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17 排除のために



 そのあとも、村を歩くノアとクラウディアの元には、たくさんの村人たちが話し掛けてきた。


「クラウディアちゃん、ノアくん! このあいだは、雨が降りそうなのを教えてくれてありがとうね。これ、鶏がいっぱい卵を産んだから持って行って!」

「よおノア。墓場に出てた魔犬の群れ、お前が魔法で追い払ってくれたんだって? 大したもんだよ。買い付けたばっかりのオレンジだ、食うか?」

「クラウディアお嬢ちゃん、見ておくれ、新しく編んだケープだよ! お嬢ちゃんに似合うんじゃないかと思ってねえ。あのときのお礼にはとても足りないけれど、どうだい、嫌いじゃなかったら」


 彼らはみんな、この一ヶ月のあいだ、クラウディアとノアがちょっとした魔法で手助けをしてきた人たちばかりなのだった。


 村人たちはふたりを呼び止めては、あれもこれもとたくさんの物を持たせてくれる。

 おかげで、どこの店に入ることもなく、ノアの抱えた籠はいっぱいになった。


 クラウディアは、ほくほくとしながらそれを見上げる。


「だいしゅうかくね。ささげものだけで、しばらく生きていけそうだわ」

「いけません。これではまだ、姫さま分の野菜が足りませんので」

「……きこえなかったかしらノア。わたし、これだけでしばらく生きていけそうよ……?」

「可愛らしいお顔で、瞳を潤ませながら見上げても駄目です」


 ノアはきっぱりと言い切った。クラウディアがわざと子供らしくくちびるを尖らせていると、大きな溜め息が聞こえてくる。


「中身は十六歳の大人なんですから、ガキみたいな好き嫌いをしないで下さい」

「ノア、おぼえておきなさい。おとなになっても、キライなたべものはキライで、おいしくないものはおいしくないのよ」

「大人気が無さすぎるでしょう……」


 そんな話をしつつも、クラウディアはぴたりと足を止めた。

 視線の先に、魔術師らしきローブを纏った数人の男たちがおり、なにやら村人と話し込んでいたからだ。


「だから、分かってくれよお役人さんたち。王城からの遣いだかなんだか知らねえが、あの森には魔物がうじゃうじゃいるんだぞ」


 その言葉に、魔術師はふんと鼻を鳴らす。


「そのようなことは分かっている。だから、森の中を案内出来る人間を探していると言ったんだ。直接転移をしようにも、何故かここ一か月ほど、塔の場所が正確に掴めなくなっているからな」

「無理を言わんでくれ! お強い魔術師さんはともかく、この村の人間が迂闊に近付いたら、何かの拍子に襲われてもどうにもならねえ!」

「我々が警護してやる以上、なんの問題もないだろう? 分かったら、三日以内に必ず一名、案内人を選出するように」

「いくらなんでも、横暴な……」


 抗議する村人に対し、魔術師のひとりは、強い語調でこう言った。


「――これは、王室からの命令だ」


 その瞬間、村人たちの顔色が青くなる。


「お、王室!? 王さまが、そんなことを命令してるっていうのか?」

「分かったら大人しく従うことだ。いいな、三日だぞ」

「そんな……!! 魔術師の警護があるったって、本当に守ってもらえる保証もねえのに……」


 村人たちは互いに顔を見合わせ、狼狽えている。

 ノアは、チーズや蜂蜜、卵などのいっぱいに入った籠を抱えたまま尋ねてきた。


「姫さま。あれは、あなたを無理矢理に迎えに来た手合いでは?」

「……いいえ。あれはきっと……」


 まったくもって、面倒なことだった。ほくほく気分が台無しにされて、クラウディアは少々機嫌が悪くなる。

 そこに、魔力の気配が発生した。


「――失礼いたします。姫殿下」

「カールハインツ」


 背後にその男が現れると同時に、ノアがすかさず、クラウディアを庇う位置へと立つ。

 カールハインツを見上げて、クラウディアはむすっとした表情で言った。


「このむらで、わたしにちかづいてはダメと命じたはずよ」


 クラウディアを迎えに来て以降、カールハインツは、ここではない別の村に一か月ほど留まり続けている。

 カールハインツは長期滞在の理由として、『姫殿下を王都へお連れするまでは帰れません』と説明していた。しかし、


「ご覧の通り、悠長なことを言っていられない事態です。――あの者たちは、国王陛下の遣いではございません」


 ノアが少々驚いたようだが、クラウディアは薄々分かっていた。


 子供の魔力測定をしたいだけの父親が、あんな手合いを向けて来るとは思えない。

 どちらかといえばあの魔術師たちは、邪魔者を排除したがっている人間の空気を纏っている。


(恐らくは、私を追放した正妃の遣いね)


 あれは、クラウディアを殺したい魔術師たちだ。





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