332-16-12_【幕間(四) 】 護送馬車 ーー王宮騎士団詰所ーー
(カバール商会戦闘員プロディ・オービタス①)
いや〜、驚いちまった。バイス所長がこの俺を褒めて下さった! 気持ち悪いな。
しかし、慌てて報告に来た甲斐があったというものだ。俺の情報が無かったら大変な事になっていたのだからな。これで、俺も、この任務が明ければ、幹部に取り立てられるかも知れない。何を考えているのか分からないあの小僧の部下の振りをするのも後少しで終わる、それまでは我慢だ! なんて考えていると、バイス所長が言ってくれたのだ。
「……ではプロディよ、お前は騎士団の詰所に急ぎ戻れ。そして、護送馬車は、ザリッパを運んでいる途中でマッドとライズに襲わせるとしよう。ザリッパが戻ればお前の騎士団潜入任務は終了だ。マッドらとともに、ここに戻るがいい」
ってな。
よしっ、ラッキー! これで任務完遂だ! なんて思わず声に出しちまいそうになったぜ。へへへ。後はローズ領で暴れりゃいいだけだな。あのエリアっていう小娘もサリーダに掛かれば終わりだろう。あのサディストの女は異常だからな。しかし、ありゃぁ会頭の好みだろうし、すぐに殺される事もなさそうだ。俺には少し幼ぇが、あれだけの器量なら貴族の妾にでもなれたろうに。なまじ力を持っちまった事が禍いしちまった様だな。俺にとっちゃ小娘はどうでもいいが、兎に角、急いで詰所に戻らねぇとな。って思ってたところに、あの面倒野郎だ。
「おい、プロディ! ザリッパの奴を引き取りに行くのはオメェの他に何人いやがんだ?」
「あぁ、俺を含めて三人だ」
「そうか、そいつは丁度いい。よし、それならザリッパを引き取りに行く前に襲う事にするぜ。その方が俺もその隷属の女神っていう小娘の顔を拝めるかもしれねぇからな」
「いいのか? バイス所長は、ザリッパの護送途中に襲うと言ったと思うんだが? 俺と一緒に御者台に座っていたやつが、いつの間にか入れ替わっていたらボズウィックの奴にバレちまう。それはヤバいだろ」
「大丈夫だっつうの! まさか、荷を積んでねぇ馬車が襲われるとは奴らも思っちゃいねぇ筈だ。多分、行きがけは油断してるだろ。それに、俺とライズの野郎は認識阻害を使えるし、奴らとの話はお前がすりゃいいだけじゃねぇか」
「まぁ、好きにしろ。護送馬車を襲うのはお前らの役目だ。俺は知らねぇからな」
マッドめ、いい加減な奴だ。こんな野郎には小麦の芽が出てるかどうか見に行くくらいの仕事がちょうどお似合いだ。そんな任務は、子どもにでも務まるがな。
「へへ。よし、それなら、待ち伏せする場所を決めておくぜ……」
奴はそう言って、指定する暗がりの道を通るように言った。
「ああ、分かった」
ちょっと、時間を食ってしまった。早く騎士団の詰所へ戻らねぇと、疑われでもしたら厄介だ。あのオスカルは、結構、勘がいいからな。それにしても、ローズ領を奪い取る計画がこんな事になっているとは驚きだ。これじゃ、まるで総力戦じゃないか。
ーーーー。
ようやく詰所に着いたな。どうやら、護送馬車の準備も整っていると見える。
「ああ、ペディット、待たせてすまない」
「もうっ! どこに行ってたんですか? プロディさん」
御者台から見下ろす後輩にそうやって声を掛けた。しかし、この若い女は少し不満気なご様子だ。
俺と一緒に護送任務に当たるコイツは、今年の春に王立魔法学園を卒業したばかりの小娘だが、まだ年端もいかんのに身体の方は成長が早い。そして、このペディットという娘は、どうやら入隊試験をトップでパスしたらしい。その噂に違わず実力はまあまあのようだ。風魔法系の使い手で中級魔法術師である。
「まぁ、知り合いの貴族に呼ばれてちょっと野暮用だ。義理があって断れない相手なんだよ……」
ペディットは膨れっ面をしているが、俺を疑っているそぶりはない。こういう時の言い訳にはコツがあるのだ。それは、全くの嘘にはならない様に言う事だ。それが、相手に対しても違和感を感じさせない態度につながる。そして、名前も同じ。騎士団でもこの名で通しているのは、こうやって咄嗟に名前を呼ばれるときにも自然に受け答えができるからだ。
「……今度、屋台で串焼き奢ってやるから、機嫌を直してくれ」
「約束ですからねっ、プロディさんっ!」
「ああ、分かった。馬を繋いだらすぐに戻る!」
「早くしてくださいよっ!」
馬を小屋に連れて行き世話番に任せると、護送馬車のところまで早足に歩く。そして、ペディットの反対側から御者台に乗った。すると、彼女の隣にはもう一人の後輩も座っていた。
この男の名前はマーカス。隊員歴が三年のまだまだ新人扱いされている若者だ。コイツはどうやら親のコネで王宮騎士団に入ったらしく、叩き上げの平隊員たちからやっかみを受けている。しかし、背が高く、槍の扱いではいい動きをする。俺の見立てでは、コネというよりも槍の腕を見込まれての推薦入隊だ。
「マーカス、お前にも悪りぃな。詫びと言っちゃ何だが俺が手綱を持ってやる」
そう言って後輩の二人に詫び、マーカスとも場所を入れ替わった。こういう小さな配慮が大切なのだ。これが出来なければ仲間として溶け込むことも出来ないし、仲間になれなければ、隊員からの情報は手に入らない。俺はこういう資質を評価されてバイス所長からこの重要任務を任されたのだからな。
「全然いいっすよ」
「何よ、マーカス! あんた、護送馬車の準備手伝わなかった癖に!」
「マーカス、そりゃ酷いだろ。俺もお前たちを待たせといて人のことは言えないが、後輩に仕事を放り投げるのは良くないぞ」
「どの口が言ってるんすかね?」
「この口だ。ハッハッハッ!」
「まったく、適当なんすから」
「あんたもよっ!」
俺は、この任務に当たってから決めていることがある。それは、目立った活躍をしない事だ。ただ、こういうスパイ任務では、様々考えがあるだろう。少し実力を出してその組織で出世をすれば、より重要な情報に触れる事も出来るからな。しかし、この王宮騎士団では、目立たない方が返って情報が入りやすい。なにせ、隊員にはマーカスの様に貴族出身者も多いのだ。それに、貴族隊員どもは、絶えず反対派閥を追い落とそうと躍起になっているから扱いやすい。少し水を向ければ奴らの口からどんどんと情報が出てきやがるし、王宮の新しい噂話もよく知っている。それにしても、王宮騎士団の中にこれほど王宮に不満を持つものがあるとはな。まぁ、そのお陰で俺の仕事が捗るのだが。そう言う訳で、貴族隊員の奴らから生の情報を仕入れるためには、そいつらの上官になってしまう訳にはいかないのだ。だから、この俺は役職なんて持とうとは考えないし、万年平隊員に甘んじている。出来る限り他人の印象に残らないようにすることが重要なのだ。
しかし、今日だけはいつもと違って少々積極的な行動になってはいるが……。
今から行うのは、その積極的な行動結果によって当たることになった極秘任務。ボズウィックの屋敷から奴隷狩りのザリッパを引き取って護送するのだ。しかし、この任務は最初から予定に入っていた訳では無い。夜になって事務所が急にバタバタしたと思ったら、重要犯罪人の極秘護送任務があるという情報が入ったのだ。俺が直接に話を聞いた訳では無いが、馬の世話をしている同僚からその話を聞くことが出来た。そいつは、馬を四頭準備するように言われ、何か大量の荷物でも運ぶのかと思ったそうだが、大型の護送馬車も準備されたことから、大人数の囚人を護送すると分かったらしい。まぁ、囚人の護送任務は珍しいことじゃない。しかし、こんな時間から運ぶ囚人なんて、よほどの重要人物なのだろう。そんなふうに何となく気になっていたところに、別の情報が飛び込んできやがった。ローズ事務所のところの鳥獣人が詰所にやって来て、奴の事務所が山羊の獣人に襲われているから助けて欲しいという話だ。俺は事前にバイス所長から連絡を受けていた訳ではないが、ローズの事務所に山羊獣人とくれば、商会の仕事に違いない。そう考えた俺は、咄嗟にオスカルに申し出たのだ。ローズ事務所からの救援に応えるのなら、当直の俺を同行させて欲しいと。
それにしても、今日の俺はいつもと違った。どういう訳か情報の引きがいい。そのお陰で、団長案件である筈のローズ男爵領に関係する任務に着くことができた。今から考えると、オスカルは、良く俺を同行させようと考えたものだ。奴は、一瞬、怪訝そうな顔をしやがったが結局は許可を出したのだ。
今日は俺が当直の当番でラッキーだったな……。
【幕間(四)完 】
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
と思ったら
下の ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願い申し上げます。
面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に励みになります。
重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。




