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18 最初のお披露目


 言葉にした訳ではないものの、ノアもそのことを察したらしい。ノアは、静かにカールハインツを睨み付ける。


「姫さまに魔力がある事実を、あなたが王室側に漏らしたということは?」


 抑えた声音ではあるものの、カールハインツへの強い警戒心が感じられた。

 筆頭魔術師を相手に、九歳の少年とは思えない胆力だ。ノアは、従僕となることを誓って以来、あらゆる場面でクラウディアを守ろうとしてくれる。


 それを感じ取っているらしいカールハインツは、ノアに対しても誠実に答えた。


「陛下には、『姫殿下は体調を崩しており、魔力測定や王都への転移が出来る状態ではない』とご報告済みだ。私自身、疑わしい行動を取らないように自戒している」

「……信用しきれません。正妃を煽ることで、姫さまを王都に向かわせようとしている可能性もある」

「そのようなことは、誓って有り得ない」

「本当に? あなたは……」

「いいわ、ノア」


 ノアの服をきゅっと掴んで止めつつ、クラウディアは平然と言ってのける。


「義理のおかあさまは、わたしが元気になるまえに、ころしておきたいのでしょう」


 カールハインツが目をみはる。だが、実の叔父に殺されかけたことのあるノアも、よくあることだという顔で頷いた。


「では、どうしますか」

「そうねえ。お迎え、追い返しちゃっても、いいのだけれど」


 先ほどの魔術師たちは、正妃の私兵だろう。

 その力は、クラウディアはおろか、カールハインツが連れていた部下の魔術師たちにも到底及ばないようだ。


 あの程度なら、数秒で全員制圧できる。

 だが、クラウディアが気に入らないのは、この村の人々に余計な手出しをしようとしている点だった。


「……姫殿下?」

「カールハインツ。わたし、このあそびばを、とーっても気に入っているの」


 なにせ羊たちはもこもこだ。

 村人たちは朗らかに、クラウディアとノアを可愛がり、素敵な食べ物をたくさん分けてくれる。


「自分のおにわを荒らされるのは、だいきらい。……だからね?」

「――!?」


 クラウディアは、にっこりと極上の笑みを浮かべた。


 カールハインツが身を強張らせ、ノアが額を押さえている。そんなことは知ったことではなく、決定事項を口にした。


「行くわ。おとうさまのところへ」

「姫さま……」


 面倒だが、ここは仕方がない。

 クラウディアは伏し目がちに、くすくすと笑いながら宣言する。


「わたしが、魔力のない『かけている』王女だと、かれいに証明してみせましょう」




***




 その日、王城には、大勢の参列者が集まっていた。


 生まれてすぐに城を出されて以来、一度も公の場に出てこなかった六歳の王女クラウディアが、再度の魔力鑑定をすることになったのだ。


 そして今回の鑑定は、多くの第三者を入れた上で、王城内の聖堂にて行われると決まっていた。


 とある神官が、『測定の不正がないよう、衆目の中で測定をするべきだ』と進言したためだ。

 特に王女クラウディアの場合、鑑定は生まれてすぐに極秘で行われていたため、再鑑定は慎重を期すべきだろうという判断だった。


 国王はそれを認め、正妃や王子、王女たちの他に、この国で高位の爵位を持つ貴族たちを聖堂に集めたのだ。


 着席した三十人あまりの貴族たちは、お互いに注意深く声を潜め、二階席の王族には聞こえないようにしながら囁き合った。


「ここに来て、わざわざ六歳の姫殿下に関する魔力鑑定とは……。国王陛下は次の戦、よほど本気であらせられると見える」

「戦力をお求めとはいえ、わざわざ王族の中から探す必要がおありなのだろうか? 我が息子の方がよほど、陛下のお役に立てるはずだ」


 中にはこんな風に、国王の行動に対する噂話をする貴族たちもいる。

 けれども噂の大半は、王女クラウディアに対する、蔑みと嘲笑の混じったものだった。


「クラウディア殿下の母君は、孤児出身の踊り子だというじゃないか。いいや、歌姫だったか? 卑しい身分には変わりないが。いかに陛下の御子といえど、そのような血が混じっているのではな」

「出入りしていたメイド経由の話では、醜く痩せこけたみすぼらしい姫だったというじゃないか。言葉も滅多に話さず、ぼんやりとして……」

「ははは、私はお可哀想だと思うがね。まともな作法も身に付いていない姫君が、このような場所に引っ張り出されて。ろくな後ろ盾も無いのだろう?」

「そうさ。このあとの子供たちだけの茶会で、僕は息子に言い聞かせているのだよ。クラウディア姫殿下にやさしくしなさい、ろくに挨拶が出来なくても笑ってはいけないよ、と」


 そんな話し声も、聖堂の一枚目の扉が開く気配と共に小さくなる。


「さあお目見えだ。『欠けている』姫殿下とやら、どのようなものかな」

「緊張して、みっともなく泣き喚かなければいいがね。どれ……」


 けれどもそんな貴族たちは、聖堂の内扉が開かれた瞬間、現れた少女に息を呑む。



「――あれが、クラウディア姫殿下だというのか――?」




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