058-4-7_カルキノスのカリス(挿絵あり)
てっきり、固い甲羅のカニ魔獣の口が、生臭い匂いとともにぶつかってくるものと身構えていた。しかし、想像に反して人の声がすると、温かい手が僕の両頬を抑え、そして、唇に、柔らかいものが触れた。
んっ!? あ、甘い香りがする……。お、女の人?
その唇は、僕の唇を優しくハムハムしてくると、次には、しっとりとしたものが……。
「んんっ!」
お、大人のキス……。
身体の力が抜けてうっとりしてくると、いつの間にか、そのまま、身を委ねてしまっていた。
お、お腹の下が……ジンとする……。
随分と長い時間そうしていたかもしれない。すると、閉じた瞼の裏に、あの種のイメージが現れはじめた。
あぁ、僕の中の種、クリトリアがまた少し開いて……小さな葉が少し顔を出したみたい……。
いつの間にかそのイメージに集中してしまっていたけれど、彼女がそっと離れたため、そこで我に返った。
「お、終わったの……?」
でも、まだ余韻が……。
その女性は、甘い声で言った。
「うふっ、最高の誉をいただきました。ああっ、女神様、私は女神様の二の眷属になりました」
彼女は、そう言った後、胸のあたりが青白く光り始め、彼女の全身を包み込んだ。
これは、し、進化!?
そして、その光は、次第に彼女に吸収されていくと最後には消えていった。
「ヴィースの時と同じだ!」
彼女は、片膝を床について胸に右手を当て、頭を下げた。目の前の彼女は、かなりインパクトが強い姿をしている。
綺麗な女の人だ!
年齢は若く見える。
アリサと同じくらいかな?
彼女の髪は真っ赤な色をしていて、ストレートで背中まで伸びている。目の色は灰色で唇が濃紺色だ。そして、その目は細く、顔立ちもシャープな感じがする。衣装を見ると、上半身は露出の多い恰好に胸当てや肘当てを付け、下半身は、短い鎧スカートと膝当てにブーツというようないで立ちだ。全体の印象は、メリハリのあるプロポーションが赤い色の戦闘服で纏われていて、腰には左右に短剣が一本ずつぶら下がっていることから、近接型の戦士に見える。
格闘家? 戦闘タイプだね。
しかし、一番目を引くのが、背中から生える二本の大きな赤黒いカニバサミだ。今は、それが左右にだらりと下げられていて、彼女の膝より少し低い位置まで届いていた。先端のはさみには牙のようにギザギザとした凹凸があり、メタリックな金属質だ。
「か、かっこいい……!」
彼女はお辞儀から直ると、僕の前に跪いた。
「はじめまして、女神様、エリア様とお呼びした方がいいでしょうか?」
「そ、そうだね。エリアと呼んでもらおうかな」
そう言うと、彼女は改めて右手を胸に当て、大きくお辞儀をした。
「私は、この湖で、甲殻類の頭目をしておりますカルキノスでございます……」
そして、この女性は、カニ魔獣の事やその一族について教えてくれた。それによると、レピ湖のカニ魔獣の生息数は数十万匹に上るという。彼女は、女神の祝福によってカニ型モンスターの最終進化形態、カニ精霊カルキノスとなったため、その影響力がレピ湖だけにとどまらず、あらゆるカニ型モンスターの最上位に並ぶ存在にまで進化したそうだ。
「そりゃ、凄いね」
「先程いただいた女神様の祝福によって、一族のさらなる成長が見込めるでしょう。私も、エリア様のおかげで、地上での生活も可能なほど強靭な身体に進化いたしました……」
彼女の話では、ヴィースが代表して眷属契約したものの、やはり、女神の祝福を直接貰うことの方が、より高いレベルで進化できるということだった。
そして、彼女は僕を見上げて言った。
「私に名をいただけませんでしょうか?」
「名前か。そうだな。じゃぁ、え〜と、カルキノスでしょ、それなら……カリスっていうのはどう? イメージに合ってるでしょ! 君は、カルキノスのカリスだ!」
ちょっと適当だったかな。
「ありがとうございます。私はカリス。エリア様の水先人となる者でございます」
気に入ってもらえたみたいだね。でも、女神の水先人って、斥候みたいな存在かな?
「カリスって、ヴィースと、どっちが強いの?」
失礼かとも思ったけど、ちょっと気になったから聞いてみた。するとカリスがにこやかに微笑んで説明してくれた。
「総合的な強さはヴィースの方が圧倒的です。しかし、私は接近戦を得意としておりまして、俊敏さには自信がございます」
「へぇ~、そうなんだ。やっぱり格闘家だね」
カリスも精霊だから、人間は彼女の相手にならないだろう。彼女は、短剣や体術攻撃だけではなく、当然、カニに特化した魔法やスキルを持っているらしい。
カリスの戦っているところも見てみたいね。
特に、あのカニバサミは、戦いのときどんな使い方をするのか興味がある。なにわともあれ、何とか女神の祝福を終えた。これで、計画どおり魔石の回収を進めることができそうだ。
転移して湖畔に戻ると、待っていた三人にカリスを紹介した。
ーーーー。
「みんなお待たせ! 男爵様、紹介するよ。彼女、カリスというんだ」
カリスが軽く会釈をすると、男爵とイリハが目を丸くした。そして、イリハは、カリスを上から下まで舐めるように見て、驚くように言った。
「さっきの大きなカニ魔獣が、カリスさんなの!? し、信じられない! 美人さんだ」
そうしてチラリと男爵を見る。
ジト目だね。
一方、男爵はというと、やっぱりカリスに見とれている。しかし、男爵は、イリハの視線に気が付くと急に動揺し始めた。
「さ、流石はレピ湖だ」
流石って、何が? 意味不明だ。
まぁ、男爵様の態度は、後でイリハがローラ夫人に告げ口するだろう。御愁傷様。
「じゃぁ、打ち合わせするよ」
そう言って、カリスの紹介が終わると、五人で作業の段取りを打ち合わせることにした。まずは、レピ湖の湖底に黒い魔石の仮置き場を設置して、一旦、そこに魔石を集める。それを、まとめて浄化してから岸に上げる計画だ。いきなり地上に上げてしまえば、岸辺がネガティブエネルギーに侵されてしまう。魔石の量が大量だと人海戦術になるけれど、レピ湖のカニ型生物は、数十万匹生息しているということなので、一匹が一個運べば、あっという間に作業を完了できるだろう。レピ湖の面積は大きいのでリレーするという方法もある。
まぁ、その辺りはカリスに任せるとして、こちらは、岸での受け入れ準備だ。
そして、受け入れ作業は、男爵が買って出た。一口乗らせろと言うだけあって男爵は積極的だ。湖畔の周辺を柵で囲い、分別しやすいように積み上げる場所を、種類ごとに杭を打って区分するとのことらしい。最初から、ここはボズウィック家別荘のプライベートビーチみたいなもんだから、あまり他の人は来ないようだけど、念のため見張りも付けることになった。
これで、回収作業の準備は整った。そして、早速、カリスは作業に入ると言って湖に帰って行った。
しばらくは作業を手伝えないから、それぞれに任せることになるけど、大丈夫そうだね。
それにしても、二人目の眷属ができて嬉しい。とても頼もしいし、いろいろ頼ってしまいそうだ。カリスって、姉御って感じがするもんね。
ーーーー
カリス
AI生成画像
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