067-4-16_小麦畑
ホルトラスは、教会からの合図を送り終えると、歩いて十分ほどの距離にあるローズ男爵屋敷に向かった。その間、僕とラヒナは教会で待つ事にした。
「エリア様、教会を見せてあげる!」
ラヒナはそう言って、教会の内部を案内してくれた。彼女は、最初、女神像を見ようと言って祭壇の前に僕を引っ張って行く。すると、彼女のエインセルも現れて、小さな光の粒を蒔きながら周りを飛び始めた。
「やぁ、エイル」
「昨日はありがとう、エリア様」
「ところで、エイルはここに住んでるんじゃないよね?」
「住んでないけど、ここはお祈りのエネルギーで満たされるから、居心地がいいのよ」
「へぇ〜、お祈りのエネルギーかぁ」
そして、エイルは、ラヒナの肩に留まった。彼女が満面の笑顔を向ける。そして、女神像の前に立つと、彼女は、一度、お祈りの姿勢になり、そして、改めて女神像を見上げる。
「私、この女神様が大好きなんです……」
彼女が見つめる女神像は、黒い色の木彫りで、高さが六、七十センチ程だ。像全体に艶があり黒光りしている。そして、ひらひらとしたドレスの様な衣装を羽織っており、腕を上の方に翳して踊っているように躍動感がある姿をしていた。顔は少女のようなあどけなさがあり、優しい表情で空を見つめている。ラヒナは、いつも心の中でこの女神像と話をしていたのだそうだ。
「この女神様、エリア様に似てないですか?」
ラヒナは、そう言って、またお祈りの姿勢に戻った。
僕に? う〜ん、この身体は子どものように見えるし、女神様は大人でしょ? あんまりよく分からないけどね。
ラヒナは、いつもこの女神像に両親とライラの無事を祈っているのだ。こんな小さな少女が一心にお祈りを捧げている姿を見ると、心に込み上げてくるものがある。僕も、一緒にお祈りさせてもらおう。
ラヒナの家族が無事でありますように……。
女神像へのお祈りを終えると、次は司祭の部屋に案内してくれた。司祭は、ローズ家事件以来、王都に戻ってしまったけれど、以前はそこが司祭の生活スペースだったようだ。生活と言ってもベッドと机、クローゼットがあるだけで、あまり生活感は漂っていない。
「司祭様は、いつもは、お屋敷で過ごされていたので……」
「そうなんだ」
ローズ男爵は、敬虔なセリア教徒だったため、教会やその関係者を手厚く保護していたようだ。
セリア教か。ボズウィック男爵もセリア教徒だ。本部は、確かレムリア神聖王国にあるんだった。いつか行ってみたいね。
ラヒナが嬉しそうに言った。
「エリア様、この奥にとってもいいものがあるんです!」
そう言って、ラヒナがクローゼットを開けた。すると、そこにはウェディングドレスのように真っ白なドレスが一着かけられていた。そのドレスはシンプルなデザインで、シルク生地でできており、清楚な美しさがある。ラヒナによれば、そのドレスは本当に結婚式で花嫁が着ることもあれば、教会の儀式などでも着用されるとのことだった。
ラヒナはドレスの裾を持って自分の身体に当てると、恥ずかしそうに言った。
「大きくなったら私も着てみたい……」
「ラヒナなら、きっと、よく似合うんじゃない?」
「本当ですか!」
「うん」
「でも、エリア様が着ているところも見てみたいなぁ〜。その時は、私がエリア様をエスコートしたい!」
彼女は、そう言うとドレスとダンスをするようにクルクルと回った。
ラヒナにとって教会は、事件以降、安心して過ごせる大切な場所だった。
小一時間ほどでホルトラスが教会に戻ってきた。セシリカは手が空き次第来ると言ってくれたらしい。そして、彼女は、今日の寄合で、農民たちに向かって諦めずこの男爵領で農業を続けて欲しいと訴えると言っていたようだ。
重要な寄合になりそうだな。
ホルトラスはこの後、村々のまとめ役をしている村長のところに用事があるというので、セシリカが来るまでの間、彼に着いて村の畑を見に行くことにした。ラヒナは、教会の掃除をするために残るようだ。
「じゃぁ、ヴィース、ラヒナを手伝ってあげてよ」
「分かりました」
「いいのですか、ヴィースさん? それなら嬉しいですっ!」
「ヴィースの事は、ヴィースでいいよ。ラヒナには呼び捨てにされる方がヴィースも嬉しそうだ」
「フンッ!」
ヴィースが鼻を鳴らす。
ヴィースは、何故かこれくらいの歳の女の子にモテるんだよね。
教会の丘を下ると、すぐそこから畑が広がっている。畑の中をしばらく行くと、年配の男が作業を行っていた。ホルトラスがその男に声を掛ける。
「おお、村長殿、精が出ますじゃ」
この人が村長さんなんだ。
村長と呼ばれた男は、ホルトラスに気が付くと、にこやかに挨拶を返してきた。
「これはホルトラスさん。早速連絡をしてもろて助かったわい。まぁ、何をやってもどうにもならんが、どうしても身体が動いちまってな。ハッハッハッ」
村長は、がっしりとした体形で、上下、グレーの作業着を着ている。頭が角刈りで眉毛が太く、無精髭を生やしていた。身長は、ホルトラスよりも頭二つほど高い。
ホルトラスと話していた村長だが、横にいる僕に気が付くと怪訝そうな顔をし、ポツリと言った。
「この子は奴隷かのう?」
「い、いや。このお方はエリア様と言って、奴隷ではないんじゃが、首輪が呪いで外れんらしい。旦那様と少し縁がおありの方でございますじゃ。不作が続いておるということで、畑を見に来られたのじゃ……」
ホルトラスはそう言って、村長に話を聞きたいと言った。村長はそれ以上、僕のトラウマの首輪を気にすることもなく、ホルトラスと僕を歓迎してくれた。
村長があんまり気にする人じゃなくて助かったよ。説明が面倒だからね。
この村長は、それほど奴隷に対する偏見は持っていないようだ。そして、ホルトラスが、気になることを村長に聞くようにと話を振ってくれたので、聞いてみることにした。
「村長さん、一昨年と去年は種を撒いても芽が出なかったと聞いたけど、どんな状況だったの?」
「そうじゃのう、どの年も、正に、一粒も芽が出んかった」
「一粒も?」
「ああ、そうじゃ。種はどの村でもしっかりと選別をしておるはずじゃから、芽が出んはずがないんじゃが。御神水で浄化もしておるし、やり方は以前と何も変えておらんのになぁ」
村長も、合点がいかないと言った様子だ。
そうなのか。それなら、種には問題ないんだろうだけど……。
しかし、ちょっと気になるので、できるなら、今年の種を見せてもらえないかと言ってお願いすると、村長が家に戻り一握りの種を持ってきてくれた。
「これじゃよ。ほれ、みな中味が詰まっとる良い種じゃ」
村長は、僕とホルトラスの手に分けて種を乗せた。ホルトラスは村長の言う通り良い種だと言った。しかし……。
そうか、この二人には、分からないのか……。
種が腐っているということではないけれど、とてもネガティブなエネルギーを纏っている。
「あのね、言いにくいんだけど、この種はもう芽が出ないよ……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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