333-16-13_シングルランカー
男爵が談話室から出ていくのを見送り、一息付く。
「はぁ〜、やれやれね」
モートンの顔を見ながらそう言うと、彼は、深々と頭を下げた。
それにしても、アイリッシュとセルティスにこんな事情があったなんて驚きよ! でも、本人たちには、二人がレムリア神聖王国の新たな教皇の貢物として育てられたという事までは話してなかったのね。ところが、セルティスもアイリッシュもそれを知ってしまったって事か。じゃぁ、さっきのセルティスの態度は、本当の事を話してもらってなかった事への不満だったのかな? もちろん、彼女たちも、男爵様がいずれ逃してくれるって分かっていたから、一応は、ボズウィック家を信頼していたって事なのかもしれないわね。きっと、モートンも彼女たちが強くなるように、一生懸命、いろんな戦い方を教えたに違いないわ。
それにしても、この二人は、よく自分の宿命に心が折れたりしなかったものだ。
「モートン、さっき、あなたはこの子たちが自分たちの境遇を十分理解しているって言ったけど、普通、そんな事聞かされても、受け入れられる様な話ではないと思うんだけど、この子たちは、まだこんなに幼いんだし……」
そう言って、彼をソファに座るよう手振りで勧めた。すると、モートンは一礼し、浅くソファに腰を下ろした。
「……それはもちろんの事でございます。ですので、この子たちには、指導者と共に傭兵として各地での戦闘経験を積ませ、人の生き死にをその目で見させて参りました」
「そ、そうなんだ……」
なんていうスパルタ指導! モートン怖すぎっ! でも、どうりで動きが実戦的だと思ったわ! それなら、アイリッシュもセルティスも冒険者ギルドではシングルランカーなんだし、普通の人からすればかなり強い方じゃないのかな? まぁ、私には実戦経験なんて無いから、人間の強さの尺度があんまり分かんないんだけど……。
「ねぇ、モートン。この子たちは二人ともシングルランカーなんでしょ?」
「……はい。エリア様が仰られたように、この子たちは、確かに、ここ王都の冒険者ギルドにおいてシングルランカーに名を連ねております」
「それなら、二人とも、結構、強い方なんじゃないの?」
「いいえ」
「ハッキリした否定ね。どういう事?」
「実は、冒険者ギルドは地域によって、そのレベルに相当違いがございまして……」
彼の言葉を聞いて、セルティスは、少し不満気な顔をしている。
「レベルに違い?」
「はい……」
モートンの説明によると、冒険者の腕前は困難な依頼が多い地域ほど、それに比例して高くなるそうだ。
「……強力な魔獣が少ないクライナ王国につきましては、冒険者ギルドへの依頼も、魔獣討伐よりは、むしろ、素材調達が多い状況でございまして、依頼で求められる素材を手に入れるために狩をするにしても、ここの冒険者には、強力な魔獣を倒すまでの力量は必要無いのでございます……」
そうすると、必然的にクライナ王国の冒険者ギルドに登録している冒険者のレベルは低くなり、その結果、王都クライナの冒険者ランクは、他の地域と比べても最低となっているとの事だ。
「なるほど〜、それなら分かるわねぇ〜」
モートンは言葉を続ける。
「……しかし、国外には、この私でさえ、シングルランカーに入る事ができないレベルの冒険者ギルドが多数ございます。お分かりいただけましたでしょうか? この子たちは、まったく持って弱いのです……」
セルティスの様子を見ながら、モートンの話を聞いていた。彼女は、つまらなさそうに手の爪を見ている。
「そうか。王都の冒険者ギルドのランキングって、ここでしか通用しないものなのね」
昼間のギルドで依頼にあぶれていた冒険者を思い出す。
ハハハ、確かに……。それなら、お兄様がカバール商会の人間の殆どがシングルランカークラスだって言っていたことも、理解できるわ。まぁ、カッペルの弱さを考えると、どっちもどっちかなぁって疑問に思っちゃうけど……。
そして、モートンが立ち上がった。
ん?
「エリア様、改めてお願い申し上げます……」
彼を見上げる。
「何?」
「……アイリッシュとセルティスを、エリア様の共として使ってやってはいただけないでしょうか?」
彼がそう言って頭を下げる。すると、セルティスも釣られたようにして立ち上がり、頭を下げた。
「お、お願いしますぅ〜」
へぇ〜、セルティスも、一応はそう言う事言えるんだ。それにしても……。
「お供かぁ〜、う〜ん、どうだろう?」
モートンは頭を下げたまま動かない。一方のセルティスは、膝を抱いたまま、視線を足下に落とした。
「私も、この先は森の調査にも出る予定だし、人が入っていない森にでも行けば、強い魔獣がいるかもしれないけど、この子たち、もう直ぐ十二歳になっちゃうんでしょ? そんなんじゃ遅く無い?」
モートンは、ゆっくり顔を上げて言った。
「エリア様の仰る通りかも知れませぬ……」
そう言って、彼は、口を閉ざした。そして、次の言葉を口にしない。
あっ! 何か、冷たい言い方に聞こえちゃったのかな? でも、断ったわけじゃないんだからねっ!
「モートン、私のお供になるよりも、二人が強くなる為に、もっといい方法があるわっ!」
「……もっと、良い方法でございますか?」
彼の声音が、明るさを増した。
取り敢えず、あれを試してみるか。
「セルティスも顔を上げなさい」
そして、ピアスを指で揺らす。
「今の話、聞いていたでしょ? ちょっと出てきてちょうだい。ラーシャ!」
「女神、分かってるっ!」
ピアスから黄色い光が飛び出して、隣に、鼠色の小さい二本の角を頭に生やし、水色のノースリーブワンピースを着た可愛い少女、ラーシャが現れた!
「うわっ!」
セルティスは、驚きのあまり口に手を当てて目を丸くしている。一方、モートンは、相変わらず冷静沈着な表情をしていた。ただ、少し、口角が上がっている。
何、その微妙な顔?
そして、アリサは、私の後ろでいつも通り澄ましている。
ラーシャを抱え、テーブルの上に立たせると、彼女の両手を取った。
「ねぇ、ラーシャ、今から雷神様と話をしたいんだけど、繋がれるかな?」
「女神、大丈夫」
そして、目を閉じラーシャの意識の中に雷神のイメージを探る。すると、突然、圧倒的に威厳に満ちた気を感じた。
良かった! 思った通りラーシャを通して繋がれそうっ!
その瞬間! ドドドーーーーッン!!! っと、屋敷を揺らす轟音が響き渡ったっ!!!
「キャァーーッ!」
セルティスが怯える声を出す。モートンも思わず呟く。
「ふむ、今のは大きな雷でございましたな……」
どうやら、お越しになられたようね。
そして、心の中で雷神に語りかける。
「雷神様、聞こえますか? いきなりですが、どうか、私の願いをお聞き入れ下さい……」
すると、雷神が応えた!
「……我は、雷神……」
雷神の声が、頭の中に響く!
「雷神様っ!」
(ドドーーーッン! ドドドーーーーッン!!)
屋敷の外では、雷鳴が轟き続けているっ!
「……女神ガイアの子、エリア・ヴェネティカ・ガイア。汝、我に問う……」
「雷神様、あの……」
(ドドーーーッン!)
「……我、汝に申す……」
「えっ?」
(ドドドーーーーッン!!! ドドドーーーーッン!!!)
「キャッ! 怖いっ!」
セルティスの声だ。
「……雷神の子を求る魂、ここに二つあり。汝、結い繋ぎてその者どもを雷神の巫女と為せ……」
「まだお願い言ってないんだけど……この子たちをラーシャの巫女にするのね? なるほど、分かりました!」
雷神の語りは続く。
「……されど、汝、未だ、導き足りておらず。その者どもの同胞、迷いの民と雷神の絆を甦らせよ……」
(ドドドーーーーッン!!!)
「えっ、甦らせる? 雷神様、それって……?」
(ドドーッン!)
……。
しかし、そこで雷神の気は消失し、気配が消えた。そして、外で響く雷鳴が遠のいて行った。
あらら、もう行っちゃった。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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