357-17-7_【幕間(八)】(2/4) ジャブロクという男 ーージャブロクの屋敷(談話室)ーー
(カバール商会会頭ジャブロク②)
「ほう、トラウマですか。バイスさん、なかなかいいところに目を付けられたかもしれませんよ……」
「トラウマだと? 若い娘が奴隷になっておると、その小娘が気を病むとでも言いたいのか? 意味が分からんっ!」
「ジャブロク殿、良いですかな? 隷属の女神の目的は計り知れませんが、奴が社会的弱者の救済を行おうとしているのであれば、救済が必要となる弱者は、何も奴隷娘だけの話では無い。それなのに、小娘が、敢えて危険を冒してまで奴隷娘を救出したのであれば、そこには、やはり、特別な思いがあるのでしょう……」
「特別な思い? よう分かりませんがな」
教授もバイスも、何を訳の分からん話をするのだ。誰かの奴隷になるのがそれほど嫌であるのなら、己が奴隷を持つ側になれば良いだけであろう。やられたらやり返す。それだけだ。何が社会的弱者の救済だ! 弱い者は強い者から奪われる、それが道理ではないか! あの奴隷はワシの財産だ。其奴はそれを奪いに来よっただけだ。忌々しい賊め、フンッ!
「……まぁ、聞いて下さい。例えばこうですよ。自らも肉体を蹂躙された経験があり、そう言う事が起きる社会を否定しているのです。ですから、同じ境遇の娘たちを救わずにはいられない、などね」
蹂躙だと? 隷属の首輪を嵌めているような奴が、男の慰みものになるくらいどうだと言うのだっ! 命を取られる訳でも無かろうがっ!
「教授、こっちは金を出して買っておるのですぞ! しかも、飯や衣服も与え、安全な寝床までも用意しておる。奴隷ならば主人に従うのは当然でしょうが! 力仕事も出来ん娘奴隷が、身体くらい喜んで主人に差し出さねば、何の役に立つと言うのです? そうでなければ、魔獣の餌にしかなりませんぞっ!」
全く、話にならんっ!
「まぁまぁ、ジャブロク殿、今は、その若い娘奴隷が我々の計画に大きく貢献しておるのですからな。私に向けたそのセリフは、小娘を捕まえた時に直接言ってやって下さい」
「ムムムーーーッ! そうさせてもらいますともっ! 蹂躙と言うのなら、このワシ自らが公衆の面前でその小娘の身体をなぶり尽くしてやるわっ! 二度とふざけた事をせんよう心が折れるまでなっ!」
クソーーッ、小娘めっ! このワシを苛立たせおって!
「息巻いておられるのは良いのですが、小娘の事については、他にも気になる点がありましてな」
「次は、何なのですっ!」
「少し落ち着いて下され。実は、サリーダさんを仕留めたのは、小娘では無く、カニのデミヒューマンと思われる女なのですよ……」
「カニですと?」
「……そうです。しかも、奴の仲間はそれだけではありません。右手を大きな蛇に擬態させる女もおりました。其奴も、恐らくは蛇のデミヒューマン。どちらも覚醒種に違いありませんな」
「カニ族と蛇族の覚醒種? その様な種族は、あまり聞いた事がありませんな」
「ええ。私も自分で言っておいて、確信は持てませんがね。あの様に変幻自在な者など尚更です。しかし、皆知っているとおり、獣人族の覚醒種に比べると相当数は少ないながらも、他の種族の覚醒種も現に存在しますよ、ライズさんもその一人でしたでしょう?」
「まぁ、確かにそうですわい。あれは何と言ったか……」
「鋸魚です、会頭」
「そうであった。マッドの奴がどこぞで拾ってきおったのだ。興奮すると仲間でも手が付けられんのだったな?」
「はい」
「デミヒューマンでもそうした希少種は、姿や生態が特殊であるが故、人間との交流も殆どありませんがね。それだけに、彼らの能力はまだよく分かっていないものも多い。いずれにしても、小娘には、得体のしれん仲間もおると言う事ですな。私が連れて来た鬼子の娘も然り。あれもかなりの希少種だ。どういう理由かは分かりませんが、小娘を含め、ボズウィックの所にはそうした者が集まっているようですな」
「畜生っ! ボズウィックの奴め、ワシの計画を嗅ぎつけ、小娘とその仲間の力を使って利益を横から奪おうと考えておるのかっ! 許せんっ!」
「ジャブロク殿、考えようによってはいい機会ですよ。いずれは魔獣を暴れさせる計画だったのですからな。それが少し早まったに過ぎない。私も、ワイバーン部隊をお貸ししますので、盛大にやってください」
「そうですな。まぁ、教授にはいつも助けていただいてばかりで申し訳ないが、ひとまずは、甘えさせてもらいましょう……」
「いえいえ、大した事ではありません」
「うむ。では、バイスよ! 小娘がこちらに注意を向けている間に、ローズの畑で魔獣部隊を大いに暴れさせろっ!」
「分かりました。では、会頭、ローズの畑の方は、魔術師部隊と私の覚醒獣人部隊の中から数名行かせましょう」
「ジャブロク殿、王宮への襲撃の方もお忘れになってはいけませんぞ。これは、かのお方のご意向でありますからな」
「魔獣を暴れさせるのみで良かったのですな?」
「ええそうです。その程度の事ですから、失敗などは許されませんぞ。それでなくても、最近のジャブロク殿は失態が目立っておりますからな」
「な、何を仰いますか? 教授! ワシは、かのお方の仰ることに忠実に従ってきましたわいっ!」
「フッフッフ。私は何も、ジャブロク殿が、かのお方に逆らっていらっしゃるとは言っておりませんよ。ただ、ここのところ、商会の収益も芳しく無いようですし、若い女奴隷の納品も遅れがちで、かのお方は、たいそうご心配されておられますからな」
気に触る物言いをしおって! し、しかし、此奴の言う事には逆らえん。それに、言われておる事は、気に食わんが、確かにその通りであるからな……。
このワシが立ち上げたカバール商会は、これまで、アトラス共和国との貿易で収益を上げてきたが、近年は、主要な木材や鉄鉱が平和ボケで値が崩れてしまい、売り上げが落ち込んでおる。それ以外の事業は、元々大した儲けにもなっておらんかったしな。それに加えて、ここ最近は、奴隷の需要も頭打ちとなってきておる。
う〜む……。
そんな中、かのお方によって、タイミング良く仕掛けられたのが、大国によるこの国の併合計画であった。ワシは、アトラス派貴族どもを焚き付け、かのお方のご意向に従ってここまで計画を進めてきたのだ。
この計画だけは、絶対に失敗できん!
それにしても、かのお方のお考えは壮大である。恐らく、ワシに対するこれまでの全てのご意向が、この計画の為であったのだろう。それもこれも、みな、あそこから始まった……。
今さら思い出したところで、何の感情も抱かん記憶だが、ワシは、アトラス共和国支配下のナイロという寂れた町で育ったのだ。あの乾燥した町では、誰も彼も仕事がなく、皆、毎日食うに困っておった。ワシは、年端もいかん頃から盗賊団に身を寄せ、行商人や旅人から略奪を行い、時には女や子どもを攫って奴隷商に売り渡したりもしておった。ところが、ある時、廃墟の村にあった盗賊団 のアジトが民兵どもに襲撃されてしまい、頭の男も含め、仲間は全員その場で殺された。盗賊の取り締まりは生死不問。それが、かの大国の法律だからな。しかし、ワシは盗賊団のアジトから命からがら何とか逃げのびることができたのだ。助かったのはワシ一人だけである。なぜ、ワシだけが助かったのか。それは、あのスープを飲んだからに他ならん。
思えば、あの時、どうしてワシはあれを飲んだのか……。
「面白いかも!」
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「この後どうなるのっ……!」
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