077-5-3_イグニス山の異変
犬がお供って、どっかで聞いた話みたいだね。
アムは、正座の姿勢から寝転がると、仰向けになって万歳し、お腹を見せた。
「あたしのお腹を、あなた様に捧げます……」
やっぱ、犬だね。
山犬族って、誰かを主と認めるとそういう仕草になるようだ。その様子を見ていたエイルが腕組して言った。
「変な山犬ねっ! エリア様は女神様なのよ。あんたなんてペットにもならないわっ!」
その言葉をきいてアムは、「やはり」と呟いて、「あたしも、女神様に着いていきたいっ!」と言いながら、また正座をして三つ指を付いた。
う~ん? どうしようかな? アムがどんな人物なのか、言ってることが本当かどうかも分からないし……。
悩んでいると、アムが目を潤ませながらこちらを見る。
そ、そんな目で見られちゃうと……。
そして、彼女と目が合って、アムの記憶が勝手に入ってきてしまった。
すると、森の中の集落の情景が瞼の裏に見えた。その集落は、深い雪に覆われ、針葉樹の大木に周囲を囲まれていた。里人は、その大木の根をくり抜いた家に棲んでおり、集落の中心にある広場では、山犬の子どもたちが楽しそうに走り回っていた。
あぁ、彼女の言っていたことは本当のようだ。それに、この神威の里は力強い精霊に守られている様だね。
正座をしたまま、こちらを見ているアムに精霊の話をすると、彼女は、「オンガ様です」と言って、山犬精霊オンガについて話してくれた。オンガは山犬の精霊であると同時に雪の精霊でもあると言う。純白の身体をしており、極寒の森、ツンドラ大森林の守護者なのだそうだ。
山犬精霊のオンガか、会ってみたいね。アムの素性も確認できた事だし、彼女がついてくることは全く問題ないだろう。
エイルも何も言わなかったし、アムが勝手についてくるなら好きにすればいい。
「僕はエリアって言うんだよ。まぁ、お供っていうより、友達でいいんじゃない?」
「あ、ありがとうございますっ!」
アムは大喜びで飛びついてきた。彼女の尻尾が僕の身体に纏わりついている。
モ、モフモフ!
「ところで、エリア様、その首のタトゥーは何ですか?」
「あー、これね、奴隷に見える? そうじゃないんだけど、これはチョーカーで僕にとっての呪いみたいなものだよ。隷属の首輪に見えるけどね」
「エリア様は、奴隷なんですか?」
「あんた、今、エリア様の話聞いてたの? 奴隷とは違うって言ったでしょ!」
「このうるさい妖精は何ですか?」
「あんたも相当な馬鹿ね。私を見て何の妖精か分からないの?」
「エインセルですよね? でも、エリア様とすごく仲良しみたいです」
「あったりまえよ! 私を何だと思ってるの!? 私はね、エリア様の三の眷属よ!」
「眷属? 何かワクワクする響きです! あたしもエリア様の眷属になりたいです!」
「あんたがなれるわけないでしょ!」
「まあまあ、二人とも喧嘩しないでよ。アム、君を眷属には出来ないな。だって、アムにはやらなきゃいけないことがあるんだしさ」
「そうでした。今、すっかり忘れてました」
「やっぱり馬鹿ね」
その後、しばらく三人で森の中を歩いていたけれど、魔獣に出くわすことは無かった。最初に放った威圧が効きすぎたのかもしれない。そこで、先に森の調査に来ていたアムに、魔獣の様子を聞いてみようと考えた。
「アム、この森の様子はどうだった?」
「はい、あたしは、森に来て三日くらいですが、強い魔獣には出くわしていません。でも……」
アムの話では、もともとこの森にはそれほど危険な魔獣はいないと言ったうえで、普通なら、アムを恐れ、襲ってこないような魔獣たちが、我を忘れて襲ってくるようになっているということだった。この森は、人間なら、戦士や冒険者など、戦闘の心得がなければ、入ることができない危険な森へと変貌しているようだ。
やはりそうか。でも、それなら、第二王女を襲った魔獣くらい、護衛でなんとかできたんじゃないのかな? まぁ、そのことは戻ってから考えることにしよう。
「これ以上歩いていても魔獣も現れそうにないね。神池の様子でも見に行くことにしよう」
そうして、今から真っ直ぐに山頂を目指す事にした。アムは浮遊魔法が使えないからと、山肌を走っていくことになった。彼女は、疾風のように走るので直ぐに追いつくと言っていた。
空に上がると、西の山際が僅かに水色になっている程度で、もう殆ど夜だ。東の方からは、月が顔を覗かせ始めている。月が上に来ると、月明りで見えるかもしれないけれど、まだ、視力では神池の場所が分からない。そのため、魔力感知で山全体を探ることにした。すると、とてつもなく陰気な場所があることが分かった。
この気は、重い! ここで間違いなさそうだ。
そして、陰気な気のする方へと向かい、その上空付近へとやってきた。
この辺りだろう。
「魔法ライトっ!」
両手を伸ばし、空中に光の玉を放出した。二つ放った大きな玉は、照明弾のように、地面を明るく照らし出す。そうすると、真下には、ぽっかりと穴が開いたように大きな丸い池が見えた。その池の周辺は樹木が生えておらず、池をぐるりと囲むように、山がせり上がっている。そして、一カ所だけ山肌が削れ、そこから谷になって麓の方に続いているようだった。
「これは、火口湖だな」
その火口は、直径が数百メートルはありそうなほど大きかった。どうやら、イグニス山は火山であるらしい。火口湖を見ると、水面が大きく揺れている。そして、バシャバシャとしぶきが上がり、何かの生物が暴れていた。その生物は、うねうねとした体形をしており、一旦水から跳ね上がると、身体を水面に打ち付けて、また跳ね上がるという動作を繰り返している。
明かりがあると言っても、火口湖の内部は暗く、その生物がどんな色をしているのかまでは分からなかったけれど、明らかに、その生物は蛇だ。
「大きいっ! あれが、蛇神か!?」
上空から見ても、その大蛇はかなり巨大だ。火口湖の大きさからしても、体長は五十メートル以上あるだろう。胴体も太く、そういうものが暴れるものだから、火口湖の水は、外輪山内側の斜面を叩きつけるように水がぶつかり、大きな地響きがしていた。
「なんか、すごく暴れてるね、どうしよう?」
すると、耳元でホバリングしながらエイルが言った。
「あの様子は、意識が無いんじゃない?」
なるほど、確かにそう見える。
ん?
ふと、見ると、外輪山の外側を、砂煙を上げながら猛烈なスピードで駆け上がる者がいた。
あれは……。
「あっ、アムだっ! 早っ!」
アムは外輪山の頂上にたどり着くと、こちらに手を振った。そして、彼女は、火口内の大蛇を見ると、上空に向かって叫んだ。
「エリア様っ! 蛇は、意識が無いようですっ!」
すると、エイルも大声で地上に叫んだ。
「それ、私が、もう言ったわよっ!」
しばらく火口湖の様子を伺っていたが、大蛇の動きが止まる気配がない。そして、アムが大きな声で、叫ぶように言った。
「エリア様っ! 大変ですっ! 火口湖の内部は、とても不快な気で充満していますっ! 蛇は苦しんでいますっ!」
これは、あの大蛇、いつまでも、もたないかもしれないな……。
この様子なら、恐らく、あの火口湖の中に、黒い魔石が大量に捨てられているかもしれない。
レピ湖と同じだな。
それなら、強力な浄化と合わせて、大蛇へのヒーリングも同時に行う必要がありそうだ。
そして、火口湖の真上三百メートル付近に位置取り、両手を上空に翳して空を見上げた。視界の隅には、明るい月が見える。
今日は、満月か……。
「面白いかも!」
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