047-3-12_イリハの決心とレイナードの手紙
「そんな方法あるんだっ!?」
ヴィースの言葉を聞いて、イリハも顔を上げた。彼女は、まだしょんぼりとした顔つきだけど、ヴィースの言ったことが気になったようだ。イリハは、ほんの少し好奇心が戻って来たような目になっている。
「私の魔法適性が分かるの?」
イリハは、ヴィースに向かってそう聞いた。ヴィースは、相変わらず腕組みしながら、イリハを見下ろして言った。
「もちろん分かる。ただし、魔法に適性が無い場合もな」
そりゃそうか。むしろ魔法適性が無い場合の方が多いんじゃないだろうか。ダニーの話でも魔法を使えるだけで国に仕官できるっていうことだったし。
しかし、イリハはしっかりと言った。
「私、試してみたいっ! もし、適性が無かったとしたら悲しいけど、それでも私、知りたいのっ!」
イリハは両手をグーにしてガッツポーズのようにし、ヴィースに自分の気持ちを伝えた。彼女の目には力がこもり始めている。
イリハが真剣だ! もし、ダメだったとしても、イリハは、その結果も受け入れる覚悟を決めたのかも知れない。
「イリハよく言ったね。それで、魔法適性を調べるってどんな方法なのかな? ヴィース?」
ヴィースは、イリハの返事を確認すると、イリハに向かって言った。
「試す方法は簡単だ。湖にタラスコスという魔獣がいる。奴は、動物の尻の匂いを嗅ぐ習性があり、匂いを嗅ぐと、奴の背中のトゲが光る。その光の色で見分けることができる」
「何だって!?」
お尻の匂いって? なんという変態魔獣なんだ。いやでも、あれか、動物って大概、お尻の匂いを嗅ぐよね。単なる本能か。
それにしても、魔獣にイリハのお尻の匂いを嗅がせるなんて。どういうシチュエーションがあり得るんだよっ!
イリハが自分のお尻に両手をやった。
「え~、お尻~?」
そうなるよね。そんなことできないよね? 大体、タラスコスってどんな魔獣なんだ、一体?
ヴィースに聞いてみると、彼は、タラスコスの特徴を説明した。
「タラスコスは頭がライオン、足は象の足で六本ある。蛇の尻尾を持ち、トゲのある甲羅を背負っている魔獣だ。体長は大きいもので、首長竜と同じほどだ。そして奴は、毒の息を吐き獲物を死滅させたうえで丸呑みし捕食する習性を持つ」
「無理だろっ!?」
そんな危険な魔獣にイリハのお尻の匂いをどうやって嗅がさせるっていうのさ、まったく! 開いた口が塞がんないよっ、お尻ごと丸呑みされるだろっ!
ヴィースが言った。
「どうする? イリハ」
「どうするじゃないだろっ! できるわけないじゃないかっ!」
しかし、イリハは言った。
「……私……やる、やってみたい!」
「本気なのか、イリハっ! 首長竜程もある大きな魔獣だぞ?」
イリハは、また、自分の手をグーにしてギュッと握りしめている。
「イリハ? 大丈夫?」
するとイリハが話し始めた。
「怖い……怖いけど、私……病気になって、ずっとね、お母様とお父様、それに、お兄様にも、とても心配をかけてしまったの。お兄様は、お父様の留守を守るために学園を休学して、お屋敷を守ってくれているわ。だから……私だって、頑張らなきゃいけないっ!」
イリハは自分の決意を言った。彼女は結核になったことで、家族に迷惑を掛けたと思っているみたいだ。
小さいのにそこまで考えてるなんて、なんて健気なの! でも、イリハ、首長竜の大きさ知ってるのかな? いや、言うのは止めとこう。
イリハは、僕の手を取って目を見つめ、力強く言った。
「エリア、お願い、力を貸してっ!」
イリハの目は純真で、しかも、覚悟をした目だ。すごいやる気になっちゃってる。イリハは、たとえ不本意な結果になったとしても、彼女は、それを受け入れるつもりだ。結果がどうあれ、イリハが前に進もうとしているのなら、応援してあげるべきだ。
それなら、やってみるか。
「もちろんだよ、イリハ。僕が付いてるから大丈夫だ!」
ヴィースは言った。
「タラスコスは満月の夜に湖の中ほどにある島に現れる……」
満月の夜までは、あと四日だ……。
ーーーー。
次の日の朝。
扉がノックされたと同時に、イリハが大はしゃぎで部屋に入ってきた。
「聞いてっ聞いてっ! エリア。アルバスのレイナードお兄様から手紙が来たのよっ! あなたのことも書いてあるわ、エリアっ!」
イリハは、白い便箋を何枚か手に持っていた。
「へぇ~、良かったね」
確かレイナードは、イリハより八つ上の兄さんだったな。それにしてもイリハ、嬉しそうだね。
今日のイリハは、クロスの髪留めで可愛くサイドを止めた髪型だ。そして、服装は、白いタイツと赤いチェック柄のスカートに、白のブラウスとスカートと同じ柄の上着を着ている。正統派美少女だ。その美少女が、満面の笑顔で部屋に入ってきたもんだから、一気に部屋が華やかな雰囲気になった。
「手紙には、なんて書いてあったの?」
イリハに手紙の内容を聞くと、彼女はベッドに飛び乗って僕を横に座らせ、持ってきた手紙を読み始めた。
「読むわよ。『僕の最愛の妹、イリハへ。イリハ、よく頑張ったね。僕は、女神さまになんて感謝をすればいいんだろう。僕のイリハを救ってくれたことに、僕はこの命さえ捧げたい気持ちだよ。イリハが元気になったと聞いた時、これ以上何もいらないと思った。僕のイリハに早く会いたい。イリハに会うまで、僕の心は落ち着かないよ。早く僕に元気なイリハの顔を見せておくれ』だって。お兄様ったら、ホント、せっかちね……」
せっかちって。
しかし、なんちゅう手紙だ! シスコンぶりが溢れ出てるよ。レイナード、かなりヤバい。
イリハは、手紙を胸に当てると、「はぁ~っ」と溜息を一つ吐き、ホッとしたように言った。
「レイナードお兄様にはたくさん心配かけちゃったけど、エリアのおかげで元気な顔を見せてあげられるわ。エリア、本当にありがとう」
「イリハが頑張ったからだよ、レイナードお兄様も、そう言ってるじゃない」
本当に良かったよ。イリハがアルバスに帰れば、きっとレイナードに揉みくちゃにされそうだな。
「それとね、エリアのことも書いてるわ」
イリハが言った。
「へぇ、そうなんだ」
イリハが手紙の続きを読み始めた。
「えーとね、いい? 『親愛なるエリア。君はイリハの命を救ってくれた。イリハは僕の命だ。だから、君は、僕の命も救ったんだ。あぁ、エリア。お母様の手紙では、君のことを女神様だと言っていたよ。僕の新しい妹、エリア。君も早くアルバスに来てほしい! 僕の女神。早く、僕に、君をハグさせておくれっ!』だって。お兄様はきっと、エリアに会えば、エリアの事が大好きになるわ」
……レイナードと会うのが怖い。このシスコン兄貴はいつもこんな調子なのか? アルバスに行くのがちょっと憂鬱だ。
「でもね、お父様は、アルバスに帰るのは暖かくなってからだって。残念だけどまだ帰れそうにないわね」
イリハはそう言うと、ポンとベッドから飛び降りた。
「ホント?」
それは助かったよ。冬を超えると多少レイナードのテンションも落ち着いている事を祈る。
イリハの話では、ボズウィック男爵家の領地があるのは、クライナ王国の西部、オッキデンス地方で、アルバスはその地方で一番大きな町だそうだ。領土の西側には、レムリア大陸最大の中央山脈が聳え、麓のアルバスからは、西に向かって丘陵山岳地帯となっているらしく、冬は大変寒さが厳しいとのことだ。イリハは、まだ回復したばかりのため、春が来るまで、比較的、冬が暖かいレピで過ごすということだった。多少、妹への思いが強い手紙だけど、レイナードの手紙は、イリハをとても元気づけた。
妹思いの優しい手紙だね。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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