356-17-6_【幕間(八)】(1/4) 小娘の弱点 ーージャブロクの屋敷(談話室)ーー
(カバール商会会頭ジャブロク①)
「どいつもこいつも、一体、どうなっておるのだっ!!」
「申し訳ございません。まさか、これほど力のある奴だとは……」
「バイス! 貴様とあろう者が、ヌヌヌヌ〜〜〜っ」
手下どもが次々と! クソめがッ!
「ワシの計画を潰す気かっ!」
「ジャブロク殿、バイスさんに怒りをぶつけたところで事態は変わりませんぞ」
「ヌゥ、し、しかし……」
「な〜に、そんなに悲観する状況でもないでしょう。奴らには、あの小娘以外に手札はありませんよ。さぁ、バイスさん、そんなところに立っていないで、あなたも座って話しましょう。よろしいですな? ジャブロク殿」
「ま、まぁ、教授がそう仰るのなら……」
クゥ〜。は、腹立たしいが、教授の言う通りだ。カッペルはともかく、ザリッパやプロディ、それに、サリーダはバイスの元々の部下ではなかったのだからな。フンッ! ここは、大目に見るしかない。
「……バイスよ、さっさとそこに座れ」
「ありがとうございます。会頭」
「しかし、バイス。マッドとライズはどうしたのだ? 奴らはプロディと共に、護送馬車を襲撃すると言うておったであろう?」
「それが、マッドたちとも連絡が取れんのです……」
「なんだとっ!? まったく、役立たず共めっ!」
「こんな事ならば、初めから、私の傭兵たちを向かわせるべきでした」
「今更遅いわっ!」
「ジャブロク殿、部下の皆さんは、殺されていないのなら、取り戻す手立てはございましょう。それに、プロディさんは、はなから奴らに泳がされておったようですから、万が一マッドさんやライズさんが捕まっていたとしても、それは仕方ありますまい。そんな事よりも、今は、小娘の事ですぞ」
「そ、そうですな……」
小娘か。そうだ、ワシの計画が上手く行っておらんのは、全てその小娘のせいだっ!
「さて、サリーダさんには気の毒でしたが、彼女の犠牲は決して無駄だった訳ではありませんよ。そのお陰で、あの小娘について色々な事が分かりましたからな」
「教授殿、私の失態をカバーしていただき感謝いたします」
「いえいえ、良いのですよ、バイスさん。それで、あの小娘ですがね、バイスさんが言った通り、我々が想像する以上の力を持っていると見て間違い無さそうです」
「想像以上の力とは、どういう?」
「ええ、ジャブロク殿。あの娘は、恐ろしいほどの魔力量を扱うことができる上、身体能力も相当なものでしたぞ。覚醒獣人のカッペルさんでもやられてしまったところを考えると、肉体の目ではその動きを捉えることが難しいと言えるでしょうな」
「それはやはり、身体強化魔法の類いでしょうか?」
「うむ、常識で言えばそうでしょうがね、バイスさん。しかし、あの動きは、最早、瞬間移動と言っても過言ではありませんよ。何か空間移動系の魔法とも考えられますが……」
「いや、しかし、教授殿。転移魔法であれば予めポータルを設置しておく必要がありますが?」
「ふむ。確かにそうなのですよ。それで、私は、あの移動技がスキルでは無いかと考えているのです」
「瞬間移動のスキルですとっ? そんな事ができる人間がいるなど想像が出来んっ!」
「ジャブロク殿、思い出して下され、ローズ領の小麦浄化の話を。もしあれが経年による毒の弱体化などではなく、人智を超えた技である場合、小娘はそのような事を為せる者という事ですぞ。先ほども、サリーダさんが設置した魔法陣を、魔法など使用せずにその魔力量だけで難なく破壊してしまったのです。恐らくは、意図的に破壊しようとしたのではなく、思いがけず壊れてしまったのでしょう。それも規格外。あの娘の力は、我々の想像力にはとても収まらんのですよ」
「ムムムゥ〜、れ、隷属の女神……」
「ええ、その通り。もちろん、歴史書にはそのような者が存在したという詳しい記述は少ないのですがね、しかし、過去において、隷属の女神による奇跡譚は、現代において形を変えてでも痕跡が残っておるのも事実でしてね。そう、それこそ、ローズ領に広大かつ肥沃な畑が存在する理由ですよ。その話はジャブロク殿もご存知でしょう?」
「まぁ、その話は存じておりますわい。あそこの農民どもは、女神ガイアの力によって畑が切り開かれたと、真面目に信じておるらしいですな」
「会頭、私も傭兵時代に赤道近くの小さな国で聞いた話があるのです。その国は砂漠の真ん中に存在するのですが、大きなオアシスがございまして、大昔、女神がそのオアシスを作ったと」
「止めんかっ、くだらんっ!
「すみません……」
「そういう話は、自然現象におひれが付いて語られておるだけだ。バカもんっ!」
「まぁ、あまりにも規模が大きすぎて、この話を聞いても、今のジャブロク殿のように反応するのが当たり前でしょうな。しかし、気に入らない話でしょうが、私の話には続きがございましてな。歴史の中では、過去に隷属の女神と称賛されていた存在が、どういう訳かいつの間にか姿を消してしまったという事も結構多いようでして、絶大な力を持つ者が、何らかの理由で姿を消した、あるいは、力を失って死んだ、という捉え方もできるでしょう」
「どういう意味ですかな?」
「ええ。少し、話は長くなりますが、隷属の女神の伝説が残るデミヒューマンどもの間では、いつしかこの世界に真の女神、いわゆる隷属の女神が降臨し、社会の秩序を変えてくれると伝わっておりますが、未だにそれは成就されておりません。まぁ、女神と言えば母性愛の象徴ですから、社会変革と言えば、差し詰め、弱者の救済といったところでしょうな。そして、過去に降臨した女神と言われる者たちは、すべて、道半ばでその目的の達成を諦めざるを得なかったのですよ」
「教授が何を仰りたいのか、ワシには分かりかねますがな?」
「すみません。分かりにくい話で。つまり、簡単に言うと、隷属の女神という存在には何らかの弱点があり、それによって、途中で目的を阻止されたか、或いは、自ら目的を放り投げ、力まで失ったという事ですよ」
「ふむ。弱点ですか? ならば、教授はその弱点が何であると?」
「そうですな。確証はありませんが、恐らく、物理的、又は、身体的な弱点では無いでしょう。どちらかと言えば、精神面」
「なるほど、小娘だけに、まだまだ幼さがあると言う事ですな」
「ええ、しかもそれは、目的を放棄してしまうほどの大きなダメージに繋がるものですよ」
「会頭、教授殿のお話を伺って気になったのですが……」
「何だ?」
「はい。会頭の奴隷女を攫ったのがその小娘であるとすると、奴の目的は奴隷の解放。しかもそれは、幼い娘の奴隷では無いかと」
「つまらん話だ。何故、わざわざ奴隷を解放する必要がある? そんな事をして、その娘に一体なんの得があると言うのだ、バイス?」
「もしかすると、それ自体が小娘の弱点ではありますまいか?」
「弱点だと?」
「はい。小娘をそうした行動に駆り立てるもの。つまり、何かしらの信条、あるいは、トラウマが原因かもしれません」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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