355-17-5_ダークヒーロー
みんなの様子を見ていると、セイシェル王女が神妙な面持ちでコチラに向き直った。
「どうしたの?」
「はい。エリア様からご依頼されていた魂昇華魔法の件でございますが……」
「あぁ、そうだったわね。王女には色々とお世話かけちゃったわ」
「当然の事です」
「それで、どうだったんだろう、何か分かった?」
無慈悲な光、魂昇華魔法スブリミタス。全ての悪意を無に還そうとして、罪の無い人たちまでをも巻き込むとんでもない魔法だ。私は、過去生エリアが抱えるトラウマの恐怖感情によって自我が支配されてしまった時、あの魔法を無意識に放とうとしてしまう。今の私では、それを制御することが難しい。しかし、存在の長いマブ女王なら、何か知っているかもしれないと言うセイシェル王女の助言もあり、彼女からマブ女王に聞いてもらっていたのだ。
「それが……妖精女王様にお尋ねしたのですけれど、女王様は、その魔法についてはよく知らないとの事でした……」
「そうなのね……」
妖精女王でも知らないんだ……。
万が一発動してしまえば、たったの一度で世界を滅ぼしかねい絶大な力。今のところ、魔法の発動を止めるには、私が自我を取り戻す以外に方法はないのだけれど、その時に必ずしも自我を取り戻す事が出来るかどうかは分からない。
何か手掛かりでもあればと思ったんだけど……。
「残念ねっ! それなら仕方ないわ」
そう言って、セイシェル王女に笑顔を向けた。でも、ちゃんと笑顔になっていたかどうかは自信がない。しかし、王女は、優しく微笑み返してくれた。
「……ですがエリア様、女王様は、少し気になる事を仰いましたわ」
「気になる事?」
「はい……」
「マブ女王は何と言ったの?」
「ええ。マブ女王様は、あの魔法があくまで魂の昇華を意味していることに着目されていました。そして、このように仰ったのですわ……」
セイシェル王女は、右手を自らの胸に当てた。
「……本来、魂昇華魔法は、魂の上昇を助ける事が目的ではないか……と」
「魂の上昇を助ける……?」
魂の上昇と言えば、彷徨える魂を成仏させるみたいな事を想像してしまう。その話だけ聞くと、何となくポジティブな魔法という印象を受ける。
そう言えば、あの魔法の色が濃い緑というのも気になっていたんだよね。緑って、基本は癒し系魔法の色だと思うし……。
「……それは、どういう意味なんだろう?」
「そこは、私も女王様にお尋ねしたのですけれど、何となくそう感じただけだと仰られて、それ以上の事は……」
「そう……」
魔法の美しさに反して、目を背けたくなる程の強力なあの力からは、決して癒し系魔法の深い愛情は感じられない。そんな恐ろしい魔法がこの身体の中に秘められている。
あの魔法だけは、間違っても使っちゃいけない……。
視線を足下に落としていると、セイシェル王女がそっと手を握ってくれた。
「大丈夫ですよ、エリア様。いずれ分かる時がやって来ますわ」
「ごめんね、セイシェル王女。折角、マブ女王に聞いてくれたのに私は俯いてばかりで……」
「いいえ。あなた様は、とても強く美しいお方ですわ。愛していますよ、エリア様」
「うん、ありがとう……」
ホント、私ってすぐに弱気になっちゃう。あー、でも、男だった時も今とそう変わんなかったかなぁ? ふぅ〜。
そして、王女は一度微笑みながら頷くと、今度は、胸の前でポンッと手を打ち合わせてみんなの注意を集めた。
「さて、レイナと、八の眷属以外はみなさんお揃いですわね。それでは早速ですが、エリア様のお披露目パーティーの話をしましょうっ!」
王女の掛け声で、私を囲むようにみんなが輪になった。
「えっ、私のお披露目パーティーっ?」
「はい。今回の事はエリア様初の、女神様によるガイアの浄化ですわ。ですから、派手に行きませんとね。そこで、私は眷属の一柱として、この際、女神様の浄化"デア・リーブラ" の行使をご提案いたします!」
「デア・リーブラ?」
そう言葉にした瞬間に、理解の波が押し寄せる。セイシェル王女が、彼女の権能である魅了の力の一部を使い、"デア・リーブラ"の知識をその場の全員に流したようだ。
「今、お伝えいたしました通り、"デア・リーブラ"は、私たち眷属が持つ能力をエリア様に結集させて一気に悪意の元を浄化するものですわ。フフフ。これにより、悪党どもはエリア様のお姿を目にする事なく、気付かぬうちに命の終わりを迎えるのです。あぁ、なんて慈悲深き裁きでしょう! 素晴らしいですわっ!」
王女からもたらされた"デア・リーブラ"の知識によると、これを発動すれば、眷属たちは本来のエネルギー状態に戻り私のエネルギーの一部になるようだ。その為、私が転移出来る地域なら、同時に、かつ、広範囲に眷属の力を発揮させる事ができるらしい。そして、その間、眷属は自我が後退する。つまり、私の中の深層にある意図が眷属の力を自律的に行使し、見えない刃となって姿無く敵を倒すという何ともチート過ぎる技だ。
「……そして、エリア様がデア・リーブラを行使なさいますと、御心のご意思が下るまで止まる事はありません」
イッ! それって……。
「私が止めなきゃ、み、皆殺しって事?」
「そうですわね、側から見れば、そのように見えますか……」
側から見ても正面から見ても、そんなの、皆殺しに変わりないよね!
「……ですが、これは、あくまでも浄化ですわ。それに、エリア様が敵とみなす者のみが輪廻に還る事になるだけですから……」
う〜ん、私が敵と見なす者よね〜、確かに、ジャブロクやその幹部たちならそうしなきゃって思うんだけど、奴らの命令で動いていた下っ端の人たちまでとなると……でも、敵には違いないもんね……。
ところが……。
「それ、いいわね王女っ!」
「そうよ、その乗りっ!」
「いかすわね。私と同じセンスよっ!」
「エ、エリア様、す、素敵ですっ!」
「いいんじゃない? エリア。女神っぽいわね」
「女神、悪魔?」
「私は、常にエリア様と共に……」
「それ、ストーカーだから」
みんな、何でそんなにテンション高いのよっ? 皆殺しだよね。大量殺戮でしょ? いや、浄化? 断罪? だったかな。って、どれも一緒よっ!
「どうやら、デア・リーブラに関して眷属のみなさまの同意が得られたようですわ」
わ、私の同意……?
「では、みなさんに本日のシナリオをご説明いたします。やはりここは、エリア様のお披露目に相応しいシチュエーションを演出しようと思います。つまり、そこにいる全ての人間が見えない神の力に恐れおののき、悪漢どもは打ち震え、手下どもは真っ先に魂を抜かれて現世を離れ輪廻へと還って行く。一方、主犯格の者たちは、なす術もなくただ呆然としながら目の前で起きる神の所業を見ていることしか出来ず、気が付けば自分たちだけ取り残されているという状況です。そして、彼らは、これまでの自分たちの行いに見合った最後を遂げると、悪党どもに捕らえられていた少女たちは全てエリア様によって解放され、今宵の出来事の証言者となって偉大なる奇跡を後世に伝えていく。そういうシナリオですわ」
なに、そのB級ダークヒーロー的なシナリオはっ!? 大体……。
「そ、そんなに上手くいくの?」
「簡単な事ですわ。エリア様は、ただ、ヴィース様の剣を握り上空から悪党どもを睥睨しながらゆっくりと下降して地上に降りていただくだけで良いのです。その間に、全てが終わりますから。あー、そうそう、八の眷属の方とはまだ顔合わせ出来ていないのですけれど、現地に直接来るよう伝えておきますわね……」
そして、王女は説明を続けた。
な、なんか、ホントに進行手順の確認になってるんだけど……。
「楽しそうですわ、エリア様っ!」
「本当ねっ!」
「私に任せなさいっ!」
「エ、エリア様、す、素敵ですっ!」
「ちょっと、カッコ良過ぎるんじゃない? まぁいいけど」
「女神、伝説になる?」
「エリア様は私が守るっ!」
「水竜は小麦畑に集中してなさいな」
やっぱり、みんなノリノリだ! さ、流石、歴史に名を残すクライナ王国第一王女だわ。悪者には全く容赦するつもりが無さそうだし、提案と言いつつ、決めた事を完遂させようとする強引さのオーラがもの凄い! でも、まさか、魅了なんて使わないわよね。あれ使っちゃうと……。あー、変な噂にならないか心配。
いつの間にか、アリサも眷属たちの輪に加わっていた。彼女は、お祈りのように腕を組み、目を輝かせてセイシェル王女の話を聞いている。
ア、アリサまでその表情……。
も、もう、どうにでもなって!
するとその時、ヴィースが、突然、真剣な雰囲気を纏った。
「エリア様、奴らが動きました」
「魔獣たちを、ローズ領に送り込んだのね?」
「その様です。では、デア・リーブラ発動まで私はあちらで奴らの動きを見張っておきます」
ヴィースは、そう言って光の粒となって姿を消した。
「それでは、みなさん、私たちも参りましょう!」
そうして、王女の掛け声を合図に、女神の浄化作戦、デア・リーブラが始まった。
魂たちに、女神の祝福をっ!
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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