を邪魔しないでください~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部2章〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

199/229

193 お迎え


「その通りだ。……そしてそこに、君が落ちてきた」


 苦笑したジークハルトが、クラウディアの隣に腰を下ろす。


「俺の掻き集めた情報によれば、王女クラウディアは魔法を持たない代わり、亡くなった母君の守護魔法に守られていたという。レオンハルトに奪われる直前、それが発動したと聞いたぜ?」

「母さまの、守護魔法」


 クラウディアは自らの左胸に指先を添えて、緩やかな瞬きをした。


「――それは、仮死状態に陥る魔法ね?」


 こちらの世界で目覚めたとき、クラウディアは棺の中に眠っていたのだ。

 真っ白な百合の花と、その甘い香りに包まれて、亡骸のように飾られていたことを思い出す。


「その通りだ。なんでもそうすることで君の魂を封じ、守る魔法らしいが」

「…………」


 それと何処か近しい魔法を、クラウディアは元の世界で使っている。


(『クラウディア』である今の私は、『アーデルハイト』の魔力に耐えられなかった。それはきっと、最初に予想していた体の幼さゆえではなくて、なんらかの要因があった所為)


 十三歳になったクラウディアは、前世のアーデルハイトが十三歳だった時の、十分の一も魔法を発揮できないままだった。自らの魔力に耐えかねて眠ってしまう状態を、ずっと繰り返してきたのだ。


(『クラウディア』が壊れないためには、魔法で仮死状態に陥った上で、魔力循環によって体を補強する治療が必要だったわ。その眠りから目覚められず、私がこの世界に閉じ込められている理由……)


 いいや、それ以前の問題だ。

 そもそも元の世界の『クラウディア』が、王族の生まれでありながら『アーデルハイト』の魂に耐えられなかったことには、とある人物が関わっているのだろう。


(私が眠りにつく前に、ノアと訪れた最後の国。砂漠のシャラヴィア国で目にした女神像は……)


 あの女神像は、幼い頃からクラウディアだけを一心に見てきたノアにすら、何処かクラウディアを思わせるのだと言わしめた。


(元の世界では、力の強い魔術師であることを秘匿していたらしき母さま。こちらの世界では、その母さまが私に対して、いざというときには仮死となる守護の魔法をかけていた)


 そしてあの女神像は、各国の王族を不幸に陥れてきた、呪いの魔法道具と共にあったのだ。


「この世界のシャラヴィア国は、今も存在しているかしら?」

「残念ながら、三年前に滅んでいる」

「…………そう」


 クラウディアは一度目を閉じ、それからゆっくりと開いた上で、ジークハルトを見遣る。


「カールハインツに、伝えてほしいことがあるわ」

「!」


 思いもよらない名前だったのか、ジークハルトが目を丸くした。


「何故、俺がカールハインツ殿と関わりがあることを?」

「ふふ。だってあなた、あまりにも私のことに詳しすぎるもの」


 クラウディアは首を傾げ、悪戯をするような気持ちで微笑む。


「シャラヴィア国の王宮があった場所に、女神像が存在しているかを探してちょうだい。王宮の最上階と後宮をそれぞれ入念に、カールハインツに探させて」

「……カールハインツ殿が、そんな願いを聞き入れてくださるかは分からないぜ。ひどい重傷状態から回復された後、レオンハルトからあんたを取り戻すために、誰よりも苛烈な方法で軍を起こそうとしているからな」

「だったら尚更、別の目的が必要ね。クラウディアからの『おねだり』だと、カールハインツにはよく言い聞かせておいて」


 この世界での自分が、どのようにカールハインツと過ごしてきたのかを、クラウディアは知らない。しかし魂が同じである以上、本質は変わらないはずだ。


「私を助けてくれてありがとう。ジークハルト」


 クラウディアは、後ろ髪を手で梳きながら立ち上がる。


「私はレオンハルトの所に戻るわ。そのうちまた会いましょう」

「何を言っているんだ、クラウディア。僕と一緒に来てくれ、君をこのまま安全な場所で保護する」

「駄目よ。だって、特段あなたの味方になる訳ではないもの」


 魔女らしく悪い微笑みを、ジークハルトに向けた。


「私は、やりたいことしかしないの」

「……クラウディア」

「それに……」


 くすくすと小さく笑いながら、クラウディアは振り返る。


「あなたは早く、ここから転移するべきだわ」

「!」


 家具のほとんどないこの部屋で、背後にあったのは無機質な壁だ。けれども次の瞬間、空間に大きな歪みが生まれた。


「クラウディア!!」


 こちらに手を伸ばしたジークハルトに、クラウディアははっきりとこう告げる。


「行って。……あなたも、あなたの成すべきことだけをしなさいな」

「――――っ」


 直後、凄まじい落雷のような轟音と共に、壁の一部が吹き飛んだ。

 クラウディアの周りに結界を張ったジークハルトが、転移魔法によって姿を消す。それと入れ替わりになるように、大きな手がクラウディアの肩を掴んだ。


「――見付けたぞ」

「…………」


 後ろから聞こえた低い声に、クラウディアは小さく笑う。


「お迎えに来られて偉いわね。レオンハルト」


 幼い子供をあやすようにそう告げると、ノアと同じ外見をしたレオンハルトは、黒曜石の瞳でクラウディアを睨み付けた。


X(Twitter)で次回更新日や、作品の短編小説、小ネタをツイートしています。

https://twitter.com/ameame_honey


よろしければ、ブックマークへの追加、ページ下部の広告の下にある★クリックなどで応援いただけましたら、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ