046-3-11_イリハの願い
夕方、イリハの様子を窺うために、彼女の部屋に行くことにした。
イリハの部屋の扉は、可愛い花の模様がペイントされている。大きな藤の花籠にピンクや黄色、青といった小ぶりな花がびっしりと詰まった絵柄で、とても華やかだ。そのドアをノックをすると、中からイリハの返事が聞こえた。
「はい……」
ちょっと、元気がなさそうだね。
「入るよ」
そう言って、ドアを開け、部屋の中に入る。
彼女の部屋の内部は、その内装もふんだんに花の模様で彩られていて、部屋に入るなり、壁の中央に、帯状に描かれている青いバラの絵が、目に飛び込んでくる。窓際には草の蔓をモチーフにした金属製の花台に、ガラスの破片がはめ込まれたカラフルな花瓶が据えられてあり、そこに、ピンクやオレンジ色の可憐な中輪の花が生けられていた。
イリハは、黄色いブラウスと厚手の白いフレアースカートに着替えていて、ベッドにちょこんと座っている。そして、彼女の半身大程あるクマの縫いぐるみをギュッと抱いて、つまらなさそうに足をぶらぶらとさせていた。
やっぱり、相当ショックを受けているみたいだね。
イリハの横に座り彼女に話しかけた。
「イリハは花が大好きなんだね」
彼女は、こちらを見ないで返事をした、
「うん。お花、可愛いでしょ。草も木もみんな好きよ」
そう言うと、イリハは、縫いぐるみを脇に転がし、ベッドからポンッと飛び降りて窓に駆け寄ると、僕に手招きをした。
「エリア、ほら、見て見て」
イリハの側に行くと、イリハは庭の一角を指さして言った。
「あの花壇は、この間、グレマンさんと一緒に種を植えたのよ」
あぁ、庭師のおじさんだよね。
「へぇ~、何の種?」
「それは咲いてからのお楽しみ!」
イリハそう言って作り笑顔を見せた。しかし、彼女はまたすぐに口をつぐみ、庭の先にあるレピ湖の方向を見つめて、ぽつりと呟くように言った。
「精霊様、どこいっちゃったんだろう……?」
「ホントだね」
イリハがしょんぼりとしている。
「あのさ、イリハ。もし良かったら、ウィンディーネの事を聞いてみない?」
「……でも、今は居ないんでしょ?」
イリハは、外の景色を眺めたまま返事をした。彼女の言葉には、あきらめの気持ちが滲んでいる。
「そうだね、今はレピ湖には居ない。けれど、水の精霊は清浄な水のあるところなら何処にでも存在するらしいよ。だから、いろいろと情報を集めておくのも悪くないでしょ。ヴィースは、元々ウィンディーネの眷属だったから、彼に話を聞いてみるのがいいんじゃないかな?」
そう言うと、彼女はコクリと小さく頷いた。イリハの元気が無いと、この屋敷内の雰囲気が沈んだ感じで暗くなってしまう。逆に、イリハが元気なら、それだけで、周囲が一気に明るい雰囲気になるのだ。イリハは、そういう空気を持っている女の子だ。
イリハに元気を出してもらわないと、みんなの笑顔も無くなるからね。
そうして、早速、ヴィースをイリハの部屋に転移魔法で呼ぶことにした。腕を伸ばし魔力を込める。最近は、転移魔法もそれほど詳細にイメージしなくても、難なく出来るようになった。
「じゃぁ、この部屋と僕の部屋を繋ぐよ。転移っ!」
腕の先の空間に揺らぎが生じ始め、それが段々と大きくなっていく。そして、そのゆらぎが収まってくると、転移窓を通して僕の部屋と繋がった。イリハは、僕の左腕にしがみ付きながら、転移魔法に興奮していた。
「凄ぉ〜い」
イリハはそう言うと、身を乗り出して転移窓を覗き込んだ。そして、ヴィースの姿が見えると、彼女は、一瞬、ハッ、として左手を胸に押し当てた。ヴィースは、転移窓の正面に立っていて、早速、こちらの部屋に入ってくると、澄ました顔で腕を組み、突っ立ったままの姿勢になる。イリハは口を開けたまま、ヴィースの顔をじっと見ている。
ちょっと、顔が赤くなってない?
イリハも、やっぱりイケメン好きなのかもしれない。ヴィースは、イリハの部屋にやってきても、無駄な会話を一切しない。というか、世間話をするという概念が無いようだ。当然、他人と積極的に会話することはないから、イリハの方から何でも質問してもらうようにした。
イリハが最初に質問したのは、ウィンディーネがどんな姿をしているのかという内容だ。ヴィースはイリハの質問に淡々と答えた。
「水の精霊ウィンディーネ様は、人間の女の姿をしておられる」
ふむふむ。それで?
「……。……。……」
「しまいかいっ!」
ダメだ。やっぱり会話が続かない。ホント、皆まで言わないといけないからね、ヴィースは。
イリハの代わりに、ヴィースに聞いた。
「ウィンディーネって見た目は大人だよね?」
すると、ヴィースが意外な答えをした。
「エリア様やイリハと同じに見えますが」
「へぇ~、そうなんだ。そんな小さいんだね。それなら少女じゃないか」
そう言うと、イリハも相乗りして質問してきた。
「じゃぁね、じゃぁね、お姫様タイプ? それとも女神様タイプ?」
イリハの顔が好奇心に溢れてきたよ。アハハ、可愛い質問だ。少しは元気が出たのかな。でも、僕にもイリハの言ってるその違いが、微妙に分かんないけど、ヴィースに分かるわけないよね?
すると、ヴィースは言った。
「お姫様タイプだ」
嘘だろっ!? 分かったのかっ! イリハの質問の意図が、君に?
イリハは手を胸の前で組んで、「ホントっ!」って言うと目を輝かせている。
「あの~、聞いてもいいかな? イリハ。お姫様タイプって?」
イリハに聞くと、彼女が説明してくれた。
「お姫様はね、ティアラを付けてるよ。他にも、イヤリングとかネックレスとかも付けてるよ」
なるほどぉ!
「じゃぁ、女神様の方はどんな風なの?」
そう聞いてみると、イリハは、そんなことも知らないのというように、「優しくって、癒される~ってなるの。エリアがキスしてくれた時に見たよ」と言う。
あぁ、あの時だね。そうなんだ。
そういや、イリハはあの時、女神様が来たとか何んとか言っていた。それにしても、ヴィースはよく分かったもんだ。ヴィースに何で分かったかと聞いた。すると、ヴィースがサラッと答える。
「ワガママな方でしたので」
「ワガママ?」
ヴィースのお姫様に対する印象はワガママであるらしい。
それにしても、ウィンディーネは見た目が子どもでワガママって、結局、ただの子どもだな。それが四大元素の精霊とはね。
それなら、レピ湖にいたとしても、イニシエーションはウィンディーネの機嫌次第じゃないだろうか。
めんどくさそうだな。
イリハはそれでもウィンディーネがいいんだろうか? 彼女は、ウィンディーネがお姫様タイプと分かっただけでも喜んでいたけれど、やっぱり、今どこにいるかは聞きたかったようだ。イリハがそれを聞くとヴィースがぶっきらぼうに言った。
「分からんな。清浄な水辺でも探すことだ」
「……」
イリハが黙り込んで、またうつ向いてしまった。
ヴィースのやつ、もう少し優しく言ってやって欲しいよ、まったく。イリハはまだ七歳の女の子なんだからね。イリハが言葉を飲み込んでじゃったじゃないか。
「イリハ、ごめんね。ヴィースはぶっきらぼうだから」
そう言ってフォローすると、今度は、ヴィースが僕に向かって言った。
「エリア様、言葉で誤魔化したとて意味はございません」
「ムッ!」
やはり、この男に女の子の気持ちは分からんらしいっ!
僕の気持ちもねっ!
「……大丈夫よ、エリア、ありがとう」
イリハは、諦めたような小さな声で言った。しかし、ヴィースは、イリハに向かって唐突に聞いた。
「イリハよ、何故に水の精霊様が良いのだ?」
イリハを、追い込むような質問してるよ。何考えてるんだヴィースはっ!? イリハに諦めさせたいのかっ?
イリハは、ヴィースの問いに対して、兄のレイナードが水の精霊と契約をしているからだと言った。やっぱり、彼女はレイナードの背中を追っているようだ。
ヴィースはイリハの理由を聞くと、諭すように言った。
「人間どもは頭が固い。自らの魔法適性と、自分の望みをはき違えてしまっては、いつまで経っても魔法など使えん」
まぁ、もっともなご意見ですけどっ!
イリハは黙ってうつ向いている。
ヴィースは続けた。
「お前が望むなら、自らの魔法適性を把握する方法がある……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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