064-4-13_風?
064-4-13_風?
ホルトラスは、事件後、直ちに男爵夫妻とライラが王宮に連行されたと言った。
ラヒナだけは連れていかれずに済んだのか……。
「ラヒナ嬢は、よく無事でいられたんだね?」
ホルトラスにそう言うと、彼は、その事情を説明してくれた。
「旦那様は、ラヒナお嬢様のお生まれの発表をされませんでしてのう……」
ホルトラスによれば、ラヒナは、将来、修道院に入ることが決まっていたのだそうだ。ホルトラスもあまり詳しくはないと言っていたけれど、どうやら、ローズ男爵がそう決めていたらしい。
耳が聞こえなかったことが関係あるんだろうか? それにしても出生の発表をしないなんて……。
とにかく、そうした事情を背景に、ローズ家事件が起きた際には、逆にラヒナの存在を隠すことができたのだった。その時、ホルトラスは、男爵夫妻からラヒナの事を頼まれ、彼女を引き取ったらしい。その後、ホルトラスは、自給生活を送りながら、今日までラヒナを育ててきたようだ。
ホルトラスも大変だったろうけど、ラヒナは家族がバラバラになり、随分とさみしい思いをしているはずだ。ボズウィック男爵家の事を考えると、ローズ家に深く肩入れしない方が良さそうだけど、ラヒナの事を想うと、彼女が両親に再会できるように、なんとかしてあげたい。
あんなに一生懸命お祈りしてるんだから、僕の胸がキュンとなっちゃったよ。
ローズ家事件は、もう少し関係者に話を聞かないと良く分からない。しかし、ホルトラスに聞いてもこれ以上は知らなさそうだ。それについては、他を当たるしかない。それよりも、彼は小麦の事についてなら、かなりの知識も持っている様だ。彼に話を聞けば、小麦の不作と黒い魔石の関係が何か分かるかもしれない。ホルトラスは先程、今年、小麦の芽が出なければ、農家を止める村人が出ると言っていた。
「小麦の事を聞くんだけどね、今年の種まきはもう終わったの?」
そうと聞くと、ホルトラスは、元気なく肩を落とした。
「いいや、まだじゃが、もう間もなくですじゃ。ワシがこう言う事言うてはいかんのじゃろうけど、今年も、発芽は期待できんじゃろうのう……」
もう、諦めちゃってる? という事は、もしかすると、彼だけじゃなくて農民たちも諦めモードになっているって事?
「それって、何が原因なのか分かってるのかなぁ?」
ホルトラスは専門家だ。肌感覚としてでも何か掴んでいるかもしれない。すると、ホルトラスは、床を見つめながら大きく息を一つ吐いて、言った。
「ええ。ワシは、風が原因ではないかと思うとります」
「風?」
ちょっと以外な答えだ。
「風なんて、そんなに影響あるんだ?」
彼に詳しく聞いてみると、ただ、吹いている風のことだけを差して言っているのではなさそうだった。ホルトラスが風と言ったのは比喩的な意味だ。
「風と言いますのはな、蛇神様の神池から吹いてくる風ですじゃ。森のずっと奥にイグニス山という山がございましてな、お山の頂上にはご神池がありますのじゃ。ご神池には蛇神様が住んでおられる……」
ホルトラスの話では、村人たちが神聖な山として崇めるイグニス山の蛇神が蠕動することで、神池から溢れ出る清浄な気が山肌を伝って山麓から畑にまで届き、水と大地を浄化している。この地域では昔からそう考えられているという。ホルトラスはその一連の作用を風と言ったようだ。
「ここの者は、代々、先祖から、そのように伝えられておりますのじゃ。ご神池は神聖な場所で、普段、村人は立ち入りませんが、年の初めと、収穫祭の時だけは、蛇神様の祠にお供えを運びますじゃ。ところが、今は、恐ろしい魔獣が出ますのでな、誰も山には入れませんのじゃ」
イグニス山に神池の蛇神か……。とりあえずそこに行ってみれば、何か分かるかもしれない。
ホルトラスと話し込んでいると結構時間が過ぎていた。外の二人、いや、三人の様子を見に行くと、ラヒナとヴィースが手を繋いで、二人して夜空を眺めていた。エインセルはラヒナの肩にとまっている。
「中に入らないの?」
彼らの後ろから声を掛けると、ヴィースとラヒナが後ろを振り返った。
「エリア様、ラヒナは風魔法に適正がありそうです」
「そうなの?」
なんでそんなこと分かるのだろう?
ラヒナは、キョトンとした顔をしてヴィースを見上げている。ヴィースに聞いてみると、彼は、ラヒナの足元を指さして説明した。
「ここに手を翳してみてください。ラヒナの足元に風が小さくつむじを巻いております。辺りに風はございませんが、風がラヒナの足元から流れております」
「ホントだ!」
夜だから、分かりにくいけれど、手を翳すと良く分かる。確かに、ラヒナの足元から緩やかに風が吹いていた。しゃがんで風を確認していると、ラヒナも、自分の足元を覗き込んできた。ただし、手はヴィースの手をしっかり握って、繋いだままだ。ヴィースによれば、女神の祝福で、ラヒナの能力が現れ始めたということのようだ。
なるほど! ラヒナは妖精にも好かれているようだし、魔法使いに向いているのかもね。
ラヒナはヴィースの手を握りながら、後ろにいる僕を見て嬉しそうにニコニコしている。
「ねぇ、ラヒナ、魔法使いになりたいと思わない?」
魔法術師は貴重らしいから、資質があるなら伸ばしてやる方がいい。すると、ラヒナはヴィースの手を離してこちらに向き直ると、自分を指さして意外そうな顔をしながら言った。
「私がですか? 魔法使い……。お父様やお母様、お姉様のお役に立てるのでしょうか?」
「そうなるように頑張ることもできるよ」
そう言ってラヒナを励ますと、ラヒナは、「やってみたい」と言った。
「それなら、いつか一緒に風の精霊を探しに行こう!」
ニッコリと笑っているラヒナと、そう言って約束をした。もう月が上の方に登っている。お腹も減ってきた。
あっ、そうだ。ダニーに作ってもらったあれがあったんだ。
家に入って、上がりこまちから奥に上がらせてもらい、あれをみんなで食べることにした。
へへへ、まんじゅうだ。試作品だけどね。ダニーにレシピを伝え、試行錯誤してもらいながらできたやつだ。餡が小豆じゃないから食感や風味が本物とは違うけど、それにしても、ダニーにしてはなかなか上出来だ。
袋からまんじゅうを取り出し、みんなに配った。
「甘い菓子じゃな。それなら、この麦湯が丁度良いですじゃ」
ホルトラスはそう言って、小さな箱から炒った麦を出し、湯を沸かし始めた。
麦茶か。香ばしい匂いがしてきたね。
ホルトラスは麦茶をみんなに入れると、腰を落ち着け、まんじゅうを口にした。
「ほう、これは変わった味じゃが、甘くて旨い」
こういう時はやっぱり、和の味がほっこりするね。
「ラヒナちゃん、おいしい?」
ラヒナはニコニコ顔で饅頭を頬張っている。
「おいしいです。女神様ってなんでも凄い! あっ、ラヒナって呼び捨てで呼んでください」
「分かった。ラヒナ。じゃぁ、僕のことは、エリアって呼んでね」
そう言うと、ラヒナはにっこり笑って、「はい、エリア様!」と元気よく返事をしてくれた。
さて、美味しいお茶もいただいたし、今日は一旦帰るとしよう。また明日、調査の続きだ。ホルトラスとラヒナに明日また来ると言って、ヴィースとともにレピの屋敷に転移した。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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