055-4-4_解決策
そう言うとみんなの視線が集まった。一番驚いて僕を見たのは、もちろんバイドンだ。
「あの、エリア様、任せると言いますと?」
そう言って彼が聞き返した。
「僕に任せてくれれば、人工魔石を湖底から回収するよ。ただし、報酬はいただくけどね」
しかし、バイドンの反応は、あからさまに不信感を抱いているものだ。
「いや、しかし、どうやって? いやいや、そもそも、エリア様のようなお子様が関わるような話ではございませんが。それに……」
彼は、奥歯に物が挟まったような言い方をした。
何? ああ、そういうことね。
「これが気になるんだよね。バイドンさん」
喉元を触って、彼に銀のチョーカーを見せるように顎を上げた。
でも、いちいち、これは隷属の首輪ではないなんて、説明するのも面倒だな。僕が奴隷だったことは事実なんだし、それに、男爵様にもちゃんと言ってないんだもんね。
「え、ええ。先程、男爵様からエリア様をボズウィック家のご家族にされたと聞かせていただきましたが、私としては、どうも男爵様のお考えが分かりかねます……」
彼がそう言うと、談話室に、一瞬、緊張が走った。イリハとローラ夫人、そして、メイドたちもみな、バイドンに対し、睨むような視線を浴びせている。
ちょっと、みんな落ち着いて!
バイドンは、自分に向けられた厳しい視線に気付いて、体を小さくし、うつ向き加減になった。
どうしよう? 気まずい空気! バイドンの態度がみんなの気分を損ねちゃったよ。このままでは、メイドの誰かがバイドンのお茶に雑巾のしぼり汁でも入れそうだ。
すると、男爵が場を繕うようにバイドンに言った。
「まぁ、君の言いたい事は分かる。しかし、この事は、私とローラ、そして、イリハの、いや、使用人のみなも含めて、この屋敷の全員が同じ気持ちなのだよ。詳細は言えないが、エリアがいなければ、今頃、このボズウィック家は、深い悲しみの中であらゆる希望を失っていただろう。バイドン、君もこれからエリアと関わることで、その意味を理解することになるはずだ。それに、この屋敷には奴隷などおらんことを君も知っているだろう?」
そんな風に言われると、ちょっと照れるけど、嬉しいかな。まぁ、今さら誰かに奴隷扱いされようが、特に腹も立たないけどね。
男爵がそう言ってくれたおかげで、少しは、空気が和らいだ気がする。すると、バイドンが急に立ち上がり、僕に向けて九十度腰を曲げ、謝罪した。
「申し訳ございませんっ!」
彼は、自分の態度が、その場にいる全員の気を悪くしてしまったことに焦ったのか、平謝りの状態だ。
まぁ、バイドンさんが、特別、奴隷に厳しい見方をしている訳でもないだろうけどね。
そう思いながら彼の顔を見た時、バイドンは、一瞬、苦痛に耐えるように眉を寄せて顔をゆがめさせた。
ん?
彼を見ると、どうも腰が痛そうだ。謝罪から身体を起こすときも、バイドンは顔を顰めた。どうやら、彼は腰痛持ちのようだ。
今後のお付き合いもあるし、治しておいてやろうかな。
バイドンには、まだ信用されていないようなので、少し力を見せてやることにした。多少は僕への見方が変わるかもしれない。
「バイドンさん、ちょっと後ろ向いて」
そう言うと、バイドンは何をされるか不安そうに後ろを向いた。彼の腰に手を当てる。そして魔力を流してみた。すると、彼はヘルニアを患っているようだった。これなら、デア・オラティオを使うまでもなく簡易な治癒魔法で十分だ。
「腰痛持ちのバイドンさん。僕が治してあげるよ」
「え? い、いや、しかし……」
ムニャムニャ言っている彼の態度は無視だ。そして、魔法を放った!
「ヒーリング!」
淡い緑の優しい光が彼の腰に集まり、彼の身体に浸透していく。男爵にローラ夫人、イリハや他の使用人たちは、その様子を何も言わずに見ていた。光が消えて完了。施術はあっという間だ。
「どう? 腰を曲げてみてよ」
彼に様子を聞いてみると、バイドンは不思議そうな顔をして、慎重に、ゆっくりと前や後ろや横に腰を曲げた。しかし、痛みを感じないと分かった彼は、立ったまま前屈をし、上体を起こすと、驚くように言った。
「い、痛く……ない!?」
「そうでしょ。もう治ったよ」
そう言って、彼の腰をポンポンと叩いて、笑顔を向けると、バイドンが腰に手を当てながら興奮して言った。
「す、凄い! ずっと患ってたんですよ。このあたりの治療術師に診せても、なかなか良くなりませんでしたので、王都に帰ったら、腕の良い治療術師を探そうと諦めていたのですが……」
バイドンは、腰に手を当て、その場でニ、三度大きく腰を捻った。
「し、信じられないっ!」
彼は、興奮しているようだ。ところが、バイドンは、何を考えたのか、大喜びのあまりとんでもない行為に及んだ。
「エリア様、失礼!」
彼は、そう言って僕に一度お辞儀をし、突然、僕を抱き上げると、頬にキスをしたっ!
「ありがとうっ! チュッ!」
「うぇっ! ちょ、ちょっと何すんの! 髭が痛いでしょ!」
さっきまで人を蔑んでたくせに、何を考えてるんだよ、この男はっ!
よほど腰痛に苦しんでいたのかして、バイドンは、興奮が収まりそうにない。彼に抱きかかえられながら、思わず手で頬を拭いた。
男にキスされても、嬉しくないんだって!
しかし、彼は、僕を高い高いして笑っている。
もう、それくらいにしておいてよね。分からないのかな? この、敵意に満ちた彼女たちの視線が……。
一連の様子を見ていたローラ夫人の目が、ヤバいほど厳しい。すると、アリサが、足音をツカツカ立ててやって来ると、バイドンから僕を奪い取るように引きはがした。
「エリア様をこちらへっ!」
そして、アリサはハンカチで僕の頬を拭いた。さらに、アリサは、バイドンを睨みつけ、僕の椅子を彼から少し離してから、そこに僕を座らせると、また、つかつかと元の位置に戻って控えた。アリサの顔がツンツンとしている。イリハも不潔なものを見るように眉毛を寄せてバイドンを見ていた。しかし、当のバイドンは、何もなかったかのように椅子に腰かけた。
きっと、バイドンさんは、感謝のハグチューくらいに思ってるんだよ。もう、二度とゴメンだけど。
男爵が苦笑いして話を続けた。
「……では、話を戻すが、バイドン。魔石の回収の件はエリアに任せるということで異論は無いな?」
バイドンは、僕の力に納得したのか、「もちろんですっ!」と大きな声で答えた。男爵は、バイドンの返事を聞いた後、みんなに念を押すように、言った。
「ならば、この件は、エリアに任せる事とする」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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