054-4-3_バイドン・レイブン隊長
男爵は、その男を見てにこやかな顔つきで言った。
「おおっ、バイドン! 久しぶりだ。それにしてもいいところにやってきたな。今、あの魔石について話をしておったところだ」
そして、モートンが、その男バイドンを、男爵の向かいの席に案内した。バイドンは、入口の脇に立っていたティグリースに軽く会釈をすると、腰の長剣をモートンに預け、案内された椅子に座った。彼が椅子に座ったとき、彼と目が合った。
僕のチョーカーを確認したね。
彼は、一瞬、目の色が険しくなった。そして、男爵も彼の視線を見逃さなかったようだ。
「バイドン、この子の名はエリアだ。イリハとは同い年だが、イリハの姉としてボズウィック家の家族になってくれた。よろしく頼む」
「さ、左様でございますか。では」
バイドンは席を立ち、僕に向き直り、胸に右手を当てて深々とお辞儀をした。
「バイドン・レイブンと申します。王宮騎士団のレピ出張所で隊長をしております。以後、お見知りおきを」
僕も慌てて椅子から飛び降り、カーテシーをして挨拶した。
「僕は、エリアです。お会いできて光栄です」
奴隷に見える僕に、正式な挨拶をしてくれた。
誠実な人かな? それとも、男爵への配慮だろうか。
男爵が、「うむ」と頷き、先程までの黒い魔石の話をバイドンに説明した。
ーーーー。
「……という訳だ。バイドン」
「では男爵様、この魔石が湖底に大量に投棄されている疑いがあると?」
バイドンは、男爵の話に身を乗り出した。
「そういうことだ。このままでは近いうちに、人的被害が出るだろう」
男爵が神妙な顔をしてそう言った。すると、バイドンが真剣な面持ちになって話す。
「男爵様、今のお話に関係があるか分かりませんが、昨日、湖で人が魔獣に襲われるという事件がありまして……」
「何だとっ? 何があったのだ?」
男爵が驚いてバイドンに聞き返した。バイドンによると、昨日の夕刻、一人の漁夫が湖底に仕掛けていた漁猟の罠を回収していたところ、鋸魚の群れに襲われたらしい。その漁夫は、幸いにも岸辺近くで作業をしていたので、何んとか自力で岸に這い上がり助かったが、右手と左足に大怪我を負ったようだ。魔獣の被害は、王宮騎士団に通報することになっていることから、今朝になって、バイドンに報告が上がったというわけだ。
バイドンが続けた。
「鋸魚は、一匹の体長が六十センチほどで、鋸のような歯を持つ小さな魚魔獣ですが、普段は群れで行動することはありません。それに、本来は臆病な魔獣のため、自分より大きな生き物を襲ったりはしないのですが、団員によると、傷口は、何かに食いちぎられ肉が抉られていたということです」
男爵が腕を組みをした。
「う〜む、鋸魚か。そうだな、あまり鋸魚に人が襲われたなどとは聞いたことがない。それで、漁夫が襲われた付近は、今、どのような状況なのだ?」
バイドンは、王宮騎士団の対応内容を説明した。王宮騎士団では、とりあえず、浜を立ち入り禁止とし、周囲の見まわり警備を強化しているということだ。そしてバイドンは、男爵に対しその対応への理解と協力を求め、魔石の調査結果について話した。
「男爵様、いろいろとご不便をおかけいたしますが、よろしくお願い申し上げます。それから、この前、ご依頼いただいていた黒い魔石の件ですが、私の方で調べたところ、どうやら魔法に使用する人工魔石ではないかということが分かりました。これはアトラス共和国の技術なのですが、魔法術師が使用している杖に装着するものらしいです」
「ほぅ、魔法の杖にな……」
魔法の杖? 確かに見た事ある。
「ええ。共和国の魔法技術では、魔石を大量に消費いたします。魔法の杖に装着する魔石もある程度使用すると交換が必要になるようです。湖底に大量にあるというのなら、恐らく、その魔石でしょう。人口魔石は魔力を正の力として放出する一方、負の力を蓄積すると言われております。負の力を一定程度溜めた魔石は浄化して再利用するよりも廃棄する方が安上がりでしょうから」
なるほど、人口魔石は使い捨てにされているのか……。
そう聞いて、黒い魔石がネガティブなエネルギーを発していることに納得がいった。精霊や妖精など自然の力を使う魔法とは違い、人口的に魔力を扱うには、本来、自然に備わっているような浄化の仕組みがないということだ。それで内部に負のエネルギーを溜め込んだ魔石は黒く変容し、それらの負のエネルギーが外へと漏れ出してしまうということのようだ。
バイドンが続けた。
「しかし、魔獣への悪影響が本当ならば、レピ湖を立ち入り禁止にするだけでは、十分では無さそうです。狂暴化した魔獣に備える必要がある」
そう言って、バイドンは男爵に別荘の自衛警備強化も合わせて要請した。男爵は、バイドンの要請を快く了承した上で、男爵がもっとも懸念していることを話した。
「君は王宮騎士団に所属しているから、あまり関わってはいないだろうが、貴族の派閥争いのことは知っているだろう?」
「もちろんですよ」
バイドンが怪訝そうに返事をした。
「バイドン、もしこれが、単に古い魔石の処分に困った者がやったことではなく、誰かの意図的な仕業だとしたらどう思う?」
ん?
男爵は、レピ湖に捨てられた黒い魔石は、処分すること以外の目的があると考えているようだ。でも、今、男爵は派閥争いの話を出したけれど、何の関係があるんだろう?
「どういう意味ですか?」
バイドンが眉を寄せた。そして、男爵は、アルバスの屋敷でイリハに起こったことを、具体名を伏せながら一例としてバイドンに話した。つまり、僕たちが懸念している通り、貴族どうしの派閥争いに、黒い魔石のネガティブ効果が利用されている可能性があるということだ。
「もし仮に、湖の魔獣が暴れ出し、町に被害が出たとしたら、それは誰の責任になるのだ?」
バイドンが動揺するように答えた。
「そ、それは、王宮騎士団であり、隊長の私の責任となります……」
男爵は、他のみんなにも分かるように、一つ一つの事実を確認しながら、改めてバイドンに念を押した。男爵によると、まずレピ湖は王宮直轄地の一部であり、魔獣災害を含め、何か事故があれば、王宮が対処する問題となる。すなわち、王宮騎士団の責任となる。そして、バイドンの出身はレイブン侯爵家。彼はレイブン侯爵の次男で、レイブン侯爵はレムリア派の旗頭的存在とのことだ。
そういうことかっ!
男爵が、アトラス派を疑っていたのはバイドンがレピ出張所の隊長だということも踏まえた上での話だった。男爵の思慮深さに感心する。そして、その考えは、当のバイドンにも伝わったようだ。
「ま、まさかそこまで……」
バイドンはようやく事の重大さを理解したようだ。
男爵が続けた。
「今はまだ、アトラス派の仕業という確証はないが、魔獣が暴れ出してからでは遅いだろう」
すると、バイドンが力なく言葉をもらした。
「し、しかし……」
どうやって食い止める? と言いたいようだね。
それに、派閥争いが大本の原因なのだとしたら、ターゲットは自分であり、彼はその責任を感じているのかもしれない。
男爵がバイドンに向かって言った。
「とにかく、何か解決策を考えねばならんだろう。バイドン・レイブン隊長、我がボズウィック家も全面的に王宮騎士団に協力しよう」
バイドンが席を立ち、男爵に敬礼して、「ご協力、感謝いたします」と言った。そしてバイドンは一礼し、立ち去ろうとした。
「ちょっと待って」
そう言って、立ち上がったバイドンを引き留めた。まだ、話は終わっていない。彼が王宮騎士団の出張所に戻ったところで、今のところ王宮騎士団には解決策が無さそうだ。このまま時間が過ぎると、湖の周辺住民が一番困ることになる。それに、強権的に住民が避難を命じられるかもしれないし、そんなことをされても面倒だ。
「バイドンさん。レピ湖の件を僕に任せてくれない? 解決策があるんだ……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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