089-5-15_戻ってる!(挿絵あり)
朝を迎えたーーーー。
あ~、とてもよく眠れた~!
ぐうぅ~ん、と伸びをして、大きく深呼吸した。すると、新鮮な空気が肺にたっぷりと入ってくる。そして、鼻からゆっくりと息を吐き出すと、身体中の古いものが、新しく入れ替わるような気がして気持ちいい。息を吐き切って、一旦息を止める。そして、お腹がふくれるのに任せて息を吸う。お腹一杯に息を吸い込むと、また、少し止める。それから、ゆっくりと息を吐く。こうすると、いつの間にかリラックスして、早朝からの仕事にも集中できる。前世のときから繰り返していた、朝のまどろみタイムのルーティンなのだ。しかし、今日は、どうやっても昨日の事が頭から離れない。
「はぁ~」
明るい光の中で昨日のことを思い返すと、何て恥ずかしいことをしてしまったのかと、また、布団の中に潜り込みたくなってしまった。
夜って、素直になり過ぎて怖い。
それとも、満月のせいだろうか? それにしても、本当に昨日は濃密な一日だった。何だか、人に裸ばっかり見せていた気がする。でも、決して嫌な出来事だった訳じゃない。竜族の身体は成長が遅いので、例え十八歳であっても見た目は七歳程度だ。それなのに、突然、肉体と同じ年齢くらいには成長したと思う。多分だけど。そして、その身体は美しく、とても誇らしい気持ちになったのだ。前世で男だった時には、自分の身体をそんなふうには思わなかった。しかも、アリサに、昨日のように感情が昂ってしまった時の身体のケアを教わった。
それで……心まで……満たされたんだ……。何だろう? 男の子の身体とは全然違う。
いつの間にか、また、昨日の事で頭が一杯になってしまっている。
「ダメダメ。昨日の事は昨日の事。セシリカも来てるんだし。もう、起きないと」
布団を勢いよくめくって、上半身を起こした。
……ん?
何だか視線が少し低い。咄嗟に手を見る。
あれ?
そして、布団を完全にめくった。
「嘘っ!? 戻ってるじゃないかっ!」
大人用の下着がダボついて、殆ど脱げてしまっている。
「何だよっ、もどっちゃってるよ!」
隣では、ラヒナがスースーと寝息を立てて寝ている。決して、昨日の事は夢ではない。
「え~、大きくなった身体であれこれやりたい事リスト作ろうと思ってたのにぃ~」
折角、アリサにお化粧とか、ヘアスタイルの整え方とか、教えてもらって、服も自分で選んだりして、おしゃれして町まで行ってお店を見たりだとか……。
もうっ! がっくり……。
「はぁ~」
また、ため息だ。トホホ……。でも、仕方ない。アリサも言っていたし、ゆっくり成長しろって。
心も身体も一緒にってことだろう。それに、昨日あった事は、本当なら、自然と分かっていく事なのに、僕が急に成長してしまったから、アリサがいろいろと経験させてくれたのだ。僕の感情が高まりすぎるあまり、変に、僕が、悪意を持った者に騙されて、心身を傷つけられないようにするために……。
本当に、あの感覚の高まりは、抗いがたくて難儀なものだね。
アリサが側にいてくれて良かった。
それにしても、どうして、昨日は大人になっちゃったんだろう?
思い出すのは、あの、大人になった瞬間だ。あの時は、満月が綺麗に見えていた。やはり、満月の影響かもしれない。レムリアさんも言っていた気がする。
満月の夜には月光浴がどうとか……。
しかし、もう一つ気になることがある。クリトリアの種だ。謎の女性に飲まされた花の種。確か、花の名前の意味は女性そのものっていうことだ。
まさに、そこがジンジンとして抑えられなくなっちゃったんだけど……。
やっぱり、気持ちが女の子のように変わったのは、あの種のせいだ。満月とクリトリアの花には、心身ともに女性として成長させるような効果があるに違いない。それに、あのジンジンとする感覚が強くなって、感情が昂ってしまったことにも、何か関係があるはずだ。
そんな風にぼんやりと考えていた時、クリトリアの種の状態が気になってきた。
あの種、どうなってるかな?
心に植えられたクリトリアの種。僕の感覚としては、お腹の下の方にある気がする。それをイメージすると映像が脳裏に浮かぶ。イメージを集中し、種の状況を確認した。
すると……。
やっぱり! クリトリアが、双葉に成長している!
クリトリアの種はぱっくりと割れて、そこから、黄緑色の可愛い葉が二枚、確かに出ていた。昨日は、謎の女性の言った通り、色々と影響があったんだと思う。
この先も、クリトリアは大きくなっていくんだよね?
僕は、身体の成長とともに、女の子としての気持ちも、しっかりと成長させていかなければならないようだ。とは言え、大人の身体になれば、いつも、昨日のように抑えられない気持ちが込み上げて来てしまうのだろうか。
毎度毎度、あんな事になれば大変だ。
女の子って、そういうものなの? いや、やっぱり、急に体が成長し過ぎたからだよね? どうなんだろう? 考えても分からない。今度、アリサに聞いてみよう。
……でも、気持ちが女の子のようになる事は、思っていたよりも楽しいかもしれない……。
「えっ?」
い、今の、本音?
と、とにかく、女神覚醒への道は、まだまだ謎だらけだ、なんてね。
「はぁ〜」
また、ため息が出てしまう。
まぁ、焦ることは無いよね。なる様にしかならないんだから。
しかし、どうしても気になるのは、昨日、ヴェネディクト・ヒールを放った時に感じたパワーの違いだ。明らかに、子どもの身体とは、一度に扱える魔力量に違いがあるように思う。魔法の威力は、身体の成長と関係があるのかもしれない。
それにしても.....。
「はぁ〜」
ため息ばかり出ちゃう。やっぱり、子どもの身体に戻ってしまったから。もちろんそれは残念だけど、でも、ため息の原因は他にある。今も、その気持ちに襲われているのだから。
「何で、こんなに切なくなるんだろ?」
もちろん理由は、分かっている。エリアの気配が消えたからだ。胸に手を当てても、治まりそうにない強い喪失感。自分の中から湧いて来た女性の側面が静まって、心にポッカリと穴が空いたようだ。身体が成長した時、前世の僕の意識は心の隅に追いやられていた気がする。でも今は、前世の意識が戻ってきて、逆に、昨日の女の子の気持ちを、感じなくなってしまった。
「好きになった女の子に、振られちゃった様な気分だよ」
そう言えば、あの時も……。
少学生の時、僕が、大好きになった女の子がいた。彼女の事は、自分でも不思議なくらい、好きで好きでどうしようもないくらいだった。
でも、何であんなに好きになっちゃったんだっけ?
確かに、可愛かったんだけど、何だろう? う〜ん、やっぱり理由は、分かんない。でも、僕がその子を好きだと言う噂が広がって、彼女の友達から、彼女が迷惑してると言われてしまったんだ。
「グスッ。思い出しちゃったよ。はぁ〜」
また、ため息……。
あれ以来、あそこまで誰かを好きになることなんてなかった。
まだ、引きずってんのかな? ダニーの事言えないね。今の僕の心は、何だかその時の気持ちと似てるかも……。
その時、扉がノックされた。
「アリサかな?」
昨日から、アリサの事が僕の中でとても身近な存在になった。しかし、アリサと顔を合わせるのが少し恥ずかしい。
あぁ、そうだ。
昨日、アリサに、自分だけ恥ずかしいと思わないように言われたんだった。それに、もう、元の身体に戻ってしまったけれど、アリサはどんな反応をするだろう。
ちょっと不安だ……。
ーーーー
嘘っ!? 戻ってるじゃないかっ!
AI生成画像
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