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132 大喪の儀(プロローグ)

【プロローグ】




 レミルシア国の国王は、あるときから壊れてしまっていた。


 元より王の器では無かったのだと、臣下たちは囁きあったものだ。

 その王は自らの兄を憎み、クーデターによって継承権を剥奪した上で、そうやって王になったのである。


 けれどもあるときこの国に、オパール色の瞳を持つ『魔女』が訪れた。


 すべての魔法の性質が込められた瞳を持つ『魔女』は、黒髪の青年を従えていたそうだ。

 レミルシア国の王はその青年と対峙した際に、魂を削り取られたのだという。


 そのことを知る国民は居ない。けれども城内の面々には、その出来事を知っている者が残っている。


 あれから七年が経ったいま、レミルシア国は大きな転換期を迎えようとしていた。


「――国王陛下が崩御なさった」


 レミルシア国の筆頭魔術師が、玉座の間でそう言い放つ。

 居並ぶ高官たちの表情に、動揺や困惑の色は見えない。かの王は最早レミルシア国にとって、邪魔になる飾り物でしか無かったのだ。


「陛下亡き今、我らの国を統べるはただおひとり。慣例に則り三年の喪に服したのち、このお方が王位を継承なさる」


 黒いローブに身を包んだ魔術師は、ひとりの青年を振り返る。


「ジークハルト殿下」

「……」


 王太子ジークハルトは頷くと、ゆっくりと前に歩み出た。


 貴族ばかりで構成された高官たちは、すぐさまジークハルトに跪く。

 彼の父が存命だったころからずっと、この城の実質的な『王』は、十五歳の王太子ジークハルトなのだった。


「父が在位している間、お前たちには苦労を掛けた。若輩の俺を支えてくれたこと、礼を言う」

「王太子殿下。なんという、勿体なきお言葉……!」


 この場に揃った高官たちは、ジークハルトの言葉を受けて身を震わせる。彼らを労う微笑みを浮かべたジークハルトは、すぐに表情を引き締めた。


「ここからだ。三年間の御禊の儀をもって、俺は父からすべての力を継承できる。そうすることで、初代国王ライナルトの力を得た暁には――……」


 黒曜石の色をした目を眇め、ジークハルトが彼らに告げる。


「この国は、どんな強国をも滅ぼす力を手に入れるだろう」

「ああ、我らが王よ……!!」


 そしてジークハルトは、筆頭魔術師に命じるのだった。


「結界を張る準備に移れ。全国民に通達が終わり次第、この国へのすべての出入りを制限する」

「服喪期間の国境封鎖は、以前より知らしめてあったこと。有無を言わさず、これより塞いでしまってもよろしいのでは?」

「混乱は最小限に抑えてやりたいんだ。いまから三年後に起こることは、民にとっても影響が大きいだろう?」

「……仰せの通りに」


 筆頭魔術師の一礼に、ジークハルトはふっと笑った。

 高官たちはすでに動き始め、各々の配下に指示を飛ばしている。それを眺めながら腰を下ろした玉座は、壊れてしまった父が存命中は、触れることが出来なかったものだ。


「準備が出来たら娶りに行く。……待っていろ、アーデルハイト」


 それから脳裏に描くのは、かつて対峙したことのある血縁の青年だった。


(ようやくお前から、アーデルハイトを取り戻すぞ。レオンハルト)




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第4部 開始

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