057-4-6_レピ湖のカニ魔獣
黒い魔石の回収は、レピ湖に棲む魔獣にお願いするのが手っ取り早い。彼らは湖の隅から隅まで分かっているだろうし、作業を担ってもらうには彼らが適任だ。もちろん、苦労を掛ける彼らには、僕から直接お願いするのが礼儀である。とは言え、どんな魔獣がいるのか知らないので、事前にヴィースにお願いして、声を掛けてもらっている。彼はレピ湖の主でもあるのだ。その話を男爵様にした時、彼もどんな魔獣か見てみたいと言ったので、一緒に着いて来てもらうことにした。すると、イリハも行くと言い出した。
まぁ、危険は無いだろうからイリハにも来てもらおう。
そして、午後のティータイムの後、ヴィースと男爵、そして、イリハとともに、転移魔法で再びレピ湖の湖畔にやってきた。
レピ湖のほとりは、穏やかな風が湖側から岸の方へと滑るように吹いており、湖面には、風に煽られた小さな波が立っていた。午後の柔らかな陽光がその波にキラキラと反射して、水面を飛び跳ねる小さな妖精のようだ。
「じゃぁ、お願い」
ヴィースに合図を送ると、彼は、右手を湖に向けて何かを念じながら魔力を放った。しばらくして、湖面に泡が立ち始め、それが段々と激しさを増してくる。すると、泡の中から赤黒い巨体が姿を現した!
「来たっ!」
その魔獣は体長が五メートル程もあり、二本の巨大なハサミを誇示するように振り上げている。
「大きなカニだね!」
魔獣は、浅瀬までやってくると、互いのハサミを打ち合わせた。すると、解体現場の重機のアームが鉄骨を崩しにかかった時のように、金属同士がぶつかる高い音が辺りに響き渡った。男爵とイリハは及び腰になりながら、僕の後ろに身を小さくしている。それでも、男爵は、魔獣から目を離さず目の前の大きな存在を指さして言った。
「い、厳ついカニだが、あ、あの魔獣が力を貸してくれるのか?」
「そうみたいだね」
イリハも興味深そうにして、僕の陰から顔を覗かせて言った。
「強そう〜!」
「奴はカニ魔獣の頭目だ……」
ヴィースが魔獣について説明を始めた。彼によると、このカニ魔獣は、いわゆるレピ湖におけるカニ型魔獣の親玉ということだそうだ。そして、レピ湖は、レムリア大陸にある淡水湖の中でも最大級の大きさのため、湖の大きさからして、この魔獣ほどの大きなカニは、他にいないだろうということだ。そして、このカニ魔獣は、ウィンディーネの眷属だったらしく、半精霊化して自我を持っている上、ウィンディーネとの眷属契約が解除された後も、ヴィースを通して、既に僕の眷属になっているとのことだ。
カニ魔獣は岸に上がってきて、ブクブクと泡を吹きながら、ゆっくりと僕の前に近づいてきた。男爵とイリハは、後退りしてカニ魔獣から距離を取り、二十メートル程離れた所に移動した。
「ボコボコボコ、ボコボコボコ」
「なんて言ってるか分かる気がするな」
どうやら僕に挨拶しているようだ。こちらからも挨拶と作業協力のお願いの意図を魔力に込め、カニ魔獣に向けて流した。すると……。
「ボコボコボコ、ボコボコボコ」
ん? あれ?
どうもおかしい。何やら、素直な返事じゃ無い気がする。
「ヴィース。僕には、このカニ魔獣が、何か条件を出しているように思うんだけど? どうなの?」
ヴィースはカニ魔獣に向かって仁王立ちしていたが、澄ました顔をこちらに向け、事実を淡々と伝えてくる。
「奴は、祝福のキスをねだっております」
「何でだよ? もう、僕の眷属なんでしょ? 女神の祝福して何か意味あるの?」
「ボコボコ、ボコボコ、ボコボコボコ」
ヴィースに言ったつもりだったのに、カニ魔獣が会話に入ってきて何か言っている。すると、ヴィースが通訳した。
「奴は、女神の祝福が欲しい、さもなくば……」
「協力しないって言うのっ!」
最後まで聞かなくても分かる。そして、ヴィースがあっさり、「はい」と返事をした。
「何だか、足元を見られているよね」
しかし、減るものでもないし、女神の祝福を出し惜しみしたい訳でもない。ただ……。
「この人、カニでしょ! どこにキスするの?」
どうせ、口だよね! ブクブクブクブク泡吹いてるんだよ。今もずっと……。
「む、無理に決まってるよ、そんなのっ!」
ところが、ヴィースは何も言わず腕組みしながら立っている。
ううっ! ヴィースめ! 黙り込んじゃって、ヴィースのせいじゃないけど、なんか腹立つっ!
しかし、カニ魔獣が協力してくれないと計画が頓挫することになる。
「ど、どうしよう……?」
せめて、もう少し可愛いキャラならねぇ。
ヴィースの時だってそうだ。彼が首長竜のままだったら、キスをしていたかどうか分からない。
ん? あっ! いいことを思いついたかもっ!
「あのさヴィース、古代遺跡に行けば、この魔獣もヴィースの時のように人型になったりしないかな?」
彼は素っ気なく返事をする。
「分かりません。しかし、ウィンディーネ様がいらっしゃる時には、人型だった奴の姿を見たことがあります」
そ、そうか、人型ならなんとか頑張れるかも。
「よし、場所を変えよう」
そうして、男爵とイリハには、ヴィースと湖畔で待っていてくれるように言って、僕とカニ魔獣は古代遺跡に転移した。
ーーーー。
「ここは、やっぱり清浄だな……」
そして、振り向く。すると……。
ガクッ、巨大カニのままだよ。
「トホホ」
それから、さらに数秒待っても変化しない。
ああ、もう、こうなったらやけだっ!
四の五の言っていても仕方ない。さっさと終わらせて話を進めよう。後で、うがいすればいいだけだ。
ううっ! でも、カニの口って生臭そうだよなぁ〜。
「はぁ~、も、もういいっ! 好きにしてっ!」
ギュッと固く目を閉じ、唇を突き出した。すると、カツカツという足音とともに、大きな気配が近づいてくる。
「早くしてねっ! 一瞬でねっ!」
目の前で足音が止まった。
も、もうっ、く、来る、来るよ……。
「それでは、頂戴します。女神様」
えっ?
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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