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虐げられた追放王女は、転生した伝説の魔女でした ~迎えに来られても困ります。従僕とのお昼寝を邪魔しないでください~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部2章〜

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188 魔女の秘密

【第5部2章】




 クラウディアは考える。夢の中で流れる時間とは、どのくらい現実と違いがあるものなのだろうか。


 乖離がある夢もあれば、まったく同じ夢もあるはずだ。

 少なくとも、この仮死の眠りの中にいるクラウディアにとって、この夢と現実を比べる術はない。


「私がこの夢の中で目覚めてから、今日で一週間……)

「……おい」


 クラウディアは、むにゃむにゃと目元を擦りながら身を起こす。


 纏っているのはドレスの下に着るインナードレスだけで、細い肩紐で吊られたワンピースのようなデザインだ。

 片方の紐が落ちて、クラウディアの肩は剥き出しになっていた。寝台代わりにしていた長椅子に座り、ううんと大きく伸びをする。


(今日も相変わらず魔法は使えないし、目覚める方法も見付からないわね。このお城に閉じ込められて、城内の移動はともかくとして、外に出ることもままならない)

「おい」

(けれど……)


 クラウディアがちらりと見上げた先には、ひとりの青年が立っている。


「――アーデルハイト」


 クラウディアを不機嫌そうに見下ろすのは、黒の外套を身に纏った、この世界のノアだ。


「お前は一体なぜ、俺の部屋に入り浸っている?」

「ふふ。おかえりなさい、レオンハルト」


 意にも介さずに微笑むと、この世界のノアはぐっと眉根を寄せた。

 そうしてクラウディアの座った長椅子へ、がっと乱雑に片足を乗せる。クラウディアを露骨に追い詰めるような体勢のまま、低い声で言い放った。


「出て行け。お前の入室を許した覚えはない」

「だって、私は魔法が使えないのだもの」


 クラウディアは敢えてこの世界のノアを怒らせるよう、とびきり優雅に微笑んだ。


「可愛い従僕がいてくれないと、自室の暖炉に火も付けられないわ」

「……」


 これは何も、クラウディアのノアだけを指している言葉ではない。


(この一週間の間、レオンハルトは日中を不在にして、夜だけ城に戻って来ているのよね)


 クラウディアはその間、城内にぽつんと放置されている。


(レオンハルトがいない間、この城には誰の気配も無いわ。レオンハルトの魔法によって、城内の環境は維持されているようだけれど……)


 とはいえこれは、不自然な状況だ。


「……この部屋に掛けているのと同じ魔法を、お前に与えた部屋にも掛けてやる」


 クラウディアを見下ろす黒曜石の双眸が、緩やかに伏せられる。


「それで満足か? 分かったら出て行け」

「あら? いまはあなたが私の前に立って、通せんぼしているのよ」


 クラウディアはくすくすと笑ったあと、長椅子に乗せられた靴の先に触れた。


「お行儀の悪いことをして、いけないあんよね。めっ」

「…………」


 わざと幼子のように接すると、この世界のノアは怪訝そうに眉根を寄せる。


「俺よりも年下のくせに、子供扱いをするな」

「まあ!」


 その言いようが新鮮で、クラウディアはますますおかしくなる。


「あなたより年下。私が?」


 クラウディアに笑われたのが不可解だったのか、彼はますます眉間の皺を深くした。


「……間違ってはいないだろう。アーデルハイトが死んだのは十八歳で、お前の今の肉体も、十六歳のもののはずだ」

「ふふっ、そうかしら? そうなのかもしれないわね。だっていまのあなたは確か、十九歳なのだものね?」

「……」

「けれど、まさかノアが私に対してお兄さんぶるなんて……あら」


 うっかり間違ってしまったので、クラウディアは自らの口元を手で押さえた。


(私のノアとは違うのだと。――分かっていても、ついつい呼んでしまうわ)


 目の前に立っている青年は、ノアとは違う運命を辿ったのだ。


 同じ人間であっても、同じ人間ではない。

 クラウディアのために生きる信念を貫く従僕と、ここにいて、まったく異なる信念のためにクラウディアを捕らえたらしき青年は異なるものだ。


「……アーデルハイト」


 レオンハルトは、クラウディアのことを見下ろしながら問い掛けてきた。


「ノアというのは、お前が好いている男か」

(……ふうん?)


 彼の言葉が興味深くて、クラウディアは目を細める。


(意外なことを、質問して来たわね)


 ひょっとしたら、クラウディアを揺さぶるための人質に使おうとしているのかもしれない。


 あるいは別の関心からくるものだろうか。

 けれどもクラウディアの持っている感情を、本物のノアよりも先には聞かせられない。


 だからクラウディアは人差し指を立て、それをくちびるの前に添えた。


「ごめんね。レオンハルト」


 上目遣いに首を傾けると、悪戯をするときの気持ちで微笑む。


「そのひみつを教えてあげるのは、ノアにだけなの」

「――――……」


 レオンハルトは舌打ちをして、長椅子に乗せた足をどけた。



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