351-17-1_油断
アイリッシュを腕に抱きながら彼女の顔を覗いていると、アリサが両手を差し出した。
「エリア様、アイリッシュ様をお部屋にお連れしてまいります」
「ありがとう、アリサ。じゃぁお願いね」
立ち上がって、アイリッシュをアリサに預ける。
アイリッシュが起きたら、どんな風に進化したのか聞いてみよう。
そんな事を考えながらアリサの背中を見送っていると、彼女と入れ違いに、モートンが大股歩きでやって来た。彼は、眷属たちに軽く頭を下げ私の前に進み出て言った。
「エ、エリア様、た、大変な事になりましたっ!」
「そ、そうなのよ。ハハハ、ご、こめんなさい。こんな事になっちゃって、男爵様、怒るよね〜?」
「いえ、旦那様におかれましては、そのような事はございません……」
「男爵様って、今ここで起こった事を知ってるの?」
「はい。ミセリ様から話を伺い、只今、旦那様にご報告して参りました……」
「あ、ありがと……?」
なんか、モートンの様子、おかしくない?
モートンの顔を覗くように見る。彼は、眉間に皺を寄せかなり厳しい表情をしている。
どうしたんだろう?
「何かあった? モートン……」
「はい。エリア様に、急ぎご報告がございます……」
「何?」
「今しがた、セルティスが……」
「……?」
「……誘拐されましたっ!」
「嘘でしょっ!?」
モートンの肩が震えている。
「これを!」
彼は、そう言って白い紙切れを差し出した。モートンの目に怒りがこもっている。彼から紙切れを受け取った。カバール商会の紋が薄く印刷されている白い紙……。
お兄様に届いた手紙と同じ紙だ。
「これは……奴らからの脅迫状……」
「はい。訓練場と母屋の通路にお倒れになっていたレイナード様の側に落ちておりました」
脅迫状には、確かにセルティスを連れ去ったという内容が書かれている。
どういう事! まさか、あの女以外にもあの場に刺客がいたって事……?
「それで、レイナードお兄様は無事なのっ?」
「はい、レイナード様は気絶しておられましたが、今はお目覚めで、お怪我などはございません。念の為、お部屋で安静にしていただいております」
「男爵様や、他のみんなはっ?」
「旦那様はご無事でございますが、やはり魔力切れのダメージが相当のようでお話しすることも難しいようでございます、旦那様には動いていただかない方が良いでしょう。他の者には特に怪我などございません」
「そう……」
男爵様がこんな状態の時に、家の者を狙うなんて!
モートンは頭を下げた姿勢を保っている。しかし、拳はギュッと握られていた。
そして、ククリナが隣から脅迫状を覗き込み、そこに書かれている文字を読み上げた。カリスも側で聞いている。
「……え〜と、緑髪の娘を預かった。小娘一人で屋敷まで来い……ですって。ふ〜ん、なるほど。それで、エリア様はどうなさるおつもりなのですか?」
ククリナの言葉に、いつもとは違う彼女の雰囲気を感じる。
ふ〜ん、って、何だかククリナが一歩引いちゃってる感じ?
「そんなの、小娘って私の事だもん。男爵様も動けないし、今、このお屋敷に奴らと戦える人なんていないわ。私が行って、セルティスを助けに行くに決まってるわよっ!」
それしかないわ! ムムムゥ〜〜〜っ! 一体、どんな奴がセルティスをっ!
ところが、頭の中ではそう思うのに、すぐには気持ちが付いていかない。今の今までサリーダとかいう刺客と戦っていて、それがやっと片付いたと思ったところだ。集中力だって途切れている。そのタイミングが狙われてしまったのだ。
油断してたわ……。
まったく予想していなかった自分に腹が立つ。
あの女が、私の力を確かめるよう頼まれてるって言ってたのは、この事だったんだわ! 私はてっきり、あの女自身が私の力を見ようとしてるんだって思ってたし、あの時は、別の誰かがいるような気配なんて全く感じなかったのにっ!
もしあの時、隠れて見ていた奴から不意打ちでも食らっていれば、危なかったかもしれない。でも、そうしなかったのはどうしてだろう? サリーダを見殺しにしてまで、私の力を試そうとしてたって事? それなら、私は、もうかなり警戒されている?
思わず肘を抱いた。少し寒気がする。
セシリカが心配していた通りになっちゃったわ……。
やはり、今までの行動が仇になっているかもしれない。
ローズ男爵様の教会で浄化魔法を使った時に、農家の人の中に奴らへの協力者がいたって事が後から分かったし、あのプロディとか言う裏切り者の騎士団員は、私の事をジャブロクに報告しているはずだ。山羊獣人やザリッパたちのことについては、全部私が関わっていると奴らは既に知っている。
それだけじゃない……。
あの教授って男は、小麦が浄化された事を、隷属の女神と言う名を口にしてその存在の仕業だと疑っていた。サリーダも、私がこの首輪をしている事に関心があったみたいだし、これは、思ってる以上に、隷属の女神の存在と私との関係が疑われている。それでセルティスを餌にして、私を誘き出そうとしているんだ! と言う事は、セルティスが攫われたのって、私の責任?
やっぱり、私が行かなきゃ……。
でも、このまま奴らからセルティスを取り返したとしても、セシリカ作戦が台無しになってしまってはダメだ。
だったら、さっき、ジャブロクの屋敷から女の子を助けたように、また私一人でコッソリ行けばいいのよ……。
やっぱり、この計画にだけは支障をきたさない様にしないといけない。奴らが動き出してボロを出すまでは、こっちから攻める訳にもいかないのだ。私は、セルティスを取り返して、その後、彼女とスピカに行ってアトラス派に協力するのがどの村なのか突き止めなければいけない。本格的に奴らと戦闘に入るのは、予定通り王宮騎士団が動くタイミングでないと……。
「エリア様……」
「えっ、あー、何? カリス?」
「……お一人で解決しようとされてますね?」
カリスがそう言うと、ククリナも眉毛をハの字にして私を見る。
「……だって、セルティスの事は私が蒔いた種みたいなものだし、計画の事とか色々考えると目立たないようにしないといけないから、その方が……」
カリスは、さっきのククリナと同じ様な声の調子で言った。
「エリア様がお一人で行けば、奴らの思う壺ですよ?」
「分かってるわよ! だけど、こんな事になったのは私のせいだし……」
「エリア様のせい? ですか?」
「そうよカリス。だって、私が……」
転生してきたせいだから。と言おうとした……。
ククリナが、呆れたように私を見上げる。
あれ?
なぜか、自分の言葉が喉に引っかかってしまった。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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