324-16-4_お腹痛い!
「エリア、今からじゃ、ローズ領で奴らを迎え撃つのは難しいよ……」
レイナードはそう言って、膝に置いた拳をギュッと握って力を入れた。彼は、かなり気持ちが入っている。
「……もし、奴らが魔獣を操作するなんて最初から分かっていたなら、父上もアルバスの私設部隊を王都に呼んでいたはずさ。でも、今、王都にいる戦闘員は、モートンや僕を除いて魔法を使える者はいないし、アイリッシュやセルティスより強い者もいない。それに、モートンには、父上と、この屋敷を守っていてもらう必要があるから、彼に戦闘に加わってもらう訳にはいかないしね。もちろん、エリアはローズ領の方を警戒しなくちゃならないし」
う〜ん、何ややこしい話をしてるのかなぁ、お兄様? あぁ、そうか。レイナードお兄様は、男爵様から詳しく聞いていないのかもしれないわ。このセシリカ作戦では、ヴィースとアムがローズ男爵領の警備をしているって事を。
「お兄様、アルバスの部隊は最初から出さない話になっているわ。もし、部隊を呼んじゃったらね、内紛を起こそうとしている奴らの思う壺だからって。でも大丈夫よ。小麦畑の警備はヴィースとアムに任せてあるから。男爵様も、それなら問題ないだろうって言ってたわよ」
それを聞いて、レイナードが苦笑いする。
「いや〜、ハハハ、あれでしょ、エリアの眷属と山犬の女の子だったよね。確か、レピ湖の別荘の警備要員として雇ったって母上の手紙にも書いてあったよ。でも、そんなの君とセルティスを入れても、たったの四人じゃないか。父上も、よくそんな体制で納得したもんだよ」
え〜、どうしよう。ヴィースが水竜ヴィシャップだって事ちゃんと説明した方がいいかな〜。でも、隷属の女神の話を否定したばっかりだし、私から竜種の話を出すのもどうかなぁ……。
レイナードは、続ける。
「……エリア、僕に任せてよ! 奴らが使う転移の入り口ポータルは、ジャブロクの屋敷かカバール商会の関係施設にあるはずさ。恐らくそこに、木偶魔獣たちが集められているんだと思う……」
「ちょっと待って、お兄様! そんなの絶対危険よっ!」
何で、そんなに一生懸命言うかなぁ? 無茶な事だって分かってる筈なのにっ!
「……それに、お兄様が言った通りにしちゃったら、セシリカの予測の通りにならないわ。だって、奴らに奴隷狩りが姿を消した事を分からせて、それでもってジャブロクを焦らせるって言う作戦なんだからっ! 奴らがなりふり構わない行動に出るように仕向けて、そこを取り押さえるのっ! ピュリスさんだって王宮騎士団の出撃準備をしているんだし、その騎士団が奴らを捕まえた時が、ライラさんを助けるタイミングになるのよ!」
「すまない。その話、僕は全部聞いて無いよ……」
「えっ? 彼女を助けるには正当性が必要だって、男爵様もそう話していたじゃないのっ!」
「……父上からはそう言われていたけれど、奴隷狩りの件は知らなかったしね。それに、僕はそれじゃ遅いと思うんだ。ライラを公衆の面前で辱めるって言っていた奴らだよ、何をしでかすか分かったもんじゃない!」
やっぱり、ライラさんの事だっ!
「奴隷狩りの話をしていなかったのは悪かったわ。でも、ダメよっ! そんなのダメに決まってるでしょっ!」
「心配しなくても大丈夫さ。これでも僕は中級魔法術師なんだから。それに、剣の扱いには自信がある……」
レイナードは、右手の拳を小さく握って見せた。
「そんな問題じゃないって!」
しかし、彼は、頭を深く下げて言った。
「……エリア、お願いだ。僕はライラを少しでも早く助けたいんだ!」
彼は、祈るように懇願する。
もうっ! なんて事を言い出すのよっ!
「お兄様の気持ちは分かるけど、でも、絶対ダメっ! そんな勝手な行動、認めるわけには行かないわっ! 全てを台無しにして、みんなを危険に曝すかもしれないんだからっ!」
「エリア……」
「ダメよ、この話はもうおしまいっ! その代わりエイルにちゃんと見張っててもらうから、分かってよ! ねっ? レイナードお兄様!」
「……」
彼の様子を見る。レイナードは、何も言わずに目を伏せた。
少し、厳しい言い方しちゃったかな? でも、お兄様もお兄様よっ! あれだけ男爵様に釘を刺されていたのに、まだこんな事を言うなんて信じられないっ!
レイナードは、力無くソファから立ち上がった。
「お兄様、どこへ行くつもり?」
「……アイリッシュとセルティスを連れてくるよ」
彼は、そう言って談話室を後にした。その背中を見送ってソファに身体を沈める。
ふぅ〜。
そうやって大きく息を吐き、身体を脱力させた。すると、エイルが肩に乗って来る。
「あの息子、絶対なんかやらかすわよ」
エイルは、それだけ言うと光の粒に変化し消えようとする。空中に溶けて無くなっていくエイルを追いかけるように言う。
「やめてよ、男爵様が動けない時に〜」
「知らないわよ〜」
エイルの声が木霊のように頭に響く。
「はぁ〜、面倒な事にならなきゃいいけど……」
ため息まで出ちゃった。とは言え、レイナードお兄様は、メモ程度の手紙一つでアルバスからやって来たんだもんね。もしかすると、王都に来る前にはもう、自分の命に代えてもライラさんを救うぞ〜! なんていう決意をしているかもしれないわよね……。
「男爵様、レイナードお兄様が王宮騎士団に入ったら家督を譲るなんて言ってたけど、ボズウィック家を危険に晒すって事も理解出来ない今のお兄様じゃ、それはちょっと厳しそうね……」
親の心子知らず……だ。まぁ、私は逆に、親の気持ちを忖度し過ぎちゃったんだけど……。
どっちの方が自分の人生を生きてるかって言われると、レイナードの方が、まだ自分の気持ちを通そうとしている分だけマシだろう。そんな事を思うと、力なく笑みを浮かべてしまう。
フフ。人の事言えないか〜。
ちょっと、しんみり。って言うか、お腹痛い!
って、何してんの私! こんな事で気持ちを落としてる場合じゃないっ!
「そうよっ! お兄様には身勝手な行動を慎んでもらわないといけないわっ!」
気持ちを切り替えるように敢えて言葉を口に出した。すると、その時、扉の向こうから足音が近づいて来た。
レイナードお兄様? アイリッシュとセルティスを連れて来たのかな?
「それにしては、早いわね」
そして、ドアノブが動く。すると……。
「エリア様〜〜〜っ!」
あれ? アリサ?
扉が一気に開いたかと思うと、メイド姿のアリサがダイブする勢いで飛び付いて来たっ!
「わっ! アリサ!」
「よ、良かったですっ! エリア様、何処にも行かれてなかったっ!」
アリサが半ベソをかいて、首にギュッと纏わりつく。
「何だ、もう起きちゃったの?」
アリサの匂いだ〜、いい匂い〜。
彼女の身体の重みを感じ、心が落ち着く。しばらくそうしていると、アリサが顔を上げ潤んだ瞳で見つめてくる。
フフフ。アリサって、ホント可愛い! 普段は大人の女性なのに、もの凄く子どもっぽい時もあって、どっちのアリサも好きだけど、こっちのアリサは犬の獣人みたいだわ。もし尻尾が付いてたらビュンビュンと大きく振ってると思う。でも、今は、私だってアリサに甘えたい気分……。
「あ〜ん、アリサ〜、ちょっと聞いてよ、レイナードお兄様ったらね……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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