354-17-4_戦いの前のひと時
セイシェル王女は、話を続けた。
「それから、グレースさんやソフィさんたちの魔法契約の件ですが、女王様から特別なお取り計らいをしていただきましたわ。彼女たちは、もう既に妖精王国で訓練に励んでおりますのよ……」
「えっ? もう? だって、私が昨日、王都に出発する前にお願いしたばかりだよね」
「はい。それが、彼女たちの訓練は、もう相当進んでおります……」
セイシェル王女は、そう言ってニコニコと笑顔を見せる。
「本当に? どうしてそんな事ができちゃうんだろ?」
まったく、意味が分からないんだけど?
「フフフ。実は、妖精王国では時間の流れがこちらの世界とは随分違っておりますの。と申しますか、流れというのも当てはまりませんわね。妖精王国では時間というものはそもそもございませんのよ。今、この瞬間が存在するだけで、過去や未来という概念すらありませんわ。もし、妖精王国の視点で過去や未来の事を敢えて言葉にするのなら、それは、今に紐付かせている観念みたいなものとでも言いましょうか、兎に角、過去や未来というものはとても流動的なものなのです。ただ、その事を現実世界の意識で理解しようとしても上手くいかないのですが……」
王女が何を言っているのか、さっぱり分かんない。多分、そう思っていることが顔に出ていたんだと思う。
「……難しい話は置いておきまして、もし、エリア様があちらでどれだけ長い時間を過ごされたとしても、妖精王国から戻る時には、現実世界から移動した元の瞬間に戻ってくるということなのですわ」
「そうなんだっ!」
あれ? これって、どこかで同じような事を聞いたような……って、あっ、思い出した。アクアディアーナだわ。確か、アクアディアーナでの一日は現実世界での十日、だったかな……。ん? 妖精王国とはまるっきり反対!
「それなら、ソフィたちはどれ程の訓練を積んだ事になるんだろう?」
「そうですわね、ソフィさんたちの訓練は現実世界の期間にして三ヶ月と伺っております。ですが、今申しました通り、彼女たちは既に訓練を終えてこちらの世界に戻ってきておりますわ」
「マジでっ!?」
驚いたっ! でも、あんまり長く妖精王国で過ごすと、周りの人より早く歳を取っちゃうんだよね。それなら、ほどほどにした方が良さそうだわ。
会話を側で聞いていたカリスが、羨ましそうに話す。
「いいわね、それ。そんな訓練方法があるんだったら、私も、アムの訓練に使えないかな?」
「アムの訓練?」
「はい、エリア様、私、アムの事をもっと強くしてあげたいんですけど、なかなか時間が取れなくて……」
「そうよね、アムは山犬族の戦士だから、ミセリたちと違ってカリスとの精霊契約は望まないもんね。ねぇ、セイシェル王女、そんな訓練も受け入れてもらえそうかな?」
「全く問題無いと思いますわ。これからも魔法契約や訓練は、是非、妖精王国に任せてほしいと仰っておられましたから」
王女は、微笑んでそう言うとカリスに尋ねた。
「……では、カリス様、いつからアムちゃんの訓練を始める事ができそうですか?」
「じゃぁ、もう早速明日にっ! よろしいですか? エリア様」
「私はいいんだけど、アムに聞いてないのは大丈夫なの?」
「あの子なら、尻尾を振って大喜びすると思いますっ!」
カリスは、そう言ってキュッとお尻を突き出し、クイクイッと腰を振った。
「フッフッフ。それもそうね」
「では、私の方からマブ女王様にお伝えしておきますね」
「セイシェル王女、ご足労お掛けします」
「お気遣いなど必要ございませんわカリス様、フフフ。私は私で、エリア様の儀式がとても楽しみですから」
セイシェル王女は、そう言って柔らかい大人女性の笑顔を見せた。すると、カリスが自分の顎を右手で摘みながら膝を抱いた姿勢で、あっけらかんと尋ねる。
「そう言えば、エリア様の儀式って、次の満月の夜に行う儀式なのよね。王女、それはどんな事するのかしら?」
「そうでした。カリス様はご存知なかったのですわね。これは、とても官能的な儀式なのですわ。実は……」
「あ〜! セ、セイシェル王女、カリスには、あ、後で説明しておいてね」
「分かりましたわ」
もう〜! そこにモートンがいるっていうのにぃ〜。
眷属たちが、自分たちにしか分からない話をしている間、モートンは、ただただ目を閉じて存在感を消していた。
モートンなら、分かっていても誰にも言わないから、まぁいいか。でも、いい加減、彼の心配にも答えてあげないと。
大きく息をする。すると、セイシェル王女の魅力に浮き足立っていた心がスゥ〜ッと鎮まり、意識の中に静けさが降りて来る。そして、淡々とこの先の事を彼に話した……。
「……という訳で、この件は、そろそろ終わりにしようと思うのよ、モートン」
「終わり……ですか?」
モートンはそう言って右の眉をぴくりと上げた。
「……ええ、終わりよ。男爵様には事後報告になっちゃうけど、セシリカの計画には支障が出ないよう、セイシェル王女に作戦の采配をしてもらうから心配いらないし、そうやって男爵様にも伝えて置いて欲しいの。大丈夫よ! セルティスは私が必ず助けるから安心してちょうだい!」
「はい。感謝申し上げます、エリア様」
モートンは、私の雰囲気にビックリしたのかも知れない。私は今、こうやって普段と変わらないように振る舞っているけれど、心の中は、とても静かで波一つ立ってはいない。ウィンディーネにも言われたけれど、きっと、私の目には女神の冷酷な一面が現れているのだろう。彼は、無意識にその事を感じ取ったのだと思う。
「あー、それと、レイナードお兄様は頑張れば動けるのかな?」
「レイナード様は、それほど大事では無さそうですので、恐らくは」
「そうなのね。じゃぁ、レイナードお兄様にも伝えてちょうだい。今から、セルティスとライラさんを助けに行くわよってね! 声を掛けずに行っちゃうと、後で拗ねちゃうといけないし」
「かしこまりました」
モートンは大きくお辞儀をすると、「失礼いたします」と言ってこの場を離れ、階段を駆け上がって行った。彼の背中を見送っていると、玄関の扉がぎこちなく開かれた。
ん? 誰か来たみたいだわ。
そこにいる全員が扉に注目していると、細く開いた隙間に身を捩らせながら、黒髪の華奢な身体つきをしたキュートな少女が、大きなリネン袋を両手で抱えて入ってこようとしていた。
「よいしょっ! わっ! わっ! わっ!」
少女は、メイド服の裾を扉に挟み、悪戦苦闘してなんとか玄関の中に入ってきた。
「あ、あの、お、遅くなりました」
「サリィ、来てくれたのね。でも、ちゃんと玄関から入ってくるところは、サリィらしくてお行儀がいいわね」
「い、いえ……」
そして、サリィは、リネン袋を床に下ろし髪の毛とメイド服の乱れを整えると、足を揃えて真っ直ぐに立ち、手を前に組んで頭を傾げた。さらに、顔を起こしてニッコリと笑う。
び、美少女っ!
私が初めてサリィを見た時、彼女は、くるぶしまである丈のメイド服を着ていた。けれど、サリィはトラウマと向き合って蜘蛛妖精アラクネと融合することができ、そして、精霊化してからは自分にとても自信が付いたのだ。今では、彼女に似合う膝上丈のメイド服を着ている。
「前から思ってたけど、サリィの足細くってお人形さんみたい。凄く綺麗よ」
カリスが彼女を見て、思わずそう口にした。
「い、いえ……カ、カリスさんこそ、き、綺麗です……」
サリィは、俯きながらそう言った。彼女はとっても恥ずかしがり屋なのだ。あんまり褒めると、逆に、段々無口になってしまう。
「それにしても、サリィ、その大きな袋はもしかして?」
「は、はい、え〜と、リーナさんたちが作ってくれた、パ、パンティと、ブ、ブラジャーの、し、試供品です」
「本当に? お願いしていたもの、もう出来たんだ!」
サリィに頼んでおいたのは、冒険者ギルドの女性職員フロネたちに渡すつもりの試供品だ。彼女たちには、モニターになってもらって、サリィメイドのインナーを宣伝してもらうのだ。
「ありがとう、サリィ。それにしても、リーナたちが作ったって、もしかして、サリィ、あの子たちと契約してあげたのね?」
「は、はい。魔法契約しました! み、みなさん、とっても上手ですよ」
そう言って、サリィがリネン袋を差し出した。
「こんなに沢山? これだけあれば他の人にも配れそうだわ!」
「こ、これくらいなら、す、すぐに作れますっ!」
「そうなの! レディースインナーのお店を開店するのに色々計画しなきゃって思ってたけど、これなら、もう生産の方は目処がついたわね。大したものだわ」
「あ、ありがとうございます」
サリィは、少し照れてながらそう言った。そして、眷属たちにウィンディーネとラーシャが加わって、楽しそうにサリィの試作品の品定めを始めた。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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