322-16-2_魔力切れ
屋敷の談話室に転移すると、男爵は、心配そうなエイルに見守られながら、ソファの背にぐったりと身体を預け目頭を指で摘んでいた。
「だ、大丈夫!? 男爵様!」
「あぁ、エリアか、こんな格好ですまん」
レイナードは、扉から大きな声でメイドを呼んだ。
「誰か! 水と蒸しタオルを持ってきてくれないかっ!」
「はいっ! 只今!」
レイナードの呼ぶ声にダイニングの奥から返事が返ってくる。彼はメイドたちに声をかけると、男爵の近くに腰を下ろし父親の様子を窺った。その隣から男爵の顔を覗き込むように顔色を見る。
あ〜、顔色が青白い。血の気が引いちゃってるわ!
「完全に魔力切れね」
魔法でなんとか出来ればいいんだけど、魔力切れは治療魔法では治せないのよね〜。
治療魔法は怪我や病を治すもので、枯渇した魔力を補うものでは無い。また、無理に魔力を流してしまうと身体が拒否反応が起こしてしまい、返って症状を悪化させかねない。
魔力切れを治せるとすれば女神の祝福なんだけど、流石に男爵様とキスはちょっと……。
それに、そんな事をしてしまえば、男爵様が私の眷属になってしまう。
いやいや、それは無い無い。とか言ってくだらない事を考えている場合じゃないわね。男爵様には十分身体を休めてゆっくりと回復してもらうしかないわ。
自分が魔力切れになった時の事を思い出す。そう言えば、ククリナにイグニス山の温泉に連れて行ってもらったんだった。
近くに温泉でもあればいいんだけど……。
二人のメイドが慌ててやって来ると男爵の元に駆け寄った。
「旦那様っ!?」
「旦那様っ!?」
「あぁ、スマンな二人とも。世話を掛ける」
男爵は、目を閉じたままそう言った。
「ゆっくりと呼吸をなさって下さい」
メイド頭のフランシスカは、男爵の傍らに膝を付き彼の左手首に中指と人差し指を当てると、男爵の顔色を窺った。そして、もう一人のメイド、給仕長のカテリーナは、水差しとグラスが乗ったトレーをテーブルに置いて、蒸しタオルを男爵の額に丁寧に当てた。彼女たちの対処はとても手慣れている。
「旦那様、ご気分はいかがでございますか?」
カテリーナが尋ねる。
「あぁ、大丈夫だ」
男爵は、そう言って上体を起こそうとする。
「まだご無理をなさらないで下さい」
フランシスカにそう言われ、男爵は、再び身体をソファの背もたれに身体を預けた。
「ふぅ〜。これが魔力切れの症状か……。身体が極度に疲労しておるような感覚だな……」
「男爵様、魔力切れは下手をすると命に関わるのよ。私も、この前、指一本動かせない状態までなっちゃったんだから。絶対、無理をしちゃダメよ」
今回は、エイルのシンクロだったこともあるし、彼女が男爵様の魔力量をモニタリングをしてくれていたから安心はしていたけれど、男爵様も初めての事だったようだし、無理して頑張っちゃったのね。
男爵は、カテリーナから蒸しタオルを受け取り、自分で首筋を拭きながら薄目を開けて私を見る。
「……エリアよ、そのような話は聞いておらなんだが、そんな事があったのか?」
うっ! 余計なことを言っちゃった!
男爵様には、奴隷狩りのアジトに囚われてしまった理由を内緒にしていたのに、ついうっかりと口にしてしまった。
「そ、そうなの。せ、精霊様からいただいた魔力を高める水を、副作用を理解せずに飲んじゃったから」
本当は、その後のケアを疎かにしていたからなんだけど、何を疎かにしてたのだ? なんて聞かれちゃったら大変だ!
「そうか。エリアも気を付けるのだぞ……」
「うん。分かったわ」
ホッ。スルーで助かった〜。
心の中で胸を撫で下ろしていると、エイルが肩の上にやって来てちょこんと座った。
「絶対に男爵様に言っちゃダメよ! 恥ずかしいから!」
エイルに念話でそう言うと、彼女は、何も言わずチラッとコチラに視線を向けた。
目が笑ってない? 大丈夫かなぁ。
「……ところでエリア、セシリカ女史の方はどうなったのだ?」
男爵は、そう言って再び上体を起こした。メイドたちは、男爵の身体を支えながら心配そうに彼の表情を見ている。
「あぁ、そうね。あのカバールのカッペルっていう男は山羊の獣人だったんだけど、覚醒者だったから人間の姿をしていたわ。方は直ぐに付いたんだけどね」
そう言って右手の拳を見せる。
「んん? まさか素手で殴ったのか?」
呆れたように言う男爵に、腕組みしてニッコリと笑顔を見せた。
「う、うん。まぁ、反射神経や移動速度は常人ではなかったわね。空中で方向を変える技も使っていたようだし」
男爵は、軽く首を振ってやれやれという顔をする。その隣では、レイナードが意味が分からないとばかりに、ポカンと口を開けていた。
「怪我をしておらぬのなら、まぁよい……」
ま、また心配かけちゃったかな? でも、成り行きでそうなっちゃっただけだし、ククリナも側にいたから問題ないよね。
「……それで、その後はどうなったのだ?」
「え、えーと、それでね、セシリカが王宮騎士団に連絡してくれて、オスカル隊長って人がやって来てくたわ」
そうそう、超イケメンのオスカルさんが来てくれて、跪かれちゃったんだ! ちょっと気分が良かったかな〜、なんてね。そう言えば、あの人、私に伝えたい事があるって言ってたわね。何の話かな?
「なるほど、オスカルが来てくれたのだな。あの青年隊長は、歳が若いがなかなかに出来る奴だ」
男爵は、そう言ってゆっくりと頷いた。
「確かに、特別な存在感がある人だったわ。それで、カッペルはオスカルさんたちに引き渡すことにして、そのついでに奴隷狩りの件も頼んでおいたわよ……」
「奴隷狩り?」
レイナードが反応する。
あっ、そうか。そう言えば、レイナードお兄様にはちゃんと話してなかったかもしれない。でも、詳しい話はできないし、今は聞こえない振りしちゃおう。ごめんね、お兄様。
そうして、話を続ける。
「……その奴隷狩りなんだけど、王宮騎士団の人たちが、後でこのお屋敷に引き取りに来てくれるって言ってたわ。多分、ピュリスさんも来てくれると思うけど」
「うむ、手筈通りだな。よくやってくれた、エリア」
「じゃぁ、ククリナにはその時に来てもらうように言っておくわ」
「頼む……」
男爵は、そう言ってから、スゥ〜っと大きく息を吐き、息継ぎをしながら話を続けた。
「……そ、それでエリア……ハァ〜……バイスと言う男なのだがな……ハァ〜」
肩で息をする男爵を見かねて、レイナードが話に割って入った。
「父上、ご無理をなさらないで下さい。エリア、後は、僕が父上に代わって彼らの様子を説明するよ……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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