090-5-16_イリハとラヒナ
「どうぞっ」
返事をすると、やっぱりアリサだった。
アリサは部屋に入ると、恭しくお辞儀をした。そして、僕が上体を起こすと、一瞬、驚いた顔をしたように見えた。しかし、次の瞬間には何事も無かったかのように、いつもの通り、身支度の準備に取り掛かってくれた。
僕を見てどう思ってるのかな?
そうこうしてると、部屋の音に気付いてラヒナも起きたようだ。
「おはようラヒナ」
すると、ラヒナも、「おはようございますぅ」と言って、大きく伸びをした。しかし、ラヒナは僕の声に違和感があったようだ。彼女は、伸びを途中で止めて僕を見た。
「エリア様が……戻っちゃってる!」
「そうなんだよ。またラヒナと一緒だね」
ラヒナは目をまん丸くして僕の所にやってくると、僕にハグをして、「エリア様はエリア様です」と言ってくれた。
ラヒナは優しい子だね。
「ありがとう、ラヒナ」
そんなラヒナの様子を微笑ましく見ていたアリサが、ラヒナに挨拶をした。
「おはようございます。ラヒナ様。改めまして、私は、エリア様付きのメイド、アリサと申します。アリサとお呼びください」
そう言って、ラヒナを鏡台の前に座らせると、彼女の髪を解き始めた。ラヒナは育ちがいいようでお行儀がいい。シャンと椅子に座って、アリサの作業が進みやすいように頭を動かさないようにしている。しかし、目だけは自分じゃなくて、アリサの顔ばかり見ているようだ。
やっぱり、昨日の事が気になってるのかな?
ラヒナは、アリサに興味深々だ。
ちょっとおませかもね。
アリサは、手際よくラヒナの身支度を整えた。ラヒナは、髪をストレートに解かれ、少しカットもしてもらって、毛先が整えられ、綺麗に見違えたようになった。今日のラヒナの髪型は、サイドの髪をクロスの髪留めで止めて、可愛らしさが際立っている。そして、服はネイビー色の長袖ワンピースで膝下丈。シンプルだけど、清楚でとても上品だ。さらに、花をモチーフにした銀細工のようなネックレスを付けて完成。
ラヒナの印象にぴったりだね。
アリサのセンスには毎度、感服する。
「ありがとうございます。アリサさん」
ラヒナはそう言うと僕と入れ替わった。するとアリサがラヒナの前でしゃがみ、ラヒナの手を取って言った。
「ラヒナ様。お気遣いは無用です。私は、ラヒナ様のお世話も、とても楽しみにしていたんですよ。私は、お嬢様方のお世話が大好きなのです。ですから、私の事は、アリサ、と親し気にお呼びいただきたいと思います」
「……」
ラヒナはモジモジとした。そんな彼女を、アリサは優しい眼差しで見つめている。するとラヒナが小さな声で、「ア・リ・サ」と言った。アリサは、「はいっ!」と嬉しそうに返事をして、ラヒナを抱きしめてあげた。ラヒナは、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。
やっぱり、アリサは凄いね。
彼女は、すぐにラヒナと打ち解けたようだ。それから、アリサは、僕の身支度もあっという間に整えてしまった。今日の僕の髪型は、ラヒナとお揃いのような髪型だ。長い髪を綺麗にストレートに解かれた後、僕の場合もサイドにクロスの髪留めで止められている。前髪は伸ばしているから、そこだけ三つ編みにされて、後ろ側で留められた。
可愛いね。
最近、自分がものすごくナルシストになっている気がする。前世ではナルシストということは、あまりいい意味で使われてはいなかった。しかし、本当に、自分の気持ちを大事にしたいと思っている。折角、転生したんだから、この世界ではそれを通していきたい。
心のままに、だ。
ラヒナとお揃いは、髪型だけだと思っていたら、衣装までお揃いだった。彼女のワンピースはネイビーだけど、僕のワンピースはオレンジ色だ。ラヒナの髪の色にもよく似ている。そして、ネックレスだ。僕の首からかけられたのはちょっと変わったデザインで、鳥の羽やビーズで出来ている。
ネイティブな印象だね。
こんなの作るデザイナーでもいるんだろうか。感心する。それにしても、アリサは、僕が子どもに戻ることなんて、この部屋に来るまで分からなかっただろうけど、よく、ラヒナとお揃いに出来たもんだ。初めは、大人用の衣装を用意していたと思うけど。
もしかしたら、アリサは想定してたのかな?
もしもそうなら、アリサの対応力は凄い。彼女は、いつものようにほっぺたにキスをくれると、部屋を後にした。ラヒナがまた顔を赤らめているようだだ。しばらくすると、今度はサリィが迎えに来てくれた。今日は朝食を摂りながらの報告会だ。どんな段取りか打合せなんてしてないけれど、セシリカもいることだし、大丈夫だろう。
ダイニングに向かうと、入口でイリハが待っていた。何んと、イリハとも衣装と髪留めがお揃いになっている。
この配慮、誰が考えてるんだか分からないけど、感動ものだね。感謝したいよホント。
きっと、イリハとラヒナの衣装をお揃いにするだけだったんだろうけど、僕も加わった。ちょっと嬉しい。そして、イリハのワンピースは、今日も緑だ。彼女は樹木魔法の適性があることが分かってから、好んで緑を着ている。
早くドライアドに会わせてあげたいね。
イリハの髪留めも同じクロスの髪留めだ。しかし、彼女の場合は両方に付けている。そして、ネックレスは、植物をモチーフにした金色細工でできたものだ。緑のワンピースに良く似合っている。
イリハも可愛いね。
美少女が三人揃うと、辺りの雰囲気が本当に華やかになる。イリハは、あまり人見知りしないタイプの性格で、早速、ラヒナに近寄るとラヒナの手を取って自己紹介した。
「私は、イリハよ。イリハ・ボズウィック。ヨロシクね! あなたはラヒナでいいのね?」
「はい。私は、ラヒナ・メリアル・ローズと言います。大変、お世話になります」
ラヒナも自己紹介した。するとイリハは、ラヒナと僕に向かって言った。
「堅苦しい挨拶は無しよっ! 私の事はイリハって呼んでくれる? あなたのこともラヒナって呼ぶから。エリアも、今日は三人並んで座りましょ!」
そう言って、イリハは、ラヒナの手を引っ張ってダイニングに入って言った。
イリハはいい子だな。
ダイニングに入ると、僕たち以外は既に席に着いていた。一番奥の正面は、もちろんボズウィック男爵が座っている。
あれっ? 男爵の雰囲気が、何だかいつもと少し違うようだけど、気のせいかな?
そして、向かって左はローラ夫人だ。彼女は、子どもたちに手を振っている。そして、ボズウィック男爵の、向かって右側の奥から三つ席が空いていて、その次に、セシリカ、ククリナ、アムの順番に着席していた。セシリカは、明らかに挙動不審だ。キョロキョロとして落ち着かない。
早く、僕とラヒナに来て欲しいと思ってるんだろうね。
セシリカとは対照的に、ククリナは堂に入っていると言うか、落ち着きはらっている。そして、アムだが、こっちもセシリカ同様、キョロキョロしている。しかし、挙動不審ではなく、物珍しいという感じ。天井のシャンデリアばかり見ている様だ。三人とも服装は昨日と一緒だ。でも、それは当たり前か。彼女たちは客扱いなのだ。
僕たち美少女三人組は、イリハ、ラヒナ、そして僕の順に着席した。ヴィースは使用人と一緒にいる。と言っても、使用人らしい振る舞いでもない。いつものように、腕組みして仁王立ちだ。
みんなが着席したのを見届けると、男爵が話を始めた。
「ラヒナ嬢、そして、客人の皆さま、ボズウィック男爵家にようこそ! 昨日は大変失礼したが、ゆっくり休めたかね?」
男爵がラヒナを見ながらそう言うと、ラヒナは、「はい」と言って、コクリと頭を下げて頷いた。
男爵は話を続けた。
「それでは、腹も空いてることだし、朝食を始めるとしよう。話は、その後でいいだろう」
男爵の合図で食事がどんどん運ばれてきた。サラダにスープにパン。そして、いつものソーセージとハム、オムレツもある。今日の朝食は、料理の運ばれる手順が早いようだ。というか、全部一度にテーブルに運ばれた。男爵がスープを口に運ぶと、他のみんなも思い思いに食べ始めた。貴族の食事にしては気楽な雰囲気だ。
男爵の配慮かな。いや、ローラ夫人だなこれは。
みんなの作法はというと、ラヒナはやはり慣れているようだ。ちゃんとスプーンやフォーク、ナイフも使いこなして、順番通りに食べている。イリハの方がお行儀が悪いくらいだ。セシリカも、小さく口に運んで、ゆっくりとお行儀がいい。
昨日、サンドイッチ食べてた時の様子とはまるで違うね。
ククリナは、落ち着いて少しづつ食べている。
彼女は、精霊だから食べる必要もないんだろうけど、ヴィースも食べるときは食べるしね。人間と付き合うための嗜みって感じだね。
そして、アムだけど。
何だ、やれば出来るんだ。使い方はぎこちないけど、ちゃんとスプーンとフォークを使っている。昨日は、お行儀良い食事なんて無理そうだったけど、急にどうなったのかな?
彼女は、順応力が高いのかもしれない。男爵がしゃべらないので、食事の間、会話は殆ど誰もしなかった。でも、イリハはラヒナに、結構、話しかけてたね。もう友達になっちゃったのかな。
みんなの食事が概ね終了したところで、今度は、デザートが運ばれてきた。一番、目を輝かせていたのは、アムだ。尻尾を見れば大喜びしているってことが良く分かる。さっきから、彼女の尻尾は椅子の上でビュンビュンと大きく揺れている。
尻尾もお行儀良くしなさい。
「面白いかも!」
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