083-5-9_寄り合い
レックスは話を続けた。
「種まきをやらねぇ奴らは、今すぐ年貢を払えっ! それでなくても三年は年貢の支払いを先延ばしにしてやってんだ。払えねぇ奴は、奴隷商に売り飛ばしてやるっ!」
レックスの横暴な話で、農民は萎縮してしまった。そうした会場の様子に、セシリカは祭壇の前に進み出ると、レックスに向かって毅然と意見をした。ただし、彼女はあくまで丁寧な口調を崩さない。
「レックス隊長様、種まきを奨励するようお話いただいて感謝いたします。しかしながら、年貢の件は、ローズ男爵様の裁量でございますので、それ以上はご容赦ください」
セシリカが話すのは正論だ。ローズ男爵領が王宮の管理になっているとは言え、領地における年貢の徴収権はローズ男爵の権利であることに変わりはない。しかし、レックスは、憎らしい目をしてセシリカを睨んだ。
「けっ、奴隷女め! 王宮騎士団に対して無礼な態度を取ると、貴様も、もう一度、奴隷商に売ってしまうぞっ! 貴様らが金を用意できないでいるんだろうがっ! 能無しめっ! 金が無いなら、俺がお前を買ってやろうか? へっへっへっ!」
セシリカが言っていた通りの下種男だね。
でも、全部、彼女の言う通りに動いている。
大したもんだよ、セシリカ!
セシリカは、おずおずホルトラスの隣に戻ると、レックスが追い打ちを掛けるように言った。
「もうそろそろ王宮も、金を支払えないお前達にしびれを切らす頃だぜ。ローズ男爵も終わりだな」
レックスはそう言って、手刀で自分の喉元を切る動作をした。その時、セシリカの目が、一瞬、レックスを睨みつけた。しかし、彼女は、その気持ちを飲み込み、何とか心を落ち着かせることができたようだ。ところが、農民達はみな下を向き、誰も意見など言えるような雰囲気ではない。その場には鎮痛な空気が流れ、祭壇の前に立っていた村長やホルトラス達もいつの間にか脇の方に移動し、腕組みしたままうつ向いている。その様子を見て、レックスは、鞘に納めたレイピアを肩に担いでほくそ笑んでいた。
憎らしい顔ねっ!
しかし、その時、ヴィースが僅かに顔を動かした。彼は、レックスたちに、軽く視線を送ったようだ。すると、祭壇の前の空気がほんの少し、揺れた。そして、突然! 男が二人、バタバタと音を立てて床に崩れ落ちたっ!
「な、何だっ!? おいっ、お前たちっ!」
レックスが狼狽える。倒れた男たちは、レックスの部下である王宮騎士団の団員達だ。
フンだ。いい気味! ようやく始まったみたいだわ。
レックスは突然の事態に驚いて、レイピアを床に落としてしまった。
「どうしちまったんだっ!? おいっ!?」
レックスは動揺し、焦っているようだ。さらに、次の瞬間、レックスが膝を落として四つん這いになった!
「ど、どうなってやがる? あ、足に力が入らねぇ。何だ、畜生っ! ヤ、ヤバい。お、おい、起きろっ!」
レックスは、這いながら部下の一人の身体を揺すって起こそうとした。彼は、身体を震えさせ悲壮な顔をして恐怖に怯えている。そして、キョロキョロと視線を泳がせ、教会内の様子を恐々と窺っていた。彼の部下達は目覚め、何とか上体を起こすも、恐怖に怯えた顔で辺りを見まわしている。
「おいっ、なんかヤベェ! 行くぞっ!」
レックスは、二人を立ち上がらせ、身を屈めながら、彼らを連れて教会をそそくさと出て行った。農民達はみな、何が起こったのか理解が及んでいない様子だ。
流石はヴィース! 彼の威圧は精度抜群だ。
すると、エイルが言った。
「エリア様の雑な威圧なら、ここにいる人全員、のされちゃいそうね」
「分かってるわよ! ちゃんと練習すればいいんでしょっ!」
農民たちは、レックスの威圧的な態度が、最後は怯えた態度に変わって、逃げるように教会を出て行った事で、少しは平常心を取り戻したようだ。
会場が落ち着いたところで村長とセシリカが祭壇の前に進み出た。村長は、小さな袋を取り出すと、皆に向かって話し出した。
「皆の衆、レックス隊長のおっしゃることは気にしなくていいじゃろ。ここにセシリカ様もおられる。それよりも、みなに見てもらいたいものがあるんじゃ」
そう言うと村長は、小袋の中身から粒を一つ摘まみ出して皆に翳すと、それを指で揉みつぶした。すると、村長の指の間から、小さく黒い煙が立ち上った。そして、長椅子の前列に座っていた中年の者が、「何じゃそれは?」と言うと、後ろの方からは、「よう見えん。説明してくれるかのう?」という声が上がった。
村長がやって見せた事によって、会場に、再び動揺が広がった。
村長が厳しい顔つきで言った。
「これは小麦の種じゃ。みなも同じ種を持っとるじゃろ?」
村長はそう言って、農民たちに小袋を順番に回して、一粒づつ手に取るように言った。
「それを、ワシがやったように潰してみてくれるかのう」
村長は、通路をゆっくり歩き、農民たちの真ん中付近に移動した。農民達はいぶかし気な顔をしながら、村長が言ったようにそれぞれ種を揉みつぶす。すると、一気に教会内の空気が淀み、憂鬱で陰気な雰囲気に包まれてしまった。
「おいっ! 何なんだこれはっ!?」
後ろの方から、不安を露にした声がする。村長は、教会の窓と扉を開くように言うと、近くの者がそれを行い、教会内の空気が換気された。そして、村長は、祭壇の前に戻ると、種に関する重大な事実を皆に伝えた。
「皆、よう聞いてくれ。小麦の種は、どの種もみな汚染されておる。神池の御神水に浸した種は、皆の持っとる種も全てじゃ」
村長がそう言うと、農民達はその場で口々に話し始め、教会内が一気にざわつき出した。村長はその様子をしばらくそのままにしていたが、右列の真ん中あたりに座っていた四十前後に見える男が手を上げ、大きな声で叫ぶように言った。
「俺ぁ、そんなもん信じられんぞっ!」
その男の声で、一瞬、教会内が静まったが、その意見に賛同する農民達も加わり、さらに、教会内が混乱してしまった。
ちょっと、話がまとまらないんじゃないの?
しかし、その時、今度は左列の一番前に座っていた年配の男が立ち上がり、皆に振り返って言った。
「皆の衆、村長の言うとることは噓ではないぞ。これは、ワシが持ってきた種じゃ。みなにも見てもらおうと思うて持ってきたんじゃ」
そう言って、その男は、適当に種を配った。皆が、さっきと同じように揉みつぶすと、やはり、黒い煙が立ち上り、また、教会内の空気が淀みだした。しかし、窓や扉は開けっ放しであるため、淀んだ空気は充満せずに外に流れて行った。
年配の男は、言った。
「ワシも種がおかしいと思うておった。一粒も発芽せんというのは流石にのう」
彼はそう言うと、村長の隣に進み出て皆の様子を窺った。教会内の雰囲気は、まだ村長の言うことが信じられないという声もある一方、今年の種まきをどうするかについて、話している声も聞こえていた。村長が話し出そうとしたとき、また、後方で男が手を上げた。男は三十前後に見える若手だ。その男は感情的になっているようだ。彼は立ち上がると、厳しい口調で意見を言った。
「種が汚染されとったら、終わりっちゅうことじゃないかっ! 俺たちは、もう小麦を作れんということかっ!? 一体、誰がそんなことやりやがったんだっ?」
すると、口々にしゃべっていた者たちは口を閉じ、その男の質問に対する答えを聞こうと、皆が祭壇の方に注目した。村長は、若い男の問いに対し、何かを言いかけようとしたが、セシリカが、祭壇の前に進み出てきたため、彼女に任せるように、一歩後ろに下がった。
「みなさん。我々は、ここ三年の小麦の不作は、誰かが人為的に仕組んだことだと考えています。……」
セシリカが話し出すと、みんな、セシリカの話に注目し、会場内が静かになる。意見を言った男も椅子に座り彼女の話を聞いた。セシリカは、誰がこんなことを仕出かしたのか、現在、それを調べるための調査を行っていることや、恐らく陰謀の背後には大きな権力が潜んでいること、さらにレックスを筆頭に、王宮騎士団も彼らの手下であると考えていることを説明した。
「そ、そんな……王宮騎士団まで……」
先程、意見を言った三十前後の若い男が、力なくそう言った。流石に王宮騎士団の話が出ると、他の農民達も皆、肩を落としてしまったようだ。
その様子を見て、エイルが言った。
「もうそろそろじゃない?」
「そうね」
そう言って、エイルとのシンクロを解除し、転移窓を閉じた。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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