325-16-5_女たちの象徴
「どうかなさったのですか?」
アリサは、腕を背中に回したままそう言うと、あっと言う間に大人の雰囲気のアリサに変わっていた。そして、彼女にひとしきり話を聞いてもらうと、アリサは、頭を撫でながら言ってくれた。
「エリア様、とても……頑張りましたね」
「うん……」
アリサは、こんな私なのに、本当にちゃんと相手してくれる。え〜ん、アリサぁ〜。
「……ちょっとね、お腹も痛かったんだけど、頑張っちゃった。でも、アリサに話したら気持ちが楽になったわ。さっきまでは、何だかイライラしていたの……」
すると、アリサがそっと身体を離し、私の顔を覗き込む。
「エリア様、お腹の痛みはいつからですか?」
「ついさっきよ。お兄様と話していたら、段々痛くなってきちゃって……」
アリサがそっとお腹に手を当てた。
「もしかして、このお腹の痛みは初めてでしょうか?」
「うん、でも治療魔法で治ると思うから大丈夫よ」
そう言うと、彼女が、パッと明るい顔になって、その後、とても優しい表情を浮かべ、耳元に唇を寄せた。
「エリア様……」
「何?」
「このお腹の痛みは……」
アリサが小さな声で囁く。
えっ?
「……嘘?」
「本当ですよ。おめでとうございます、エリア様」
本当に? これが……この痛みが……そうなの……?
アリサの言葉で頭が真っ白になった。
大人の身体になると、気持ちまで女の子のようになるんだけど……でも、自分で勝手にそうだと思ってるだけで、本当は、女の子ってよく分からない。だって、経験したこと無いから。記憶だって、前世の男だったものだ。
……心のどこかでは……いつまで経ってもこの身体が自分のものでは無い気がしていて……でも……この身体の反応がアリサの言った通りだとしたら……。
「……それなら……身体が、この私を認めてくれたってこと……かな……?」
「ええ! ですから、治療魔法は痛みを抑える程度にして下さいね。無理に止めると良くない気がします」
「そ、そうね……」
……。
身体の中を温かいものが湧き上がってきて、両手を胸に当てた。すると……。
あれ? 涙なんか流してる……?
指の背でそれを拭う。
フフフ。そうか……。
「あのね、アリサ……」
アリサは、何も言わずにもう一度私の身体を抱きしめた。今度は、そっと包み込むように。
「……私、なんだか……嬉しいかも……変……かな?」
「いいえ、エリア様。あなた様は私たち女の象徴なのです。とても慶ばしいことですよ。私もとても嬉しく思いますし、何よりも、誇らしい気持ちで一杯ですっ!」
「アリサ……」
あぁ、アリサがギュッとしてくれた。胸が温かい。
そして、彼女は足元に身を屈め、私を仰ぎ見るようにして言った。
「では、女神様、女の子の身だしなみです。インナーのお召替えに参りましょう」
「うん……」
そうして、一旦、部屋に戻り、下着をサポートタイプのショーツに履き替えると、諸々の処置方法についてアリサの手ほどきを受けた。
ーーーー。
しばらくして、アリサとともに談話室に戻ってきた。
レイナードお兄様、まだ来ないようね。
先ほどまでの苛立った気分が落ち着いて、レイナードがアイリッシュとセルティスを連れてくるのを待っている。
とは言え、モタモタしてられないんだけどね。
何気なくアリサを見ると、彼女は壁際に澄まして立っている。
あっ、そうだ!
「そう言えばアリサ、さっきは、慌てて飛び込んで来たみたいだけど、何かあったの?」
「あっ、は、はい……」
ん?
「どうしたの?」
「……す、少し、哀しい夢を見てしまって……エリア様が……お一人で旅に出てしまわれる様な夢を……」
アリサは、そう言って眉を寄せ、寂しそうな顔をして見せた。
夢?
「何だ、そんな事? 心配しないくても、私は、アリサを置いてどこかに行ったしないんだから」
「ほ、本当ですか?」
そう言って、アリサは眉根を寄せて縋るような目をする。
「本当よ」
「本当に?」
「ええ、本当に」
「私が眠ってしまっていた間に、お一人で危険な所に行ったりもされていないですよね?」
「え? ええ……い、行ってないわよ〜」
ヤバイ、ちょっと目が泳いじゃった! でも、ジャブロクの所に行ったのも一人じゃ無かったし、嘘言った訳じゃないっ!
するとアリサは、こちらに向き直って姿勢を正した。
「エリア様……」
「は、はいっ!」
素早く立ち上がる!
「……私、今は、まだ足手纏いです。ですが……」
ですが……?
彼女の瞳がキラリと光る。
「……必ずや、アスモデウス様に私の覚悟をお認めいただき、エリア様のお役に立つことができる力を手に入れて見せますっ! ですので……」
ですので……?
アリサの口許がキリッと引き締まる!
「この、エリア様専属メイドを、置いていかないで下さいっ!」
彼女は、そう言ってお祈りのような姿勢で首を垂れた。
ア、アリサ……。
「何言ってるの、アリサっ! そんなの当たり前でしょっ! だ、だって、今の事だって、私じゃ女の子の事は何にも分からないし、アリサがいないとダメなんだから! もう、そんな風に畏ったりしないでよね! 私たちいつも一緒でしょ?」
「エリア様ぁ〜〜〜」
またメソメソしちゃって。よっぽど、その夢が悲しかったのね。
「それでね、早速だけどもうすぐしたら出撃よっ! アリサ、準備はいい?」
そう言うと、アリサは目をパチリと開き不思議なものを見るような顔になった?
「ん? あっ、ご、ごめんなさいっ。色々と説明をすっ飛ばしちゃったわ! 今からカバール商会の悪巧みを潰しに、スピカっていう町に行くわよ。アリサも一緒に来てっ!」
我ながら、お兄様の指摘には納得だ。自分でも、何を言っているのか分からない。
前世の時は、どちらかと言えば理屈っぽかったんだけど、転性すると性格まで変わっちゃうのね。あ〜、でも、私、正真正銘、女の子になった気分だ。なんちゃって。女の子の経験はまだまだこれから! 冒険は始まったばかりだもんね。
「は、はいっ!」
アリサは気合の入った返事をし、爛々と目を輝かせながら両手の拳を小さく握った。
うん、いい返事! まぁ、準備と言っても心の準備だけの話だ。タオルやハンカチの替え、下着や衣類一式、肌ケア用品にさっきアリサが渡してくれた衛生用品、そして、アクセサリーその他諸々の用意は、いつでも冒険に出られるよう、アリサが整えてくれたものをアクアセラーに入れてある。もちろん、アリサの持ち物も全部。
それに、武器だってちゃんと持ってるもんね〜。
アクアセラーの中には、戦いの道具として、カリスから貰った接近戦用の二本のナイフと、ヴィースから預かっている破山剣が入っている。
カリスのナイフは、カニ魔獣カルキノスの硬い甲羅から作られたもので、人間の防具程度は、例え金属で出来ていようと簡単に貫いてしまうらしいけれど、カニ精霊の武器だけあって二本を合わせるとハサミにもなる可愛いデザインなのだっ! 色は、赤とオレンジ、そして、紫色が混じった光沢のある柄で、軍人用の仰々しいものではなく、女の子が持つと棘のある可憐な花って感じの雰囲気だと思うし、とっても気に入っている。私が奴隷狩りに攫われた事から、護身用としてカリスが持たせてくれたものだ。
流石はカリスね。私の事、よく分かってるわ!
それに比べてヴィースの武器は、真っ黒で長くて極太よっ! 真ん中には縦の筋が入ってて伸びたり縮んだりするって言ってたわ。そんなの、私の華奢な身体では持て余しちゃうって、絶対!
彼の破山剣は、太さが三十センチもある双刃の剣だ。持ち主以外の者が持つと持ち上げる事すら出来ないけれど、本人が持つと軽く、見た目よりは取り回しが楽である。
とは言え……。
こんなに可愛い少女が、モーニングドレスを着てあんな物騒なもの振り回せる訳が無いよ。まったく! まぁ、確かに強そうな剣ではあるのよね。ヴィースも私の事を心配して持たせてくれたのはいいんだけど、あれを背負った少女なんて嫌でしょ! きっと、みんな引いちゃうよ! そんなのいたら、どこからどう見てもイカれた戦闘狂にしか見えないよ、ホント! あっ、でも、あれ持ってれば、逆に、絡んでくるウザい男は少なくなるって事か! 冒険者ってそういうの沢山いそうだしね。ん? もしかして、ヴィースったら、そう言う意味で私に破山剣を持たせようとしたのかな?
そんな心配されてる方がウザい!
「さて、と。それなら、いつでも出発できそうね」
後は、セルティス待ちだけど……。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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