049-3-14_ローラ夫人の決意
そして、ローラ夫人が、懐から小さな包み紙を出した。ローラ夫人は、それが、毒草の粉末だと言った。男爵が驚いてローラ夫人を見ると、ローラ夫人が男爵に向かって、真剣な眼差しをして言った。
「相談もせずに、勝手な事をしようとして、申し訳ございません。しかし、もしも、女神様が、私の願いをお聞き入れなさらなかったとしても、イリハを、あの子を、一人きりで逝かせるつもりはございませんでした……」
ローラ夫人の驚くべき決意を、男爵は、今、初めて聞いたようだ。しかし、男爵は、暫し黙考し、何かを飲み込んだ様に、大きく息を吸い込んでまた吐き出すと、ローラ夫人がテーブルの上に差し出した包み紙をアリサに渡し、処分するように言ったきり、それ以上何も言わなかった。
ローラ夫人は話を続けた。
「恐らく私の命は、本来、この世から消えゆくはずの運命だったのでしょう。あるいは、イリハ共々そうであったのかもしれません。あの日、エリアさんが初めてお屋敷に来ていただいた時の事です。私は、ずっと、イリハの側でおりましたが、あの朝、イリハは、とうとう私の呼びかけに反応が無くなりました。……私は、その時が来る前にと、毒の包みを懐から取り出したのです。しかし、突然、明るい光が窓から差し込むと、何んと、イリハが……イリハが目を開けて……」
ローラ夫人は、泣きながら話を続ける。
「わ、私は、毒を飲むことを……躊躇してしまいました。ううっ……。そして、私は、主人にお願いし……エリアさんを、イリハの側へと……お呼びしたのです……」
そうだったんだね。僕の火球魔法が、そんなふうに役に立っていたとはね。
「私は、女神様への信仰とは裏腹に、イリハが回復するという希望を、失いかけていたのかもしれません。ただ、もう一度、イリハが目を開けてくれないかと……。その思いだけで、エリアさんをお呼びしたのです。私は、女神様の元に逝く前に、もう一度、イリハが生きていると見届けたかった……ただそれだけだったのです」
あぁ、ローラ夫人の覚悟が伝わってくる。ダメだ、僕も泣きそう。ほら、アリサはもう泣いてるし、と思ったらモートンも号泣だ。何とか声は抑えているようだけど、彼は、その場にいたからね。
ローラ夫人はハンカチで目頭を押さえた。アリサがローラ夫人の元に行こうとしたけれど、夫人が手でそれを制し、話を続けた。
「しかし、奇跡は起こりました。イリハも私も、まだ命が尽きるときではなかったのです。これは間違いなく、女神セリア様の思し召しです。女神様は、エリアさんをこのボズウィック家にお使いになられ、私どもに、生きよ、とおっしゃったのでございます。ならば、私どもには、使命がまだあるはずでございます」
ローラ夫人はそう言うと、僕の事を真っすぐに見据えて話した。
「主人が申しましたように、息子のレイナードは精霊様のご加護に恵まれており、それだけに、この先、王国のため民のために、その役目を果たさねばなりません。もし、王国の混乱を目論む不穏な意図があるのならば、王の剣となって、悪意を成敗することが息子の使命です。そして、主人を始め、私やイリハも、息子をしっかり支えてまいりたいと決意しております。エリアさん、エリアさんのお力で息子を導いていただけないでしょうか? 親の身勝手なお願いではありますが、今一度、お力をお貸しください」
ローラ夫人、凄い決意をしていたんだね。
彼女の決意には驚かされた。男爵は、それを知らなかったようだけど、レイナードのことについては夫婦で相談してたんだろうね。でも、そんなに改まって言われると、逆にどう言えばいいか分からなくなっちゃう。
ボズウィック男爵夫妻は、派閥争いに巻き込まれてしまい、相手の派閥から悪意を向けられている。男爵やローラ夫人には、僕の力を説明したことは無いけれど、二人とも、イリハの回復を目の当たりにして、女神の力に縋りたいと考えたのかもしれない。だから、夫婦で話し合って、改まって僕に相談したという訳だ。この問題に関われば、この先、僕もこの国の派閥争いに関わっていくことになりそうだ。だけど、僕が、ここに導かれた時点で、僕のやるべきことは決まっている。
心のままに、だもんね。だから……。
「お願いなんて必要ないよ。僕は、もう、ボズウィック家の一員なんだから」
そう言って、ローラ夫人の側に行き両手を広げた。ローラ夫人は、僕を抱き上げると頬にキスをして、耳元に小さな声でささやいた。
「女神様。感謝いたします……」
男爵は、ローラ夫人に僕がハグされている様子を、微笑ましく見ていた。しかし、関わるとは言うものの、結構、やっかいな問題だ。レイナードに自重してもらうにしても、男爵が、ただ動くなと言ってもダメだろうし、レイナードが罰を受けないようにするためには、彼が、合法的にライラ・メリアル・ローズを救出する方法を考えないといけない。うまく事を運ばないと、かえって、アトラス派に足元をすくわれることにもなりそうだ。とにかく、もう少し、ローズ家事件がどのような事件だったのか調査をする必要がある。
「男爵様、レイナードお兄様にまだ動かないようにしてもらわないといけないし、アトラス派の動きも調べる必要があるよね。だから……」
ローズ家事件をもう少し調べてみたいと言った。そして、男爵から話を聞いた中で、気になる点を、もう一度、聞いてみることにした。
「男爵様。ローズ男爵領では、一昨年、これまでにない不作だったってことだったけど、去年や今年はどうなんだろう?」
すると、男爵は言った。
「聞いたところでは、去年も今年もまだ不作が続いているようだが、もしかして関係があるのか?」
「うん、ちょっと調べないと何とも言えないけどね。それと、第二王女様はどんな怪我だったのかも気になるんだよ」
「第二王女様は、あの事件以来、歩くことが、おできになられないそうだ」
男爵は、神妙な顔をしながらそう言った。
「結構、大怪我なんだね?」
それとも、魔獣に襲われて、よく命があったと考えるべきなのだろうか。それにしても、王女の行幸である割りに、警護がお粗末だったように思えるけど?
「第二王女様の警護はどんな体制だったんだろうね?」
男爵によれば、当時、第二王女の警護をしていたのは、第二王女の親衛隊と王宮騎士団数名、そして、ローズ男爵の警備隊だったらしい。王宮騎士団の数名については、彼らがレピ出張所の勤務交替時期を迎え、王宮から隊員が街道を通りレピの町に向かう途中、第二王女の警備に合流したとのことだった。男爵は、この話は、レピ出張所の王宮騎士団員から聞いたようだ。
しかし、男爵も疑問を口にした。
「事件の詳細はよう分からんが、街道沿いには、それほど狂暴な魔獣などおらんはずなのだがな……」
なるほど、なんか引っかかるね。
調査は早い方がいいだろう。男爵に、明日、ヴィースと二人でローズ男爵領に調査に向かうと言った。男爵は、息子のことでもあるし、本来であれば調査隊を出すべきところであるが、ボズウィック家として目立つ行動ができないと詫びた。
「エリア、スマン。しかし、ワシが動きを取りにくいとはいえ、無理はせんように頼む。エリアにもしもの事があってはいかん。それから、アルバスには早急に伝令を送り、レイナードには行動を自重させるようにするつもりだ。後は……」
男爵は、「できることなら何でも言って欲しい」と付け加えた。
「分かったよ。ありがとう男爵様」
まぁ、僕にすれば、これは異世界冒険なんだよね。ワクワク!
「面白いかも!」
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