347-16-27_ジガバチ
気持ちが焦っていい考えが浮かばない。
「……ホントは教えたかないんだけどねぇ、今日は、大サービスだよ。この毒はねぇ、痛みを快楽に変えちまうのさ。腹を切っても何しても、毒が効いてる間は死なないんだよ、スゲェだろ?」
女は、そう言ってアイリッシュの頬を舐めようとした。奴が視線を外す。
動くなら今だっ! 兎に角やるしか無いっ!
そして、右足を、ジリリと一歩前に出した。息を止めて重心を下げる。
行くっ!!
「はいストーーーップ!!!」
えっ、何っ? 足の裏に何か感じるっ!?
「そのまま、動くんじゃないよ〜」
女は、そう言ってこちらに振り向きナイフの先で床を指し示す。
「ほら、足元見てみな。あんた、今、そいつを起動させちまったね」
警戒しつつ、視界にギリギリ足元が入るまで視線だけを下に動かした。
「何だこれ!?」
赤い絨毯の上には、黒いサークル状の紋様が浮き出ている。そして、足裏から微力な魔力が吸い出され始めた。
「これは……魔法陣……?」
「その通りだよ。あんたが少しでも動いちまえば、そいつが反応してこの子に仕込んだ毒が活性化するのさ。つまり、トラップ型魔法陣だねぇ。ヒッヒッヒ」
トラップだって? ヌゥ〜っ! 何で気が付かなかったのよ、私……。
「……毒の活性化って、どうなるって言うのっ?」
「毒が活性化したら、死んじまうに決まってんだろ。てな訳で、あんたは動かない方がいいさね。余計な魔力も使っちゃいけないよ。反応は敏感だからねぇ。後ろの女にも言っときな。あんたたちは、大人しくするしか無いんだよ、もう観念しなっ!」
……油断してたわ。これじゃ魔法もスキルも使えない。まさか、こんなトラップがあったなんて!
「あたいはねぇ、仲間内からジガバチのサリーダって呼ばれてんのさ。ジガバチくらいは知ってるだろ? ほら、獲物を捉えると殺さずに生かしておいて、新鮮なままの獲物をゆっくり喰らうっていうハチさ。同僚にゃ言えねぇけど、実は結構気に入ってんだよ。そんでさぁ……」
何か……何か考えないと……。
女の話は続く。
「……なんであたいがそう呼ばれてるかってのが気になるだろ? いいさ。教えてやるよ……」
コイツの話なんて興味ないけど、でも、今の内に何かやらないと……。
足の裏からは、相変わらず微力な魔力が奪われ続けている。
あの女の言う事が本当なら、足裏からの魔力が途切れたり量が増えたりして変化すれば、魔法陣が反応して毒が活性化するみたいね。だから、足を離したりしてもいけないって事だわ。兎に角、この魔法陣を何とか出来ないかな?
サリーダは、相変わらず得意げに話を続ける。
「……あたいは、こう見えて優秀な化学者なのさ。ちょっとやらかして、お天道様の下には出られなくなったんだけどねぇ。というのがさぁ、って、聞いてるのかい?」
「き、聞いてるわよ。優秀な化学者だったんでしょ? そ、それで?」
女から気を反らせない!
「そうそう、それでさぁ……」
バレないように考えなきゃ! え〜と、魔法陣って、魔法をプログラムして自動発動するみたいなものよね。つまり、プログラム、魔法術式を書き換えさえすれば、この魔法陣を無効化出来るように思うんだけど……。
「……あれは、あたいが、まだ大国の研究者だった時の話さ。あたいはねぇ、身体の痛みを取る研究をしてたのさ。つまり、麻酔薬のねぇ……」
魔法陣を発動させないためには、魔力の量さえ変化させなければいいって事だもんね……。あっ! それなら、こういうのはどうかな? 今、私の足裏から流れてる魔力に意図を乗せるのよ。この魔法陣が無効化するっていう意図を。そしたら、これ、解除できるんじゃない!
「……でもねぇ、麻酔薬つっても毒みたいなもんだよ。そんでねぇ、あたいは閃いたのさ!」
「閃いたっ!」
えっ? わっ、ヤバっ、声に出ちゃった!
「ん? そうさ、あたいは閃いたのさ」
「へ、へぇ〜、ひ、閃いたって、な、何を?」
「よくぞ聞いてくれたねぇ! いいよいいよ、話してやるよ……」
あ、危なーーーっ。バレてないよね。
「……あたいはさぁ、麻酔なんてつまんない事やってねぇで、いっその事、毒を作ろうって閃いたんだよ! ヒッヒッヒ、人間はやりたい事やんのが一番さ。それで試作した毒を使って色々と試したって訳さ、死ぬ間際まで快楽に溺れる毒をねぇ。あんたにも経験させてやろうと思ってんだけど、その快楽を味わってやがる顔が、そりゃもう最高なのさっ! なにせ、断末魔だろ? あの瞬間は、みんな完全にイッチまってるよ。うう〜っ、思い出したら身震いしてくるさね。そん時ゃ、あたいも最高のセルフが楽しめるのさっ!」
ホント、キモい! ふぅ〜、無視して始めよう。でも、その前にアリサとククリナに伝えないと。あー、そうだ。念話は使えないわね。使えば、多少、魔力が揺らいじゃうからバレるもんね。それなら……。
振り向いたりすると怪しまれるので、垂らした手を腰に置き指を動かして、後ろのアリサに合図を送る。すると、アリサが右手の掌を私の人差し指に当てた。
流石はアリサね。私がして欲しい事がすぐに伝わったわ。それで、伝言の内容は……。
アリサの掌に指で文字を書く。
え〜と、奴らは二人。右の奴は私がやるから、ククリナは左ね。合図を出したら動くわよ。という言葉を、まずは人差し指と中指を出して、挟むように動かせば分かるわね。や・つ・ら・は・ふ・た・り、と。そして、矢印を書いて、こ・っ・ち・が・わ・た・し、あ・っ・ち・が、えーと、ククリナだから、ヘビを書けば分かるわね。ニョロニョロ、と。最後に、あ・い・ず、と書けばどうかな? グッドサインも出しとこうっと。これで完璧ね!
すると、アリサが言葉にならない程のかすれた小さな声で言った。
「はい、エリア様。チョキチョキのバリバリで、合図をしたらゴー、ですね。分かりました。ククリナ様に同じようにお伝えします」
はっ? ちゃんと伝わったの? ま、まぁ、そのままククリナに伝わったなら、大丈夫な筈よ。万が一全部伝わってなかったとしても、ククリナなら動いた瞬間に私の意図を汲み取ってくれるに決まってる。それに、動いた瞬間にエクストラセンスを使えば、言葉でも伝えられるから問題ないわね。
「ククリナ様も、ご了解されました」
そう言って、アリサがククリナの返事を返す。
よし!
その時、左の黄色いピアスが動いた。
……?
相変わらずサリーダの話は、続いている。
「……ところがあんた、折角あたいが奴隷を使って遊んでたってぇのに、その国じゃ奴隷は認めてないってんで、あたいの事を異端審問官にチクリやがるようなくだらない事した奴がいたから、頭に来てそいつに言ってやったのさ……」
まだ喋ってるわ。そんな話、誰も聞いてないって。じゃぁ、行くわよっ!
「全部、バレてるよ」
えっ?
サリーダの声音が変わった。一瞬、躊躇する。
ビ、ビックリした! でも、私のことじゃないわ。
奴を見る。すると、奴もジッとコチラを見ていた。
気を取り直して、足元に集中!
「だからさぁ〜、全部バレてるって言ってんだろっ!」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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