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虐げられた追放王女は、転生した伝説の魔女でした ~迎えに来られても困ります。従僕とのお昼寝を邪魔しないでください~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部1章〜

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187 後悔したこと(第5部1章・完)

 エーレンフリートは咳払いをしつつ、ノアの発言を受け流した。


「と……ともかく分かった、情報ありがとう。変化のきっかけがなんだったか、もう少し僕も調べてみる」

「必要とあらば、いつでもお声掛けください」


 そう答えたノアに頷いて、エーレンフリートがスチュアートとの議論を始める。ノアはそれを聞きながら、自身の指を見下ろした。


(あの日を境に、姫殿下に変化が?)


 眠るクラウディアに触れようと試みた機会は、あのとき以外にも頻繁にある。その結果として血を流すのも決まりきった流れであり、特にいつもと違うことはなかったはずだ。


(…………)


 その手をぐっと握り締め、ノアは以降も引き続き、会議の内容に耳を傾けるのだった。




***




「それにしても、立派になったなあ坊主!」

「ファラズ殿は相変わらず、ろくでもない大人でいらっしゃるようで」

「十九歳になっても口が減らねえ……」


 クラウディア蘇生のための会議が終わったあと、ノアはアシュバルの臣下であるファラズと共に、賓客の侍従が待機するための部屋で過ごしていた。


 現在アシュバルとスチュアートは、クラウディアの父との会食を行なっている。スチュアートは青い顔をしていたが、やはり同盟国の王族として、ここで歓待を受けない訳にもいかないようだ。


 アシュバルの国とこの国の同盟は、クラウディアの仮死後に成立した。

 先ほどのアシュバルのように、そういったことがノアの功績だとする意見もあるが、ノアはすべてがクラウディアの紡いだものだと考えている。


「ファラズおじさんとの一年半ぶりの再会を、喜ぶ気は無いのかねえ」


 大袈裟に嘆くファラズとは、確かにしばらく顔を合わせていなかった。その理由は、かの国の王室の環境が変化したためである。


「ナイラ妃殿下と王太子殿下は、お元気で過ごしていらっしゃいますか?」

「王宮はお世継ぎの愛らしさに夢中だよ。大騒ぎだが、悪くない賑やかさだな」


 身重の妃を残して外交に出なくてはならないアシュバルのために、腹心のファラズが王宮に残った。そのため、アシュバルが定期的にこの国を訪れるのに対し、ファラズとは滅多に会うことがなかったのだ。


 ファラズはひょいと肩を竦め、椅子の肘掛けに頬杖をついた。


「いまのアシュバル陛下は、立派なひとりの人間だ。シャラヴィアは本当に、お前とお前のお姫さまに感謝している」

「……痛み入ります」


 クラウディア蘇生の方法やレミルシア国を探るだけでなく、他国で見付かった呪いの破壊に関しても協力を要請したことがある。

 ノアひとりの力では、クラウディアの望みを全て叶えることは出来ないのだ。


「お前、やっぱり後悔してるだろ」


 ファラズの問い掛けに、ノアは顔を上げた。


「三年前に、ファラズ殿が仰った件ですか」

「ははっ」


 ファラズはその目を眇めるが、それは何処か見守るようなまなざしだ。


「すぐに思い当たるってことは、やっぱり図星か」

「…………」


 失言だったかと眉を顰める。ファラズの言う『後悔』とは、かの国に滞在した際に指摘された内容だ。


『お前、その主人に懸想しているのか』

『早めに認めないと、いずれ後悔することになるかもしれないぞ?』


 あのときのノアは、はっきりとファラズにこう告げた。


『――俺の恋慕は、あのお方の望む生き方の邪魔になる。だから、これは懸想の類ではありません』

『そのような後悔など、するはずも――……』


 あのころは、クラウディアがこうして目覚めなくなることを想像すらしていなかった。

 ノアの沈黙に、ファラズがふと思い至ったような顔をする。


「……まさか、ディアさまが眠っちまう前に伝えたのか!?」

「伝えていません。妙な勘違いをしないでいただけますか」


 すぐさまファラズの言葉を遮るものの、ノアは僅かに視線を逸らした。


(…………だが)


 クラウディアが眠りにつく前に、口付けをした。


 あのときの自分の行動は、従僕としての一線を超えたものだ。

 言い訳して正当化するつもりはないのと同時に、未熟だったという自省はある。しかし、あれを悔いているかと問われれば違う。


(あのお方は必ず目を覚ます。そのときは……)

「……気付いてないみてえだけどな、坊主」


 ファラズは小さく息をつき、相変わらずノアを見守るような目をしていた。


「三年前は、懸想しているのかという問い自体をはっきり否定したが。今のお前さんが否定したのは、伝えてないという一点だけで……」


 とはいえファラズのそんな言葉は、ノアの耳には入らなかった。ちょうどそのとき扉の向こうから、部下の大声が聞こえたからだ。


「――失礼いたします、ノア隊長!! ファラズさま!!」


 扉が弾くように開かれる。ノアの部下はすぐさま礼の形を取ると、緊張した面持ちで口にした。


「エーレンフリートさまよりご伝言が。先ほどの会議後、レミルシア国に潜り込ませた諜報から情報が入りました」

「話してくれ」

「は。かの国は、恐らくすでに戦争の準備をしています……!」


 その言葉が意味することに、ノアは静かに眉根を寄せた。


「レミルシア国は間もなく、このアビアノイア国に攻撃を仕掛けてくる見通しかと――……」




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第5部2章に続く

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