096-6-1_始動!
午後になって、男爵と一緒にレピ湖の様子を見に行く時間が近づいた。
レピ湖に行くのは男爵とローラ夫人、そして、イリハとラヒナ。それに、モートンとアリサだ。アムも一緒に行くらしい。まずは、僕とヴィース、カリスの三人でレピ湖の湖底に設置した黒い魔石の仮置き場に向かい、まとめて浄化を行う。それが済んだら、一気に、魔石を岸辺に転送するのだ。湖底の仮置き場には、既に大量の黒い魔石が積み上げられている。その影響で、そこは危険地帯となっているはずだ。現在は、ヴィースの配下である首長竜に魔獣が近づかないよう警戒してもらっているけれど、速やかに浄化を行わなければ、また、影響が出かねない。早く浄化を済ませてしまおう。
男爵達は、馬車を使い湖畔まで来ることになっている。僕たちの作業が終わるころに、湖畔で合流する予定だ。一方、セシリカは先物取引の準備があると言うことで、この後、ローズ男爵屋敷に戻ることになった。
彼女は、数日の後、王都に向かう。ボズウィック男爵の資金は王都のローズ男爵事務所で引き渡すことにしたようだ。もちろんだけど、この計画は、慎重な行動が求められる。敵に知られてはいけないし、相場師に悟られるような目立った動きは厳に慎まなければならない。それに、セシリカの身に何かあっては元も子もなくなってしまう。そこで、念のために、彼女にはさりげない護衛を付けることにした。とは言え、最強の護衛だ。
セシリカの護衛は、エイルとククリナにお願いした。エイルがいれば、離れていても双方向の連絡が取れる。それに、上手く敵陣営に忍び込むことができれば、敵の様子を探ることだってできるだろう。エイルは小さいけど、頼れる妖精だ。そして、ククリナだけど、彼女の能力はまだ良く聞いていない。だけど、彼女は蛇だから、もしかしたら土系魔法が得意なのかもしれない。それに、ヴィースと同じ精霊に進化しているので、戦闘能力はかなり高いと思う。ククリナの強さが竜種並みだとすると、彼女が暴れれば王都クライナが崩壊するってことだ。
災害級だね。
時間になって、みんなが玄関ホールに集まったようだ。先に出発するセシリカとククリナをみんなで見送ることになっている。そして、エイルを呼び出すことにした。
「エイルっ! お願いっ!」
そう言うと、目の前の空間で小さな光が弾けると、一瞬でエイルが現れた。
「ハァーイ! 美人妖精のお出ましよっ!」
「そうだね」
リアクション薄くてゴメン。しかし、案外、初めての面々には受けがいいようだ。
ローラ夫人が言った。
「まぁ! 可愛い妖精さん!」
すると、エイルは、「もっと、褒めてもいいわよ」と言って、ローラ夫人の周囲をぐるぐると回ると、二十体に分身し、それぞれのエイルが光の粒を出しながら、みんなの間を飛び回った。
「うわぁっ! 綺麗っ!」
イリハが、エイルを目で追いかけながら、大喜びになってそう言った。エイルは、ひとしきり飛び回ると、今度は二体になって片方の一体がラヒナの肩に止まった。ラヒナは、イリハにエイルを紹介して、二人は楽しそうに話し始めた。そして、もう一体のエイルが目の前にやってくると、ホバリングしながら聞いてきた。
「エリア様、私、どうすればいいの?」
「そうだね、五体くらいセシリカとククリナに着いて行ってもらえると助かるよ」
エイルにそう言うと、彼女は、「いいわよ」と言って六体に分身した。そして、その内の一体が肩の上に乗り、残りの五体がセシリカとククリナのところに集まった。
出発の準備が整ったセシリカ達に、男爵が言葉を掛けた。
「ククリナ様、エイル様、そして、セシリカ女史。それでは、よろしく頼みます」
セシリカが、「はい!」と緊張して返事をすると、エイルは一体になって、「私に任せなさいっ!」と言って宙返りをした。そして、ククリナは僕に向かって、「帰ったら、ご褒美下さいね」と満面の笑顔だ。
ご褒美? その笑顔、怖いんだけど……。
彼女たちは手を振りながら、ククリナの転移魔法で消えていった。もう、アトラス派にやられっぱなしは終わりだ。
次は、こっちのターンだよっ!
ーーーー。
彼女たちをみんなで見送った後、レピ湖にヴィースと二人でやってきた。時間は、既に正午を過ぎている。
浜辺からレピ湖を眺めていると、目の前にカリスが片膝を付いて跪いていた。
おおっ!?
「カ、カリス? 今、どこから出てきたの?」
そう言うと、ヴィースが言った。
「こやつは、今、湖の方から走って来ました。スキル高速移動を使って」
ヴィースには見えてたんだ? スキル高速移動か。カリスの移動技って凄いね!
「カリス、ご苦労様。大変だったでしょ?」
そう言うと、カリスは立ち上がり、平然と言った。
「大した事ではありません。既に作業は終わっております」
カリスはそう言うと、「直ぐに向かいますか?」と聞いてきた。
「ああ。直ぐに行こうか」
そう言って、カリスの転移魔法で仮置き場の現場に向かった。水の中では、魔力を操作することで呼吸する必要もなく、また、身体が直接水に触れることも無い。そのため、地上にいるときと同じように、手足を動かしても水圧や水の抵抗の影響はゼロだ。こういう時こそ、魔法の有難さを実感する。
カリスが転移したのは、現場を見下ろすことが出来る湖底の崖の上だった。どうやら、ここは、湖底の最深部であるらしい。辺りは太陽の光が届かない真っ暗な場所なため、魔力感知を行って周囲の状況を把握しているけれど、やはり、視覚も使えるようになる方が作業がしやすいだろう。そこで、魔法ライトを照らして現場全体を明るくさせた。すると、たちまち昼間のような明るさとなり、周辺の様子を視覚でもはっきりと確認することができた。今立っている崖は、湖底からの高さが二十メートル程の場所だ。
崖の下を見ると、湖底は、直径が五十メートルほどの、スプーンでカットしたような窪んだ形状をしていた。そして、その中心部分には泡の塊が小山となって盛り上がっている。
カリスが念話で伝えてきた。
「黒い魔石は、私のバブルシールドで周囲を覆っておりますが、十分な効果ではありません」
確かに、ネガティブなエネルギーが周囲に漏れ出している。しかし、あの泡が無ければ、さらに周囲への影響は大きくなっているだろう。
「カリス、よく、ここまで頑張ってくれたよ」
流石はカニの棟梁。いい仕事だっ!
それにしても、湖底の窪みにはとてつもなくネガティブなエネルギーが溜まっているようだ。
これは酷いね。こんなにたくさん捨てられていたのか? 何にしても直ぐに浄化だな。
「ヴィース! お願いっ!」
ヴィースに念話で話すと、彼は、両手を上に翳し、魔法を放った。すると、窪んだ湖底の縁から水流が発生し、それが中央に集まってくると、大きな渦が立ち上がった!
そこに、浄化魔法が加わって、大きな渦は明るい緑色に輝き出す。渦はぐんぐんと回転速度を増していき、さらに高さを増していく。カリスのバブルシールドは、激しい水流に飛ばされて消えてしまった。しかし、渦を巻く緑色の水流は、外側から中心に向かって流れるように調整してある。
おおっ! これが、ウォータートルネードかっ!
流石はヴィース、渦の形状が美しい。魔力コントロールも完璧なようだ。そして、すかさず、浄化魔法を放った。
「プリフィケーションっ!」
この魔法は、魔石の浄化を行うため特別に作った魔法だ。あらかじめイメージの中で完成させていた。人工魔石の内部にあるネガティブなエネルギーを吸い取り、中和させて清浄な水へと変換させるのだ。
水の中ならではだね。
渦の柱は、ヴィースのコントロールにより黒い魔石を周囲に飛び散らせることもなく、魔石はまるで木の葉のように回転しながら上昇していく。そして、魔石たちはその間に浄化されていくのだ。
黒い魔石は、浄化の瞬間に、一瞬、光を放ち渦の柱がキラキラと輝いていた。
「よし、仕上げと行くか」
そう言って、渦の頂点に転移窓を出現させ、男爵が用意してある浜辺の魔石集積場所へと空間を繋いだ。渦の上まで上昇した魔石たちは、そのまま転移窓を通り、次々と転移して行く。そして、最後の魔石が浜辺へと飛んで行くと、ヴィースは魔力を止め渦の柱はかき消えた。辺りの湖水は、何事も無かったかのように落ち着き、湖底の窪みは静寂を取り戻した。
「いいみたいだね」
ヴィースとカリスに念話で話すと、二人ともホッとしたように、「お疲れさまでした」と伝えてくれた。
「じゃぁ、浜に戻ろうか」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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