087-5-13_夜の帰宅
転移したのは、屋敷の玄関ホールだ。時刻はもう夜の八時前。少女の帰宅時間としては遅すぎかも。
心配かけちゃったかな?
ホールには、アリサとモートン、それに、ボズウィック男爵とローラ夫人、そして、イリハまで待ってくれていた。大勢で転移してきたけれど、ほとんどが、この屋敷に初めて来た面々だ。まず、僕の眷属が、小さな妖精、エインセルのエイルに、イグニス山の大蛇からククルカンに進化したククリナ。そして、眷属では無いけれど、森で出会ってから勝手にお供として着いてきた、山犬族のアム・ニタイだ。それから、ボズウィック男爵の厚意で匿うことになった、ローズ家の令嬢、ラヒナ・メリアル・ローズ。さらに、その使用人で会計責任者のセシリカ。彼女はお客として来てもらった。しかし、転移魔法は、転移窓を使わずに行うと、いきなり目の前に姿を現すことになる。きっと、ボズウィック男爵家のみんなからすれば、僕とヴィースがラヒナを連れて帰ってくるものと思っていたところに、突然、初対面の人間が現れた上、僕は身体が成長していて、驚いただろう。だから、男爵がこうなるのも仕方ない。
「な、何だ!? エ、エリア、エリアはどこだ? エリアはいないのか? ヴィース、エリアはどうした?」
やっぱり、男爵は僕のことが分からないんた。ちゃんと、ここにいるのにね。
すると、アリサが僕を両手で指し示して言った。
「こ、このお方が、エリア様ですわっ! 間違いございませんっ! 旦那様っ!」
アリサの興奮した反応に、ヴィースが腕組みをして仁王立ちしたまま、コクコクと頷いた。やっぱりアリサだ。僕の事、一瞬で分かってくれた。アリサは、転移した途端、僕の事を見て、両手で口元を押さえていた。
誰もいなかったら飛びついてきたよ、きっと。
アリサの言葉を聞いて、ローラ夫人も両手で口を押えた。彼女は、目を真ん丸にして驚いている。そして、とても嬉しそうだ。
「ごめんなさい。帰りが遅くなっちゃった」
そう言うと、モートンが、申しひらきすべきはそこじゃないと言わんばかりに、首と手を同時に横に振った。
無言の突っ込みっ!
イリハを見ると、彼女は、ローラ夫人の横でポカンと口が空いていた。しかし、イリハは、僕の方へは、一瞬、視線を向けただけで、ずっと、ラヒナの方を向いている。僕より、ラヒナに興味があるようだ。そして、イリハは、ラヒナに向かって手を小さく振った。それに対して、ラヒナが小さく頭を下げた。突っ込みを入れたモートンだけど、彼自身はあまり動じていないようだ。いつものように、真っすぐ立ったまま控える姿勢に戻っている。それに引き換え、男爵の狼狽えぶりが目立ちすぎだ。僕の姿を見て、両腕を、所在なさげに組んだり顎を掴んだりとソワソワしっぱなしで落ち着かない。
他にもお客がいるんだけどね。
モートンが男爵に、「いかがなさいますか?」と声を掛けた。男爵はモートンに尋ねられると、我に返ったように言った。
「そ、そうだな、に、人数も多いことだし、ダイニングに入るか」
しかし、ローラ夫人は、男爵の言うことを窘めるように言った。
「あなた! みなさまお疲れでしょう。それに、夕食は取られたのかしら?」
そう言って、ローラ夫人は僕の前に来て手を取り、小さな声で囁くように言った。
「エリアさん、何て美しいお姿でしょう! 女神様そのものですわね。私も、胸がドキドキして仕方ありませんわ」
「あ、ありがとう。ローラ夫人。何で急に成長しちゃったのか、僕にも分からなくて……」
「エリアさんなら、何が起きても驚きはしませんよ」
ローラ夫人のお陰で、この時間からの報告会を行わずに済みそうだ。それに、ローラ夫人は何だか喜んでくれている。ローラ夫人に言われて、男爵が改めて言った。
「そ、それなら、話を聞くのは明日にするとしよう。朝食でも取りながらな。エ、エリアよ、ダニールが夕食を用意している。みなをダイニングに案内してあげなさい」
男爵がそう言ってくれたので、みんなで夕食を取ることにした。それにしても、男爵は、わざと目を泳がせて、僕と視線を合わそうとしない。
「ありがとう、男爵様っ!」
そう言って笑顔を向けると、男爵は、「い、いや、まぁ、良い」と言って、そそくさと階段を上がって行ってしまった。
まぁ良い。だって。
やっぱり、心配かけちゃったみたいだ。モートンは、男爵についていって階段を上がって行き、アリサとローラ夫人、イリハがその場に残った。ローラ夫人は、他のみんなに対しても、疲れているだろうから、お互いの紹介は明日にして、今日は早めに休むようにしようと声を掛けた後、僕に言った。
「エリアさん。今度、教会にご案内しますね。エリアさんに是非、見てもらいたいものがあるのです」
ローラ夫人は、セリア教を厚く信仰している。だから、女神セリアにご執心なのだろう。彼女は、その女神と僕の事を重ねているのかもしれない。そして、ローラ夫人は、「先に、休ませていただきますね。おやすみなさい」と言って、皆に手を振って階段を上がって行った。イリハも、ラヒナにもう一度手を振ると、ローラ夫人とともに二階に上がって行った。そして、アリサは、皆をダイニングのテーブルに案内すると、蒸しタオルを配ってくれた。
「ありがとう、アリサ」
アリサからタオルを手渡され、そう言ってお礼を言うと、彼女は、いつもにも増して笑顔を向けてくる。
アリサ、とっても機嫌がいいみたいだね?
ダイニングにはサリィもいて、二人のメイドにより、軽い夕食が用意された。テーブルでは、セシリカがとても恐縮している様子だ。彼女は、例え他の家の者でも、使用人が貴族のダイニングテーブルに座るなんて、とか考えていそうだ。先程から、アリサやサリィの給仕にいちいち頭を下げている。アムは、ちょっとお行儀に問題があるようだ。初めてここに来たときの僕以上に、食器を上手く扱えない。しかし、それは仕方がない。彼女は、もっと自然に近い形で生活している種族だし、ナイフやフォークで食べることが、窮屈に感じているのかもしれない。一方、ククリナは、こうした場にとても慣れていそうだ。流石に生きてきた年数が違うのだろう。彼女は、人間社会のこともいろいろと経験しているのかもしれない。
軽食が終わると、セシリカとククリナ、アムは、サリィが客室の方に案内して行った。みんなに、「おやすみ」と言って別れ、ラヒナとともに自分の部屋に向かった。ラヒナは小さいから、僕と一緒に寝ることにしたのだ。アリサの後に続き、ラヒナの手を繋いでダイニングルームを出ると、アリサが心配そうに僕に言った。
「エリア様、今日は、少しお顔が赤いようにお見受けいたしますが?」
「そう? 何だか身体が火照っちゃってるかも」
「それなら、お二方とも、湯あみはいかがでしょう?」
アリサはそう言って、湯浴みを勧めてくれた。ラヒナと目を合わせると、ラヒナがニッコリ笑っている。折角だし、湯あみをさせてもらっちゃおう。
「今からでもいいの?」
そう言うと、アリサは嬉しそうに言った。
「喜んでご用意いたしますっ!」
そして、何故だかウキウキとするアリサに案内されて、湯あみ室に向かった。
このお屋敷の湯あみは、専用の部屋がある。しかし、この世界では、本来、あまり湯あみの習慣は無いようで、しかも、贅沢なことでもあり、一般人に至っては、その習慣は無いようだ。貴族でも、毎日湯あみを行うほどでもなくて、通常は、身体をタオルで拭いて終わる程度のようだ。しかし、この屋敷に来てから、ほどんど毎日、アリサに湯あみをしてもらっている。彼女が、いつも夕食後に、湯あみの時間だと言って、部屋に呼びに来てくれるのだ。一応、身体と服を綺麗にする魔法は使えるけれど、実際に湯あみで身体を拭く方が、気分がいい。だから、とってもありがたい。
このお屋敷では、湯あみの部屋に行くと、大人一人が入れる程の桶が用意されていて、お湯がたっぷり張られている。そのため、身体をしっかり温めることができるのだ。しかし、身体を浸けてしまうと、次に誰かが入るときに、お湯を入れ替えないといけない。だから、どうしても遠慮してしまう。そんな僕に、アリサはいつも、しっかり肩までつかるように言ってくる。もう一つ、ここの湯あみの特徴としては、桶の置いてある部屋を、蒸気で満たしている事だ。だから、サウナほどではないけれど、温かく寛げるようになっているのだ。
ミストルームだね。
湯あみの専用部屋に入ると、手前の部屋が八畳ほどの広さの脱衣場になっていて、そこで、服を脱ぐ。そして、同じ八畳ほどの広さの湯桶のある部屋に移動する。
日本のお風呂みたいだ。
しかし、桶からお湯を汲み取って身体を洗うということはできない。大きな湯桶と言っても、どんどん汲みだしてしまえば、湯を足すのに時間も手間も掛かって大変だからだ。そのため、布の敷物の上に背もたれの無い低い椅子があり、そこに座ると、アリサがお湯で身体を拭いてくれる。僕は、小さいから、いつもは直ぐに終わってしまうけれど、今日は、アリサに手間をかけてしまいそうだ。
脱衣場に入ると、アリサが、ラヒナの服を脱がしてあげた。ラヒナは修道女のような恰好をしていて、背中のボタンを外すと、すっぽりと脱げてしまう。中には白いネックのインナーを付けていて、それも、バンザイして脱がしてもらっていた。
後は、パンツだけど……。
これ、ずっと気になってるんだよね。どういう訳か知らないけれど、この世界の女性の下着というのが、あんまり履き心地がよく無い。最初は子ども用だけかと思っていたけど、そうでは無く、女物の下着は全部同じみたいだ。
女性物のパンツのデザインは、いわゆるトランクス風で、かなりゆったりしている。丈が結構長く、身に着けると、膝上丈スカートの裾と同じくらいになるのだ。腰のところも、ゴムなどではなく、紐で結ぶようになっている。風通しはいいんだけど、形がフィットしない。
それに、デザインがどうもね。
男ならなんでも良いんだろうけど、女の子なら気になるはずだ。しかし、この世界の人は、これが当たり前と思っているのだろう。だから、履き心地が悪いなんて誰も言わない。さらに、ブラに至っては、そもそも無い。上半身の下着は、キャミソールに似た肩ひもがもっと太いものが主流になっている。タンクトップのようだけれど、それよりはもっと、ゆったりとした着心地だ。もしかすると、大人用にはもっと異なるデザインのものがあるのかもしれないけど、今のところ見たことが無い。
大人の人は、きっと、落ち着きが悪いんじゃない?
ラヒナの下着もやっぱりトランクスだ。彼女は、アリサに服を脱がされると、湯あみ桶の部屋に入って行った。アリサも大変だろうから、僕は、ドレスだけアリサに脱がしてもらって、頭をアップにするとタオルを巻き、ラヒナの湯あみが終わるまで脱衣場で待つことにした。
しばらくすると、ラヒナが湯気を上げながら真っ赤になって脱衣場に戻ってきた。顔も体もサッパリしているようだ。髪も洗ってもらってタオルで巻いている。ラヒナは、アリサに出してもらっていた下着と、シャツを着ると、恥ずかしそうな顔をして僕の耳元で囁いた。
「アリサさんって、とっても美人さんですね。おっぱいも、こぉーんなの!」
と言って、自分の胸の前でおっぱいの盛り上がりをジェスチャーで示した。
そう、アリサは美人でスタイルが抜群! 前世なら絶対にグラビアアイドルだ。しかし、ラヒナもそう思うのだから、アリサのおっぱいはもしかして、まだまだ成長しているのかもしれない。
ラヒナの着替えを手伝いながら、ラヒナとそんなひそひそ話をしていると、アリサから声が掛かった。
「エリア様、ご用意できました」
「は~い」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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