074-4-23_上級演算スキル
ボズウィック男爵家の目的は、レイナードが早まった行動を取らないよう、ライラ嬢を合法的に救出する策を考えることだけれど、そもそも、ライラ嬢の居場所が分からない中、合法的も何も、検討する手掛かりはない。しかし、最悪の事態を想定するならば、アトラス派貴族の誰かに囚われていると言う事が考えられる。その場合、どうすればこちらが責を負う事なく彼女を救出する事が出来るのか、これは、非常に難しい問題だ。
もし、セシリカだったらどう考えるだろう?
その事を、セシリカに尋ねてみた。すると、彼女は、顎に手を当てて言った。
「……ライラお嬢様をアトラス派から合法的に救出するためには、旦那様や奥様が王様から赦免されないといけないですね。それには……」
セシリカは、伏し目がちでそう言うと、肩を落として、ため息をついた。
「はぁぁ~。少なくても、補償金の支払いが必要なんですよ……」
「補償金かぁ」
セシリカが言った補償金の額は、クライナ金貨五万枚、ローズ男爵領における年間小麦売り渡し価格の二.五倍、小麦二年半分の収穫高になるということだ。
途方もない額だな。
「そんなの、今年、小麦を発芽させたとしても、すぐに支払える額じゃないね……」
つい、セシリカをさらに落ち込ませてしまうような事を言ってしまった。
「あっ、ごめん。余計な事、言っちゃったね」
セシリカは鋭い視線で僕を見た。
「今、何て言いました?」
「い、いや、悪気は無かったんだ。それなのに、追い討ちかけるような事言っちゃった」
「いえ、そう言う事じゃなくて、今年、発芽させるとか何とか......」
「えっ? あぁ、今年、発芽させても、補償金には足りないんでしょ?」
「ん? エリア様、さっき、小麦の種はもう汚染されてダメだと……」
彼女の目がさらに鋭くなった。
どうしよう?
「え〜と、セシリカは資金集めに奔走してるんだよね。それなのに、口が滑っちゃったよ、ホント、申し訳ない。ただ、種は汚染されてるんだけど、浄化すれば発芽するって、あれ? 言ってなかった?」
「聞いてませんよっ! って言うか、本当にそんな事が可能なんですか? うちの領内の畑は、とてつも無い面積ですよ」
「う〜ん、何となく出来る気がすると言うか、自信があると言うか、確信があると言うか……」
「マジですか? 信じていいんですね?」
「セシリカ! エリア様に失礼でしょ!」
「ラヒナ様、ここは重要なとこですから」
「もう〜っ、セシリカったら! こめんなさい、エリア様」
「いいのいいの、ラヒナ。僕もちゃんと説明してなかったからね」
いや、でも、ちゃんと言ってなかったこと、本当にまずかったかな?
何故か、セシリカの目が、悪巧みでもしているかのようないやらしい目に変わっている。そして、彼女は、自分の顎を掴み思案を始めた。
何か考えてるね。
そして、セシリカは、キリッと歯を見せて光らせた、ように見えた。
「ムフフ。いい事思いつきましたよ。エリア様のお力をあてにした方法ですけどね、でも、補償金を工面する算段が付きそうです」
「えっ!? マジで? 今年、小麦が発芽して来年に収穫できたとしても、一年分しか収穫できないんでしょ?」
しかし、セシリカは、とても自信に満ちた表情をしている。
セシリカが何考えてんだか分かんないんだけど。
「どういうこと? セシリカ?」
「実は、今日の寄合にレックスがやってきます。彼は、ローズ家を再起不能にしたくてウズウズしてましてね……」
「レックスがね、それで?」
「いいですか? エリア様の言うとおり、小麦の不作が、彼らの仕業なら、レックスは、今年も、種が発芽しない事を知っているはずですよね……」
「ふむふむ、だから?」
「それを逆手に取るのですっ!」
セシリカは、力を込めてそう言うと、右手でガッツポーズを取った!
「いや、全然分かんないって!」
セシリカに詳しく説明してもらった。彼女の思い付きは、将来の小麦価格にまつわることで、ローズ男爵領における小麦発芽情報が鍵になるようだ。
話を聞いても、まだよく分かんないな。
セシリカの話では、今年、麦が発芽するだろうことは僕たちしか知らない。その情報が大きな利益を生むのだそうだ。
まぁ、分かんないものは仕方ない。
詳細は会計責任者のセシリカに任せておけば良いだろう。彼女は、かなり手応えを感じているようだから。
それにしても、彼女は、かなり数字に強いんじゃないだろうか。
何気なく彼女に聞いてみると、セシリカは、「私、上級演算スキル持ちなんですよ」と言って、口元でピースをした。
「上級演算スキル?」
そういやこの世界はスキルというのがあったんだった。確か、奴隷商の男たちが、魔導の写本という魔道具を使って奴隷たちのスキルを調べていた。
あの時は、生活スキルと職業スキルというのがあったようだけど……。ん? あぁ、あの彫刻家だったおじさんは、上級スキルって言われてたっけ。それにしても……。
「演算スキルって何ができるの?」
彼女に聞いてみると、色々と教えてくれた。
「はい。演算スキルは、初級スキルと中級の汎用スキル、そして、上級スキルがありまして……」
セシリカによると、演算スキル初級は、四則演算と算術の道具を使いこなす程度で、中級の汎用となれば、そこに、計算を基にした応用的な理屈立てができるようになるらしい。
証明ってやつだな。
さらに、上級スキルでは頭の中で数式による複雑な予測が可能となるようだ。
予測? って、スーパーコンピューターかっ!
それにしても、かなりレアな響きがあるよね。
「上級スキル持ちってやっぱり凄いんだろうね?」
そう言うとセシリカは、頭に手をやり、テヘヘという感じで照れていた。しかし、その様子を見ていたホルトラスが、突然話に入ってきた。
「エリア様、凄いんなんてもんじゃございませんですじゃ。恐らく、王国でも上級スキル持ちは数えるほどしかおらんと思いますじゃ」
「へぇ、それは大したもんだね」
「中でも、演算スキルなんて言いますのはな、それ自体少ないじゃろう。つまり、王国ではセシリカ様が唯一の演算スキル上級所持者という事じゃ」
「そんなに凄いの?」
そう言うと、セシリカが作り笑いをし、謙遜するように言った。
「いいえ、演算のスキルなんて、誰も欲しいと思ってないですし、女の私が上級スキル持ちともなれば、生意気で鼻につくと言われるだけですよ」
しかし、もしかしたらセシリカ自身、どこまで理解しているか分からないけれど、経済の分野では最強のスキルだろう。いろいろな予測ができるんだったら、投資事業にも向いている。それに、商売取引なら、彼女がスキルを駆使すれば、相手が同じスキルを持っていない限り、プロと素人のように、全てが彼女の手のひらの上で運んでしまうんじゃないだろうか。
なんて恐ろしいスキルなんだよ。セシリカってホント凄いんだね。
セシリカが話を戻し、どのように種を浄化するのかを尋ねられた。
「エリア様、エリア様がなさることがこの計画の要となりますが、いかがでしょう?」
イグニス山の神池のことだよね。確かにそのことが解決しないと話にならない。
「まずは、神池の蛇神に会ってくるよ。ここは、もともとその存在の浄化作用が育んだ土地だからね。後は、成り行きかな」
ちょっと適当だったかな? まぁ、決めてないから仕方ない。しかし、セシリカには響いたようだ。
「いいですね」
いいのかっ!
そう言って、この打合せが終わったら、イグニス山に行くつもりであることを話した。念のためにヴィースはラヒナの側に残していく。
セシリカは、僕の考えを聞いた後、今日の寄合の進行について彼女の作戦をみんなに告げ、打合せは終わった。
寄り合いが楽しみになってきたよ。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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