339-16-19_【幕間(六)】 マッドとライズ ーーボズウィック屋敷前ーー
(カバール商会戦闘員マッド・シミアス③)
「クソッ!」
奴らの護送馬車より先回りして来たってぇのに、まさか、こんなに警戒してやがるとはな。これじゃ、手が出せねぇぜ。
「アニキよぉ〜、プロディはあの荷台の中だべ。しかしまぁ、あいつら、警護の人間、増やしてゲスなぁ。こんなんじゃぁ、近づけねぇベ?」
「ああ、分かってるぜ……」
プロディの野郎とは気が合わなかったんだが、俺ぁ、奴の事が嫌いじゃねぇ。仲間のよしみで助けてやろうとも考えたんだが……。
「こうなりゃ、奴には悪いが口封じするしかねぇな」
向かいのこの建物からなら、少し遠距離だがやれねぇ事はねぇ。最大火力の魔法で護送馬車ごと吹っ飛ばすか……。う〜ん、そうなりゃザリッパの野郎を奪い返せねぇか。いや、奪い返すなんて出来ねぇだろ、この警護の数じゃ分が悪過ぎるぜ。それに、そもそも、あいつがいるんじゃな……。
「……お飾りがノコノコと現場に出て来んじゃねぇっつうんだよ。仕方ねぇ、ライズ、オメェは周りを見張れ! 俺は、魔法をぶっ放す準備をする。ほら、隊員の奴らからベコベコされてやがる薄紫の髪の奴が見えるか? あいつは王宮騎士団の団長だ。あの女を巻き添えにすりゃ、色々とややこしい事になっちまうぜ。あいつが護送馬車から離れた瞬間を狙う」
「アニキよぉ〜、何であいつ、巻き添えにしちゃダメなんだべ?」
「そりゃぁ、オメェ、奴はアトラス派貴族どもが推してやがる王弟筋の人間だからな。俺たちゃ、マラジーナの旦那に協力してんだからよ。ローズの土地を奪おうって計画も、アトラス派貴族との関係があってこそなんだぜ。もし奴に怪我でも負わせりゃ、会頭に迷惑がかかるってもんだ。所長からは特に指示されてねぇがよ、そこは、忖度しとかねぇとな」
「面倒臭いんもんだなぁ。フンガァ!」
「ハッハッハ。あなたたちにもそういう事情に配慮する気持ちがあるのですね?」
「あたりメェだ、って、誰だっ、後ろにいやがるのはっ!?」
「おっと! その短剣を納めてもらえますかな?」
「……あ、あんたは……教授の旦那。な、何であんたがこんなところに……?」
「いや〜、驚かせてすみません。私もボズウィックの屋敷に少々用がありましてね。ほら、あれですよ」
「えっ?」
おっ! 屋敷から誰か出て来やがったな。ん? なんだ、あの小娘、喪服なんか着てやがる。
「あの女は?」
「ホッホッホ。あなたもあなたのお仲間も、とても良くやりましたよ。そのお陰で貴重な情報を手に入れることが出来ました。あの娘が、恐らく、隷属の女神と噂される存在でしょう」
「あの小娘が……」
俺は、女神の存在なんざ未だに半信半疑だが、ローズの畑の調査で、小麦の毒を浄化させた上、発芽までさせやがった若い女がいた話を聞いた。分からねぇ奴には分からねぇだろうが、それは、違う属性の魔法を同時にやってのけたって事だ。それに、カッペルの野郎をノシちまったのもあの小娘って話だ。それにしても……。
「いや、流石にあれはただの小娘にしか見えませんぜ。本当ですかねぇ? あんな華奢な女の、どこにそんな力があるってんです?」
「それを調べるのが私の仕事ですよ。そんな事より、あなたは確か、マッドさんと言いましたね? 今、あなたがやろうとしていることは止めておいた方がいい」
「な、何で? ですかいっ?」
「あなたが魔法を発動しようとした瞬間に居場所が突き止められますよ。そうすると、あなた方二人とも、お仲間と同じ事になってしまいます。ほら、ご覧なさい。あの金髪の男を」
「あぁ、あいつは隊長のオスカルだぜ。まぁ、奴の実力は相当らしいって話ですがね、俺の魔法がバレるってぇのはどういう訳ですかい?」
「あなたも知っていますでしょ? 奴の二つ名が光の聖騎士だということを。あの男は光魔法の術者ですよ。そして、光魔法は世界の理に干渉する魔法。それは、時間の流れさえ操作出来ると言われています」
「マ、マジですかい? そいつはヤベェぜ」
「お仲間が捕まったとなれば、恐らくは、あなた方が護送馬車を襲撃しようとしていた事も奴らには既に知られているでしょう。まぁ、あなたのお仲間と奴隷狩りの事は諦めた方がいい」
「し、しかし、手ぶらで帰りゃ、お、俺たちが所長に粛清されちまう……」
「ならば、あなたたちはここからお逃げなさい。商会からも手を引いた方がいいでしょう。あの娘が本物ならば、隷属の女神が現れた以上カバール商会はもう終わりですよ。そろそろ潮時という事です。とは言え、ジャブロク殿にはまだやっていただかないといけないことがありますが…」
「潮時? いや、でも、これからローズの畑を……そ、そうだ、教授の旦那のワイバーン部隊も出撃してくれるんじゃなかったんですかい……?」
「フッフッフ。それくらいは協力させてもらいますとも、一度お約束したのですからね。しかし、大局を見誤ってはいけない。ジャブロク殿やその部下の方たちは伝説を侮っているようだ。彼らは、もう少し歴史を学んでおくべきでしたね」
「伝説に歴史なんて、俺には全くちんぷんかんですぜ」
「いいえ、マッドさん、あなたは用心深く、そして、利口な方だ。臆病とも言えますがね。私は、あなたのそういう泥水を啜ってでも生き延びようとする本能を買っていましてね。これからの時代は、あなたのような人が生き延びる時代かもしれません。もし、行き先が無いのならここを尋ねるといい」
「そいつは褒められてんですかねぇ? まぁいいんですが。しかし、何ですかい、このメモ書きは? ん? こ、これは? ちょ、ちょっと教授の旦那、何であんたがこれを? って、いねぇじゃねぇか」
「アニキぃ。教授の旦那は、もう行っちまったべな」
「何なんだ、畜生っ!」
う〜む……。あの教授って野郎、アトラス共和国の魔獣研究者って聞いてたんだがな……。本当は何者なんだ、一体? それにしても、まさかこの組織の名が出て来るとは驚いたぜ。
「……ライズ、教授の話、聞いてたろ。しかしよぉ、ここから逃れたとしても、俺たちゃ、今よりヤベェ状況になるかもしれねぇ。オメェどうするぜっ?」
「フンガァ! 俺ぁ、アニキに着いていくベ」
「そうかい。なら、決まりだな……」
その時! ボズウィックの屋敷から、「キャァーーッ!」と叫ぶ女の悲鳴が聞こえたっ!
ん? もしかしてサリーダの奴か!
「ライズ! 騒がしくなりそうだ! 今のうちにとっととここからズラかるぜっ!」
「うっす」
【幕間(六)完】
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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