080-5-6_神池の蛇神少女
「うっ、うぅぅっ!……」
少女が、苦しそうに唸り、唇を小さく動かした。
何か言ってる? でも、よく聞こえない。何て言ってるんだろう?
「どうしたの?」
地面に手をついて少女に覆いかぶさるように、口元に左耳を近づけた。すると、消え入りそうな声が聞こえた。
「なんて……お美しい……人……」
えっ、僕のこと?
次の瞬間、右胸に冷たい何かが触れた!
ん!?
「キャッ!」
慌てて身体を起こし、両手で胸を隠す。すると、少女のか細い手が、力なくがっくりと地面に落ちた。
「何? 今、触られてたの?」
両手をついて無防備になっていたし、一瞬のことで抵抗できなかったのもあるけど、服を着ていなかったの忘れてたっ!
「な、何するのよっ!」
しかし、少女は、横たわったまま、目を閉じて動かない。
ん?
どうも、少女の様子がおかしい。
「ねえ、大丈夫?」
呼びかけると、少女が、何とか薄目を開けて、弱弱しい声で言った。
「あり……がとう……ございます……。これで……元通り……」
そう言うと、少女は、また目を閉じてしまった。
「どうなったの、この子!?」
彼女の生気がどんどんと失われていく。様子がおかしい!
「怪我してるんじゃないの?」
エイルが耳元で言った。
慌てて、少女の身体に手を翳し状態を確認する。すると、彼女の体内に充満しているどす黒い気を感じた。
「ちょっと、何これ?」
お腹のあたりを見ると、着ている服が赤黒く染まっている。
「嘘っ!? ヤバイよこれっ!」
素早く、彼女の着ている白衣の細い帯を解き、襟を捲った。
「これは酷いっ!!!」
少女の腹部が真っ黒に変色し、皮膚が腐ったように脆くなっていて、拳大の穴が開いている。そして、彼女の消え入りそうな呼吸の度にその腹部が動き、傷口からどす黒い血が溢れ出していた。目を背けたくなるような酷い怪我だ。
「うっ! 何なのよ!?」
しかし、黒く変色しているのは腹部の一部だけではなく、顔以外の、肌の殆どが青黒く変色している。
「どうしてここまで酷いのよっ?」
さっきの魔法で、浄化と治療ができているはずだけど……。
もしかしたら、魔法が効いていないのかもしれない。
何で治ってないの? もう一度、しっかり状態を診ないと!
彼女の腹部に手を翳し、魔力を流してみる。すると……。
「こ、これは……」
彼女の体内に、大量の異物がある!
「大変だっ。お腹の中に魔石がたくさんっ!」
事情は分からないけれど、彼女の体内に魔石が取り込まれているようだ。魔力が弱まって彼女の密度が薄れてきている気がする。今すぐ、魔石を取り除かなければならない。
早くしないとっ!
まずは、魔力を流し魔石の位置を把握する。そして、魔力でしっかりと魔石を掴むと体外へと転移させた。その作業を何度も繰り返す。
急げ! 急げ!
取り漏れがないよう彼女の腹部に意識を集中する。そして、最後の一つを取り出し終えた。
「これで、全部、取り出せたかな?」
エイルとアムが心配そうに覗いている。
結局、彼女の身体から取り除いた魔石は百個以上あった。すぐに、それらの魔石を浄化すると、魔石は全て透明になった。しかし、少女の傷は酷く、存在が消え入りそうに透けてきてしまった。きっと、彼女の命は危うい状態だ!
「このままじゃダメだ!」
もう、治療魔法では間に合いそうにない。
「どうするんですか?」
目の前のアムが聞いた。
「エリア様。もう、あれしかないわよっ!」
エイルが焦ったように言う。
「そうねっ!」
彼女は神池の蛇神なのだ! このまま死なれては困る!
「お願いっ、効いてよねっ! 女神の祝福っ!」
また、彼女に覆いかぶさるようにして、先程と同じ姿勢で、横たわっている彼女の唇に口づけた……。そのまま、目を閉じてしばらくじっとする。意識を集中させていると、ふっと、今までの記憶が瞼の裏にぼんやり浮かんできた……。
この世界に来て何度目だろう……。
前世では、当然ながらキスの経験なんてなかったけれど、こちらに来て、立て続けに経験してしまった。最初の体験だったヴィースとのキスは軽いものだったけど、アリサやカリスとは、ちょっと違った。
柔らかくって……あぁ、うっとりしてきちゃう……。
彼女たちとのキスを思い出すと、また、お腹の下がジンジンしそうになる。
ダ、ダメだ。ちゃんとしないと。
エネルギーを注ぐ事に集中し唇を重ねていると、一瞬ピクッと彼女の唇が反応した。女神エネルギーが彼女の中にどんどん入っていく。すると、彼女の身体は濃密な質量を取り戻し、エネルギーの流れが活性化されていった。やはり、治癒効果は抜群だ。唇を通して、彼女の腹部の傷が見る見る塞がれていき、傷も残らずに綺麗なお腹になっていくのが分かる。全身の肌色も瑞々しさが増して、美しい肌を取り戻していく。
結局、三十秒以上は唇を重ねていたと思う。
良かった。何とか間に合った……。
少女の身体に十分なエネルギーが行き届いたのを感じると、そっと彼女の唇から離れようとした。
しかし……。
「もう少し……」
ささやくような声が聞こえると、頬が両手で押さえられ、彼女が唇を重ねてきた。
な、何っ!?
彼女は、半開きにした唇を優しく押し当ててくる。
まだ、足りないの?
彼女にもう少しと言われ、少し戸惑いながらもそのままキスを続けた。
なんて、柔らかくて、甘い……。
少しずつ戸惑いが消えていく。
でも、あれ? 僕、どうしたんだろう?
目を閉じているか開いているかも分からず、頭がぼんやりとしてきて、先程、思い出しかけたことの続きを、また思い出す……。
今までに経験したキスの記憶……。アリサにカリス、どちらも予期せず、強引にされたようなものだったけれど、忘れられないキス。そして、あの時も……。
ん? あの時?
今、自分の経験にはないはずのキスの記憶が甦った……気がした。
なんだろう、今の。誰? 綺麗な女性だったような……?
しかし、その記憶は、一瞬で忘れてしまう夢のように、また記憶の海に消えていった。目を開けると、彼女がうっとりとしている。また、お腹の下がジンジンとしてくる。
どうしよう? 離れ……られない……。
頬を押さえていた彼女の手が背中の方に回され、ギュッと抱き寄せられた。次に、片方の手が胸を触り始めると背中の方の手はお尻へ下がる。そして、さらにその奥の隙間へ入っていった。
ん? んんっ! ダ、ダメ……。
ところが、その時、アムが、身体を割り込ませて彼女を制止した!
「止めてくださいっ!」
た、助かった……のかな……。
気持ちがうっとりしていたから、あのままなら抵抗もできず何をされていたか分からない。そして、ようやく我にかえる。
「ちょ、ちょっと! いい加減にしてよっ!?」
やっとしゃべることができると、恥ずかしさのあまり彼女に文句を言った。彼女は慌てて上半身を起こし、正座をして平謝りだ。
「も、申し訳ございません……ど、どうしましょう。私、頭がぼぉ~っとして、本当にごめんなさい。私、何てことを……へ、蛇の本能が……」
「何それ、本能って! もうっ!自覚が無かったみたいに言っちゃって! まぁ、蛇は性欲の象徴なんて言うけど」
一体、どんなエッチな本能してるのよっ、まったく! あ! でも、本能ってエッチだよね。
「こ、今度やったら、マジで怒るからね。ま、まぁ、病み上がりで頭がぼんやりしてたのなら、仕方ないけど。も、もうダメだらかね。恥ずかしかったんだから、ホント……」
胸とお腹の下を手で隠しながら、彼女に注意をした。
ホントに恥ずかしい、あんなこと。でも、どうしてか、抵抗できなかった。それに、ほんのちょっぴり、肌と唇に気持ちが残っちゃって……。
えっ? 何考えてんの、私!
動揺が悟られないように怒った素振りを続けていると、目の前の彼女は平身低頭で謝罪する。しかし、エイルはまだ怒っていた。
「もっと反省しなさいよ。あんた、死ぬとこだったのよ」
エイルに注意され、彼女はさらに頭を地べたに擦りつけるほど身体を折り曲げて懇願した。
「ど、どうか、お赦しください。女神様!」
「もう、いいよ」
そう言って、彼女の上半身を起こそうと、彼女の肩を押し上げようとしたとき、彼女の胸のあたりが、突然、青白く光り出した。
あっ、もしかして、進化!?
これは、ヴィースやカリスの時と同じ反応だ。女神の祝福は、眷属達の進化を促す作用がある。彼女は、目を閉じ、両手を交差し胸に当てると、完全に光に包まれた。眩しくて、手で光を遮りながら様子を伺っていると、しばらくの間光り続けた後、その光は、ゆっくりと彼女の胸に吸い込まれるように収まっていった。
しかし、光が完全に収まっても、そこには、さっきと同じ彼女が正座していた。ところが、目の前の彼女からは、一瞬前の彼女とは比べ物にならないほどの、神々しい気があふれ出ている。先程とは桁違いの存在感だ。
どんな進化をしたのかな? さっきとはまるで別人みたいだけど……。
すると、彼女はゆっくりと立ち上がり、かしこまりながら頭を下げて言った。
「女神様、祝福をいただきありがとうございます。私は、羽毛のある蛇、ククルカンでございます」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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