326-16-6_【幕間(二) 】 戦闘員参集 ーージャブロクの屋敷(大広間)ーー
(カバール商会戦闘員マッド・シミアス①)
「どうだ、マッド、こちらの役者は揃ったか?」
「へい、バイス所長! もう直ぐですぜ」
「うむ。ご苦労だ。全員揃ったら呼んでくれ。ワシは談話室におるのでな……」
ほ、褒められちまった! 何だ、所長は機嫌がいいのか? いや、違うな。会頭のご機嫌が悪いからだ。こういう時、所長はワザと機嫌良くして下さる。俺みてぇなもんは慣れているが、会頭が怒り出せば、奴隷の使用人どもは縮こまっちまって、いざという時に使いモンにならんからな。まぁ、俺も、会頭は怖いんだがよ。前に、会頭に意見した奴が、知らねぇ間にいなくなっちまった。ありゃ、多分、消されたに違ぇねぇ。
「……あぁ、それから、この転移魔石を渡しておく。必要ならば使うがいい」
「いいんですかいっ!?」
「会頭にも許可をいただいている」
「分かりやした、所長!」
マジか? 転移魔石を預けてもらえるなんて驚いちまったぜ。
バイス所長が部屋の中を見渡す。
「それにしても、カッペルの奴が遅い。マッドよ、すまぬが誰かにローズの事務所の様子を見に行かせてくれ。くれぐれも様子を見るだけだ」
「へいっ、直ぐに!」
そうか、カッペルの野郎、さっき、また出ていきやがったが、ローズの事務所に行ったのか? しかし、何で所長は野郎のことをこんなに心配してんだ? 家出息子かよっ! いつもの所長なら部下が死のうが気にも掛けねぇはずだがな。どっちにしてもカッペルなんざまともに仕事をこなせねぇ腑抜け野郎だぜ。それなのによ、あいつはバイス所長に気に入られ過ぎだっつうのっ! 俺より年下で組織にも後から入って来たクセに、偉そうにしやがってっ!
チッ! 獣人風情がっ!
その時、バイス所長と目が合った。
おっとっと、いけねぇ、バイス所長も獣人の覚醒者だったぜ。それも体躯のデカいバッファロー獣人だ。こんな事聞かれちまったら、俺ぁ、一分後には生きちゃいねぇだろうな。なにせ、昔は、あの最強と謳われた傭兵団 "黒曜の角" を率いていた人だ。下手をすりゃ、鋼鉄並みの硬い角でドンッと一付きにされちまう。今は人型の穏やかな顔をしているが、言われた事を早くしねぇと、俺の命が危ねぇ。
そうして、辺りを見まわした。
「誰かいねぇかな」
この屋敷に使用人は沢山いるが、こういう時に使える奴とそうでない奴がいる。奴隷の使用人は、使える奴なんて一人もいねぇ。メイドの女は、メイド長のババァ以外みんな奴隷で、あいつら全員、会頭の慰み物だ。奴隷の中には男もいるが、雑用と馬の世話しか任せられねぇ。いつもこうやって壁際で並んでいる奴らはみんな奴隷だ。
「仕事を任せられんのはそれ以外、っと。誰にすっかな?」
奴隷以外と言ってもある程度は戦えねぇと、何かあった時にどうにもならねぇ。
「それにしても、事務所の若ぇ奴らが一人も見当たらねぇが、何してやがるんだ? あいつら、こんな時にいねぇなんて、後で、所長に殺されるぜ!」
まぁ、仕方ねぇな。おっ!
いいところにこの男がいた。ライズだ。コイツは、俺と一緒にローズ領まで調査に行った奴だ。身体がデカくて普段は鈍い動きだが、大量の血を見ると興奮する癖がある魚人族のデミヒューマンだ。そん時ゃ、驚くほどの瞬発力を出しやがる。ただ、興奮し過ぎると鋸みたいな歯で獲物を食いちぎって手がつけられねぇから要注意だ。それで付いた名が、通称、噛みつきライズ。コイツならこの仕事を任せられる。
「ライズ! お前、ちょっとローズの事務所まで走ってくれねぇか? カッペルの野郎が戻ってこねぇからって、バイス所長から誰かを見に行かせるように言われたんだ」
「フンガぁ、分かったっす。マッドのアニキ、馬で行ってくりゃ、いいんでゲスか?」
「何でもいいが、兎に角、大急ぎってこった! 怪我すんじゃねぇぞ」
自分の血を見ても興奮しやがるから、一応、言っておくんだが。
「うっす。アニキ、優しいんだなぁ」
オメェが面倒臭ェからだよ。まぁ、これでよし、と。後は、ここに集まるよう声をかけた奴らがみんな揃ってやがるか確認しねぇとな。
後ろを振り返る。
おっと、魔法術師の奴らが杖持って集まってるぜ。
「おいっ! お前らは全員揃いやがったのかよ?」
「はい、マッドさん。魔獣部隊五人、それと後の者も既に揃ってます!」
「そうか、ウロウロするんじゃねぇぞ」
「分かりました!」
へへへ。こう見えて、俺も、一応、幹部だし、まぁ、ローズ領の調査員に指名されたくれぇだから、そこそこは偉いんだ。それにしても、あの調査の時は未だに不可解な事ばかりだったぜ。調査の任務自体は大した事なかったが、あの異常な雷だけは正直ビビっちまった。それに、レックスは、小麦を農民どもの目の前で発芽させやがった女がいたと言ってやがった。その小娘は種を解毒させるだけじゃなく成長も同時にさせたらしい。そんな魔法なんざ聞いたことがねぇぜ。バイス所長に報告した時も、所長は疑ってたくらいだからな。会頭がその女の事を隷属の女神って言ってたが、正直、そんな奴がいるのかどうか分からねえ。しかし、もし、レックスの話が本当なら、相当な魔法の使い手だぜ。まぁ、どの道、ローズの畑なんざ、コイツらの魔獣がひと暴れすりゃあっという間に荒地になるがな。
「それとよ、魔獣は、言われた通り五体とも出られるように準備してんだろうな?」
「はい! 蠍魔獣のジャイアント・センチピードが二体に、ネズミ魔獣のサーベルラット、モグラ魔獣のモールウルフ、そして、手長ゴリラがそれぞれ一体づつ、全部で五体、どの魔獣も集積所の地下檻で大人しくしております!」
「そうか。よしよし、ジャイアント・センチピードは毒攻撃ができる。それと、サーベルラットは仲間を呼び寄せやがるしモールウルフは穴掘り専門だ。この二体は畑を荒らすなんざもってこいの魔獣だぜ。後は、手長ゴリラだが、コイツはなにせパワータイプだ。岩でも大木でも何でも使ってよ、兎に角、暴れさせろ!」
「マッドさん、手長ゴリラは待機するように言われてますが?」
「ん? おぉ、そうだったぜ、俺としたことがうっかりしちまった。ゴリラは待機だな」
危ねぇ危ねぇ。所長にドヤされる。
「よし、お前、手長ゴリラをこの転移魔石で地下に移しとけ。後の奴らはこのままここにいるんだ!」
「了解ですっ!」
まぁ、魔獣部隊は大丈夫そうだな。後は、ザリッパの野郎と一緒に村を襲わせる奴らだが……。
クッ、アイツだぜ。ジガバチのサリーダ。俺は苦手なんだよあの女がよ。いっつもレオタードみたいな変な格好してやがる変態だ。やることはザリッパ見てえに拷問だしな。スマートじゃねぇのよ仕事がよ。あ〜あ、部屋の角でまた奴隷のメイド娘をいたぶってやがる。こんな場所でよくやるぜ。痺れ毒を塗った針で差すと、動けなくなっちまって、もう奴の言いなりになっちまう。後は切り刻もうが何しようが痛みを感じねぇから、気づいた時には死んでるって寸法だ。会頭が飽きちまったメイドとは言え、アイツが遊びに使いやがると、もう売りもんにもならねぇ。それにしても、早く止めねぇとこの部屋が血の海だぜ。
「おいっ! サリーダっ!」
「何だい、今、いいとこなんだよ!」
「そんなもん、オメェの巣でやりやがれ! 床が汚れんだろっ!」
「あぁ! 誰に向かって言ってんだいっ! ちょっと新しい毒を試しただけだよっ! バカじゃないのかいっ! いくらあたいでも、会頭の慰み物に手出しなんてしないってぇの!」
「まだ服は剥がしてねぇようだが、その割には、舌なめずりしやがって、ヨダレか?」
「いいじゃねぇか。この子はあたいの好みなんだ。ほらっ、乳も尻も小ぶりだろ? こういう子がいいんだよ。後で会頭に言って、この子を貰っちまおう」
「どうでもいいが、オメェんとこの奴らの集まりが一番遅ぇじゃねぇかっ?」
「うっせぇよ! あたいらはどこにいようが、人から見られないようにするのが仕事だよ! ガタガタ言ってんじゃねぇって!」
サリーダの言葉に反応するように、彼女の背後に、突然、五人の女戦士が姿を現した!
うぉっ! 幻覚魔法かっ?
「な、何でぇ。いるんならいいんだけどよ」
「分かったら、向こうへ行ってな! 汚ねぇ顔をあたいの前に曝すんじゃ無いよっ! 男ってのはホント、キモイ生き物だね、まったく。あたいは、こういう若い女が好きなのさっ!」
チッ! オメェの方がガタガタうるせぇっての。超ぉ〜ドS女めっ! コイツとはまともに会話出来ねぇぜ、まったく! まぁ、全員揃ってるんならそれでいいんだが。
それから、残りは、ハッキリ言って有象無象の連中だ。コイツらは普段、奴隷集積所で若ぇ女しか相手にしねぇから、腕っぷしが弱いんだよ。かと言って、魔獣部隊の奴らみてぇに魔力の操作ができる訳でもねぇ。まぁ、奴隷女の躾方法だけは良く知っているようだがな。コイツらは、兎に角、十把一絡げでローズの屋敷にでも送り込みゃぁ、それでいい。そこの使用人くれぇは片付けられるだろうぜ。
そして、広間の奥に目をやる。
おっと、そうだったぜ、奴らを忘れるところだった。まぁ、でも、奴らはバイス所長を今でも隊長と崇めている傭兵たちだし、普段からあんまり関わりがねぇからな、あの覚醒獣人部隊は。ありゃバイス所長に任せときゃいいだろ。それにしても、何人いやがんだ? ひーふーみー、え〜と、十人か。あれだけ揃えば、流石に威圧感が半端ないぜ。自他ともに認めるカバール商会の最強戦力。バイス所長がカバール商会に来てからも、奴らは所長に着いて傭兵としてカバール商会に雇われてやがる。悔しいが、奴らにはこの俺でも敵わねぇしよ。そう言や、いつも事務所にいるカッペルもコイツらと同じ部隊の出身だったな。
「よし、一応これで面子は揃ったようだぜ。所長に報告するとするか」
【幕間(二) 完】
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
と思ったら
下の ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願い申し上げます。
面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に励みになります。
重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。




