091-5-17_ローズ家事件の調査報告
みんなの食べる手が止まってきたのを見計らって、男爵が話し始めた。
「さて、腹は一杯になったかな? どうだエリア? ここいらで、可愛い皆さんを紹介してくれるかな?」
「そうだね。僕から説明して、後は自己紹介してもらおうかな」
そう言って立ち上がろうとすると、アリサが椅子を引いてくれた。
「最初は、僕の右隣から、彼女は、ローズ男爵子女のラヒナだよ」
アリサが、ラヒナの椅子を引いてあげる。そして、ラヒナが立ち上がった。ラヒナは、カーテシーを披露すると自己紹介をした。
「ラヒナ・メリアル・ローズと申します。七歳です。ボズウィック男爵様、そして、みなさま、この度のご厚情に心より感謝申し上げます」
凄いしっかりした挨拶!
男爵が大きく頷くと、ローラ夫人がニッコリ笑いラヒナに手を振った。
「次に、僕の左隣りが、ローズ男爵家の会計責任者、セシリカ」
今度は、アリサがセシリカの椅子を引いてあげた。すると、セシリカが、勢いよく立ち上がる。
「セ、セシリカと言いますっ! ロ、ローズ男爵様の会計を預からせていただいて、おりますっ!」
セシリカは、直立不動で、手は横にし、指先まで真っすぐ伸びている。しかも、男爵の方を向かずに自分の正面を向いていた。
誰に自己紹介しているんだか。
男爵もローラ夫人も微笑ましく彼女を見て頷いていた。それを見て、ラヒナはボソリと呟く。
「は、恥ずかしい……」
「スカート履いているだけマシじゃないの」
「セシリカはあがり症なんです」
すると、イリハがラヒナの手に自分の手を添えて小さな声で言った。
「誰も気にしないって」
「あ、ありがとう、イリハちゃん」
この二人は、もう打ち解けてるみたいだね。さて、次は……。
「その隣が、イグニス山の……ククリナ」
う〜ん、ククリナを何て紹介していいか、悩んじゃうよね。
すると、ククリナはアリサの椅子を引くタイミングにぴったりと合わせ、スッと立ち上がった。男爵のククリナを見る目が緊張している。
ククリナが話し始めた。
「エリア様。また、私の紹介が雑ですわ。別に素性をオープンにしても良いのでしょう? そこには水竜も澄まして立っておりますし、問題ございませんわね、男爵様?」
あらら、言っちゃった。そこはオブラートに包んでいたのに、どうすんの、男爵様?
男爵の方を見ると、目を閉じてテーブルに肘をついていた。聞こえない振りでもしようとしてるのだろうか。
もう諦めてよね。
ククリナは男爵の様子に構わず、話し始めた。
「私は、エリア様の眷属、ククルカンのククリナですわ。そして、エリア様をお慕いしておりますので、こちらまで着いてまいりました」
男爵が、小声で聞いてきた。
「エ、エリアよ。ク、ククルカンとは何だ? 聞いたことが無いのだが」
「聞かない方がいいんじゃないの? ヴィースとよく似たもんだよ」
「そ、そうか。そうだな」
男爵はそう言って、ククリナに思いっきり愛想笑いをした。ククリナは、少し頭を傾げ、ニッコリと微笑んで、男爵の愛想笑いに応えていた。
ククリナって、笑うと、ホント可愛い少女に見えるよね。何も話さなければだけど。
ローラ夫人は相変わらずの笑顔だ。イリハはラヒナと一緒にククリナを珍しそうに見ていた。そして、最後はアムだ。
「彼女は、山犬族の戦士、神威の里のアム」
アムは、アリサに椅子を引いてもらうと、緊張する様子もなく、立ち上がって言った。
「あたしは、北部、ツンドラ大森林の山犬族、神威のアム・ニタイですっ! エリア様のお供としてまいりました」
「ほぅ、山犬族とは、また珍しいお客だな。ワシは会うのが初めてだ」
「本当ですね。それで、アムさんは今、おいくつなの?」
ローラ夫人がアムに年齢を尋ねる。
「はい、あたしは十一歳です」
「そう。じゃぁ、イリハとも仲良くしてやってくださいね」
「は、はい!」
アムのしっぽが揺れている。それに一番反応しているのはイリハだ。イリハの目は好奇心に満ちている。
もしかして、イリハも山犬族を見るのが初めてなのかな? 凄く興味深そうに見てるけど。アムは十一歳って言ってたけど、耳モフだからもっと幼い少女に見える。イリハとも友達になれそうだね。
一応、こちらの自己紹介が終わった。続いて男爵家の紹介をして、本題の話をする雰囲気になった。
男爵が、「さて」と言って、話を始めた。
「エリア、いろいろ聞きたいことが有り過ぎてな。何から聞けばよいのか分からんのだが……」
「一番聞きたいのは、僕が、昨日、大人になっていたことでしょ?」
「ゴホッ、ゴホッ!」
そう言うと、男爵はわざとらしい咳を二つしてから、背筋を伸ばすように、座り直した。それを見て、ローラ夫人が口を手で隠し、笑っている。イリハはジト目になっていた。
「お父様ね、エリアが大人になっちゃって、恥ずかしいからって、いつもよりもちゃんとした恰好してるのよ。でも、さっき、モートンからエリアが元に戻ったって聞いて、ちょっとがっかりしちゃったみたい」
男爵は、「ん、んんっ!」と、また、咳ばらいをした。すると、ローラ夫人が夫への助け舟を出した。
「エリアさん。あんなに美しく成長したお姿になって、心がときめいてしまいましたわ。だから、主人もきっと、私と同じ気持ちなのでしょう」
そう言って、クスクスと笑った。そして、ローラ夫人は話を続ける。
「でも、エリアさんは、どうして、大人になったり元に戻ったりしたのでしょうね?」
「それなんだけど、僕にも良く分からないんだよね。とりあえず、昨日あった事を、最初から話すよ」
そう言って、ローラ夫人と男爵に昨日の出来事を話し始めた。
ーーーー。
「なるほど、そんなことが……」
男爵は、いちいち感心しながら話を聞いていたけれど、僕が大人になった時の話をしたときだけは無口になっていた。
裸になっちゃった事は黙ってよう……。
しかし、一通り最後まで説明した後は、ダイニングルームが少し重たい雰囲気になっていた。男爵は腕を組み、目を閉じて、「う~ん」と唸っている。その時、ローラ夫人がイリハに向かって言った。
「イリハ。ラヒナさんにお屋敷をご案内して差しあげなさい」
ローラ夫人がそう言うと、イリハが嬉しそうに、「いいの?」と言って、ラヒナに声を掛けた。
「ラヒナ、私の部屋を見せてあげるわっ! 一緒に行こうよ!」
イリハはそう言うと椅子から降りて、ラヒナに手を差し伸べた。ラヒナは、一瞬、戸惑ったような顔をしてセシリカの方を見ると、セシリカはにこやかにラヒナに微笑んだ。それを見て、ラヒナも笑顔になって返事をしイリハの手を取った。
「うんっ!」
「ヤッター! じゃぁ、アムちゃんも一緒に行こうよ!」
「あたしもいいんですか?」
そう言って、彼女が僕を見る。
「アムも行っておいで」
「分かりました!」
「エリア、あなたも後から来てよねっ!」
「分かったよ、イリハ」
そうして、子どもたちが部屋を後にした。すると、セシリカが立ち上がり、男爵に向かって九十度腰を曲げ、深々と頭を下げた。
「ボズウィック男爵様。私のような立場で恐縮でございますが、なんと感謝を申し上げれば良いのか。この度、エリア様にお越しいただきましたことも、ラヒナお嬢様のことも……」
セシリカがそう言いかけたところで、男爵が言葉を挟んだ。
「セシリカ女史。まぁ、座りたまえ。ローズ家事件については、ボズウィック家にとっても他人事では無いのだ」
そう言って、男爵はイリハの病気の事やレイナードがライラを救出しようとしていることを話すと、改めて、セシリカに向かって言った。
「セシリカ女史。黒い魔石がローズ男爵領の大飢饉の原因だと明確になった以上、いつまでもこうしている訳にもいかん。そこでだが、どうだろう? ローズ男爵ご夫妻が国王陛下に赦免されるよう、ワシにも協力させてくれんか?」
「あ、ありがたき、お、お言葉……」
セシリカはそこまで言うと、次の言葉が続かない。
大丈夫かな……。
「あのね男爵様。セシリカは凄いんだよ。僕もあんまり分かってないんだけど、ローズ男爵様の補償金が工面できる策を、彼女は思いついたんだ」
そう言って、彼女から会話を引き取った。セシリカは、ボズウィック男爵を前に、緊張しすぎて落ち着きを無くしているようだ。だから、セシリカの本領を引き出すために、彼女にヒーリング魔法をかけてやろうと思う。
もう、こっそり掛けちゃってるんだけどね。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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