053-4-2_黒い魔石
そう言って、また男爵に深くお辞儀をした。
「うむ。しかし、イリハが自分の魔法適性について、それほど悩んでおったとは。ワシは気が付いてやれんですまなかった」
男爵は、イリハに向かって言った。イリハは、そう詫びる父親に対して自分の思いを伝えた。
「お父様、黙っててごめんなさい。私、みんなに心配かけちゃったし、それに、レイナードお兄様のように立派になって、私も、将来、王国の力になりたいの。だから、精霊様のイニシエーションを受けてみたい」
イリハはしっかりしてるよね。貴族令嬢なら、将来は家のために条件の良い結婚をすることが求められる世界だろうけど、ちゃんと目標をもってるから偉い。
ローラ夫人が優しい眼差しでイリハを見つめている。男爵もイリハの話すことに頷きながら、彼女の顔を嬉しそうに見ていた。
男爵が僕に向かって言った。
「それで、エリア。タラスコスのトゲの色が緑色に変わったと聞いたが、イリハの適性はどうなのだ?」
「樹木属性だろうね」
「そうか、イリハ、凄いじゃないか。樹木魔法か。それは珍しい。ワシも樹木魔法の術師には会ったことがないぞ」
男爵は、そう言って、にこやかに頷いた。すると、イリハが、真剣な目をして僕に聞いてきた。
「樹木の精霊様ってどこにいるんだろう?」
どこなんだろうね?
ヴィースに視線を送った。するとヴィースが答える。
「樹木の精霊ドライアドは、太古の森の奥深くにいると聞く」
それを聞いて男爵が言った。
「おぉ、それならワシも聞いたことがある。樹木の精霊様のいらっしゃる太古の森は、レピ湖の対岸にある獣人の里のさらに奥だ。そこは、太古より人が入植していない広大な森だそうだ。そしてそのどこかに、妖精様や精霊様が宿るひと際大きな神樹があるのだと。おいそれと行けるような場所では無いだろうがな」
へぇ~、楽しそう! 冒険の匂いがするよ。
しかし、イリハは、男爵の言葉を聞いて下を向いてしまった。
「あなたっ!」
ローラ夫人が男爵を諫めた。
「すまんすまん、イリハ。精霊様は同時にいくつかの場所にいらっしゃると聞くから、それ以外の場所を探すという手もある。既に契約している魔術師に聞けばよいことだ」
男爵はそう言ってイリハを慰めたようだけれど、確かに、そう簡単に行けるような場所ではなさそうだね。
でも、レピ湖の湖底に古代遺跡があったことを考えると、その場所にも僕の探す円錐の塔があるかもしれない。だから……。
行くしかないっ!
「イリハ、僕は必ず行きたいと思ってるよ。そのときは、一緒に行こう!」
そう言ってイリハに声を掛けてあげた。するとイリハは、両手をグーに握って言った。
「本当!? エリア、必ずよっ!」
「もちろんさ!」
イリハと約束をしたからには、必ず行かないと。
モートンが、その場の会話が途切れたことを見計らったかのように、言葉を差し込んだ。
「みなさま、よろしいでしょうか。それでは次に、黒い魔石の件でございます。こちらについては、エリア様からご説明いただけますでしょうか?」
モートンから振られたので、持ち帰った黒い魔石と、浄化した魔石を、テーブルの上に取り出した。
「これだよ。タラスコスの腹から出てきたんだけど、全部で五十本以上あった。その内、少しだけそのままの状態で持ってきて、後は砂浜で浄化したんだ。あまり、お屋敷に持ち込まない方が良さそうなものだからね」
やはり、黒い魔石は空間をどんよりとさせた。談話室のような、密閉された部屋ではなおさらだ。モートンが、メイドたちに指示を出して、扉と窓が開け放たれ、ようやく風通しが良くなると、男爵が話し出した。
「この前、ヴィースが持ってきたものは、王宮騎士団の詰め所で調査を依頼している。それが何なのか直ぐに分かるだろう。それよりも、問題なのは湖の魔獣の様子だが、モートン、詰め所の方では、湖での変わった情報は、今のところ無いと言っていたそうだな?」
「はい、旦那様……」
モートンは、一昨日、詰め所に行って聞いてきたことを話した。それによると王宮騎士団が管轄するレピ湖の周辺では、今のところ、特に変わった事件などは起きていないとの事らしい。
男爵が話を続けた。
「しかし、あのタラスコスは我を忘れていたようだったが、この黒い魔石が原因であったことは間違いないだろう。エリア、どう思う?」
「そうだね。間違いないよ。ヴィースも言ってるし、問題は、どれくらいの量が湖に捨てられているかということじゃないかな。これを見てよ」
そう言って、黒い魔石の濃い色のものと薄い色のものを手に取ってみんなに見せた。魔石は、それぞれ微妙に色の濃さが異なる。その理由について思い当たることを男爵に話した。
「色の濃さが違うのはきっと、浄化の進み具合だと思うんだ」
そして、浄化した透明の魔石を男爵に見せる。恐らく魔石は、真っ黒だったものが湖の魔力効果で浄化が進行しているのだと思う。それが色の違いとなっている。しかし、魔石が浄化されるとき、周辺にネガティブなエネルギーが拡散していき、湖の生物たちに影響するんだと思う。そう説明すると、男爵が顎を撫でながら言った。
「なるほど、もし大量に捨てられていれば、浄化するまでの間、魔獣が異常な行動を取る可能性が高いということか……」
その時、メイドが談話室の開いている扉をノックした。外からの客人を案内してきたようだ。メイドに案内されてきたのは、近衛兵のような立派な制服を着た精悍な顔つきの男だ。年齢は三十前くらいか。その男は入口のところに直立不動で敬礼し、明るい元気な声で挨拶をした。
「ボズウィック男爵様、お久しぶりでございます!」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
と思ったら
下の ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願い申し上げます。
面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に励みになります。
重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。




