094-5-20_森の病気(挿絵あり)
「斑点病?」
どこかで聞いたような……。あっ、そうだ、アムがそんなこと言ってたか。確か、神威の里の近くで起こったという話だった。
「アムから聞いたよ。神威の里があるツンドラ大森林でそんなことがあったと言っていたけど」
「斑点病は、森の木々が一定の範囲で、突然、枯れてしまう現象でな、その名の通り、その場所が斑点のように伝染して広がっていくのだ。実はな、中央山脈の麓の森を始め、クライナ王国各地の奥深い森で起きておるが、その原因は分かっておらん。今のところ直接的な被害は無いが、いずれにしても、森の自然環境に異変が起きておるのは確かだ。レピ湖は水の精霊様がいらっしゃったほどの力があった訳だが、今はいらっしゃらなくなった。そして、ククリナ様の住まわれるイグニス山の神池にしても、その神聖な力を失うところであった……」
男爵の言いたいことは、何者かによって、意図的な自然破壊が行われている疑いがあるということだった。それも、自然エネルギーが強い場所、精霊が存在できる場所でだ。
男爵は話を続けた。
「自然の中で、精霊の力が弱まれば、その恩恵で生きている人間の力も弱まり、いずれ国は亡ぶであろう。そして、王位継承者の命が狙われ、王宮が混乱しておる。今回、黒い魔石の出現で、いろいろなことに繋がりがあるように思えてならん。ワシらこの国の者は、アトラス派も含め、アトラス共和国に踊らされておるやもしれん。エリア、今後、この事を心に留めておいてくれんか?」
ここまで来ちゃうと、もう、国家間の戦争にでもなりそうな話だよね。それにしても、男爵の視野は広く、常に大局を見ようとしている。男爵の言うとおりかもしれない。
貴族の派閥争いの話からアトラス共和国の陰謀論まで話が進んでしまった。しかし、当面は、ローズ男爵がクライナ王から赦免されるために力を尽くさなければならない。
男爵が、「話が少し反れてしまったな」と言って、話を第二王女の怪我の件に戻した。
「皆に、我が国の抱える事情と貴族の派閥争いについて聞いてもらったわけだが……」
男爵がそこまで言いかけると、今までみんなの話を聞いていたローラ夫人が、突然、言葉を差し込んだ。
「あなた、第二王女様の件については、私にも意見を述べさせてください」
ローラ夫人がそう言うと、男爵は言葉を途中で止め、「頼む」と言って、ローラ夫人を促した。
ローラ夫人は、軽く男爵に会釈をすると、こちらを向いて話し始めた。
「エリアさん。今、第二王女様をお救いできるとすれば、エリアさんしかいないと私は考えています。エリアさん、少し、私の話をお聞きくださいませんか?」
ローラ夫人はそう言って話し始めた。
「私は、以前王宮で、王妃様にお会いし、ほんの少しですが、王妃様とお話をさせていただいたことがあります。その時、王妃様は第二王女様をお抱きになられ、『女性にとって厳しい時代だからこそ、この子には、自らの決断で自らの道を歩いていくことのできる女性となるよう育てたいのですよ』とおっしゃっておられたのです。そのお言葉を聞いて、女神セリア様の教えに通じるものと、とても感慨深くお話をうかがっておりました。王妃様のことは、子を持つ母としても、尊敬をしておりましたが、立派なお考えに大変感銘を受けたことを憶えております……」
ローラ夫人はそう言うと、将来、第二王女は、国王にならなくとも、この国の女性たちの支えになってくれる人物になると話を締めくくった。男爵は、何も言わずローラ夫人の話を聞いていたけれど、ローラ夫人が話し終わると、その話に付け加えるように言った。
「アトラス派の後ろ盾であるアトラス共和国は、この国以上に男性優位が顕著な国だからな。アトラス共和国の横やりが進めば、この国は、女にとって益々困難な国になるだろう」
そうなのか。アトラス共和国は、ものすごく男性優位社会なんだね。
すると、今まで黙って話を聞いていたククリナが話しを始めた。
「エリア様、私は本来、性別などございませんが、この姿になっておりますのは、女性としてエリア様のお力になりたいがためでございます。エリア様がご降臨なされたことで、他の精霊たちも騒めいておりますわ。お心のままになさってください」
ククリナは、僕の背中を押してくれているんだ。彼女も精霊だから、僕が転生した目的を理解しているようだしね。第二王女の回復は、この世界の両性のバランスを取り戻すことにつながると言いたいんだろう。それなら、とりあえず第二王女に会ってみてもいいかもしれない。
「男爵様、どうなるか分からないけど、僕を、第二王女様に会わせてくれないかな?」
そう言うと、男爵は真剣な表情をして言った。
「そうだな。ローズ家事件へのアトラス派の関与が明確となった今、レイナードにもたらされたライラ嬢の居場所情報は、アトラス派の罠の可能性が高まった。しかし、レイナードをいつまでも待たせては置けんだろうし、ローズ男爵殿の赦免が叶うならばライラ嬢も合法的に救出できるはずだ。その為には、第二王女様をお救いしなければならん。あまり猶予はないかもしれんな。エリアよ、ワシに力を貸してくれるか?」
男爵はそう言って僕を見た。
「もちろんだよ」
第二王女を救えるかどうかは、彼女に会ってみないことには分からないけれど、とにかく、僕が第二王女に会えるよう、男爵には、王宮に根回しをしておいてもらう必要がある。もちろん、あからさまに第二王女の回復を理由にすれば、男爵であっても間違いなく怪しまれるだろう。どうやって話を進めるのか、男爵にとっても、なかなか厄介な仕事だと思う。王宮に話を通すのは骨が折れそうだ。しかし、そこは、男爵が考えることだ。僕は、僕のやるべきことをしよう。
そうして、昨日の出来事の報告会が終了した。
男爵とローラ夫人は、引き続きセシリカとククリナと共に歓談するようだ。彼女たちから、もう少しローズ家の話やローズ男爵領の話を聞きたいのだろう。後で、男爵とカリスの作業の様子を見に行く約束をして、イリハの部屋に向かうことにした。
ーーーー。
イリハの部屋の前まで行くと、楽しそうな笑い声が廊下まで響いていた。
こっちは、少女の女子会だ。楽しそうだね。
部屋をノックすると、イリハの返事が聞こえたので中に入った。すると、イリハとラヒナがベッドに座っていて、アムは、ベッドの上で、自分の尻尾を股で挟み、抱き枕のようにしていた。
「何の話してるの?」
そう言って聞くと、イリハとラヒナが手で口を押えクスクスと笑った。しかし、アムが上体を起こすと、恥ずかしそうにモジモジと肩を寄せ、聞いてきた。
「エ、エリア様。ゆ、湯あみって、ど、どんな事するんですか?」
あっ、ラヒナ、昨日、やっぱり見てたのかな?
アリサとの秘密の湯あみ。とても癒されて満たされた。アリサが優しく寄り添ってくれたから、とても安心できていて、あの昂った気持ちを落ち着かせることができた。この子たちには内緒だけど。
「今度、アムも、一緒に湯あみする?」
そう聞くと、アムは、「お、お願いしますっ!」と言って、恥ずかしそうに丸まってしまった。しかし、イリハとラヒナが、少し横にずれて、僕を真ん中に座らすと、左にいるイリハが聞いてきた。
「エリアは、アリサのおっぱい見たんでしょ? 私のときはいつもアリサは服を着ているのよ。ラヒナもそうだったって」
「うん、それでも、こ〜んなに」
ラヒナは、手振りをしながらそう言って恥ずかしそうにした。それを見てイリハがニタニタしている。そして、三人が僕に注目した。
「フフフ。昨日ね、アリサの裸……」
三人ともガン見だ。
「……全部見ちゃった!」
「キャァーーーッ! ハッハッハッハッ!」
「キャァーーーッ! ハッハッハッハッ!」
「キャァーーーッ! ハッハッハッハッ!」
子どもたちは、そうやって黄色い声を出してケラケラと笑う。
女の子は、みんな、おませさんだね。
しばらくして、湯あみの話題が終わると、次は魔法の話題になった。
イリハが僕に向かって言った。
「アムちゃん、魔法が使えるんだって。凄いよね」
「そうみたいだね。氷魔法でしょ?」
そう言って、アムに聞くと、アムが、「初級の氷魔法まで使えます」と言った。アムは、オンガという山犬精霊の加護を受けている。オンガは彼女の里があるツンドラ大森林の守護者ということだ。イリハはアムの言葉を聞いて、自分も得意げになったようだ。
「私も、魔法適性調べたのよ。私は樹木魔法の適性があるんだって。早く精霊様にお会いしたいな」
イリハがそう言うと、ラヒナが僕を見た。そうそう、ラヒナも風魔法の適性があるんだ。
「イリハ、実は、ラヒナは風魔法の適性があるようだよ。凄いね、みんな、魔法少女だね」
「へぇ~ そうなんだ。ラヒナも凄い! エリアは女神様だけどね」
イリハがすかさずにそう言うと、後の二人が、うんうんと頷いていた。
まぁ、三人とも僕の魔法は見たり体験したりしたもんね。
イリハが、「そうだっ!」と言って、書棚の所に行くと一冊の赤い表紙の本を持ち出してきた。
「ねえねえ、アムちゃん、この本使える?」
そう言うとイリハがその本をアムに差し出した。アムは、イリハから本を受け取ると、表紙をめくり頭を傾げて言った。
「これ、何の本ですか? 見たことないです。何にも書いて無いんですけど……」
ん? どれどれ。あれ、この本、どこかで……。
ーーーー
「……全部見ちゃった!」
「キャァーーーッ! ハッハッハッハッ!」
「キャァーーーッ! ハッハッハッハッ!」
「キャァーーーッ! ハッハッハッハッ!」
AI生成画像
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