321-16-1_【幕間(一) 】 ローズ領襲撃計画 ーージャブロクの屋敷(談話室)ーー
(カバール商会所長バイス・コロネロス①)
「ヌヌヌヌゥ〜ッ! おのれ〜っ!」
「会頭! 落ち着いてくだされ。今、カッペルをローズの所へ向かわせましたので、直に会計責任者の女を捕らえて戻って来るでしょう」
「隷属の女神ぃ〜、鬱陶しい奴めぇ〜、ローズの会計女もろ共、八つ裂きにして魔獣の餌にしてくれるわぁーーっ!」
会頭は、かなり興奮なさっておいでだ。しかし、このように仰るが、隷属の女神など本当におるのだろうか? まぁ、カッペルが戻れば分かることだな。
「……会頭、兎に角、朝までにローズの小麦畑を壊滅せねばなりますまい。今、マッドに人を集めさせましたので、ローズ領襲撃の計画を急ぎ練る事といたしましょうぞ。我らの魔獣部隊は、未だ完全ではございませんが、この際、そのような事を言っておる場合でもございません。使えるものだけでも奴らの畑に差し向けましょう……」
もう少し早く魔獣部隊が整っておれば良かったのだが、いくら母体魔石を使ったところで、魔獣たちを意のままに操る事が出来るまでには、訓練にも時間がかかる。しかし、実戦可能な木偶魔獣どもは五体程あっただろうから何とかなりそうだ。
後は、念の為、教授殿のワイバーン部隊を借りておくか、まぁ、高く付く事にはなるだろうが……。
それにしても、間も無く幕が上がるというのに事務所の若い連中は何をしておるのだ、まったく! 奴隷娘を当てがってやったはいいが少し甘い顔を見せ過ぎておったようだな。これは締めておく必要がありそうだ。一番手が遅い者の手足でも折っておくか。
しかし、事務所の若いもんがおらんのであれば、作戦実行部隊の手数が足らんかもしれんな。ならば、奴隷集積所の者たちも駆り出さねばなるまい。
部屋の扉を開けて大声で叫ぶ!
「おいっ、誰かっ! マッドに伝えよっ! 奴隷集積所の者どもにもここへ集まるよう言えとなっ!」
「かしこまりました!」
廊下の奥で、メイドが返事をした。
ふむ。魔獣は魔獣使いどもに任せるとして、万が一に備え、我々に反目する村を襲わせておくか。この際、娘だけで無く、老若男女全て奴隷にしてもいい。それと、マラジーナ伯爵殿のところには使いを出さねばなるまいな。
ジャブロクは、時折、歯を剥き出しにして食い縛る様子を見せている。
「会頭、伯爵殿の所へは誰を向かわせましょうか?」
「何だぁっ?」
う〜む、周りの声が聞こえてらっしゃらないようだ。このご様子ならいつぞやのように、使用人どもに当たり散らされてしまう。会頭には、もう少し落ち着いてもらわねばいかん。
そして、また、部屋の扉を開けて、大声で呼んだ。
「メーゼスはおらんかっ?」
「ここに」
執事長のメーゼスは、扉のすぐ外に立っていた。
「おぉ、そこにおったのか、メーゼスよ、会頭に何か温かい飲み物を」
「はい、ただいまお持ちいたします」
メーゼスは丁寧に頭を下げると、ダイニングに向かった。そして、しばらくすると、ホットワインをトレーに乗せて戻り、談話室に入って、それをジャブロクに差し出した。ジャブロクがカップに手を掛ける。
うむ。メーゼスはいい仕事をする。
「メーゼス、お前はそこにいてくれ」
「かしこまりました」
会頭が少し落ち着かれたようだ。
「よろしいでしょうか、会頭?」
「あぁ?」
「……マッドの報告の件ですが、バカなアトラス派貴族どもが取り付け騒ぎを起こさんように、奴らには、小麦が発芽した事を伏せておく方がよろしいでしょう。しかし、既にマラジーナ伯爵の所には別の調査員が伝えておるはずです。そこで、伯爵殿には、騒ぎが大きくならんうちに、情報を統制してもらうよう依頼したいのですが、いかがでしょう?」
ホットワインを口にしたジャブロクは、ようやくまともに返答した。
「……伯爵? そうだな、アトラス派貴族などどうなろうとも良いが、この計画はお前に任せてある。そういう事ならば、メーゼスに行かせれば良い。此奴の事は伯爵も気に入っておるのでな」
メーゼスが静かにお辞儀をする。
う〜む、アトラス派貴族たちに関心をお持ちでないのは致し方ないが、どうやら、会頭はこの計画の意味をあまりご理解いただいていないようだな。例え小麦畑を壊滅させたとしても、貴族どもが手形を売ってしまえば元も子もないというのに。
最近の会頭は、少し疲れていらっしゃるようだ。若い女奴隷で遊ぶのも良いが、このワシよりも一回りお年を召されておられるので、体力が落ちておいでなのだろう。
こんな時、鬼子の臓腑でもあれば良いのだが……。
「……ならば、メーゼスよ、会頭もこう仰っておられる。伯爵の方は頼んだぞ」
「かしこまりました」
メーゼスは、そう言って返事をした。
「うむ」
これで、アトラス派貴族の方は抑えられる。後はローズ領を攻める段取りであるな。
「ところでメーゼス、ザリッパからの連絡はあったのか?」
「いいえ、奴に飛ばした伝書魔鳥がそのまま戻ってきております」
彼の言葉に、ジャブロクが大きな怒鳴り声を上げたっ!
「ええいっ! ザリッパの奴め、何をしておるのだっ!」
ジャブロクの鼻息が荒い!
「まったくですな。しかし、連絡もよこさんとは……」
会頭の仰るとおりだ。一体、ザリッパはどうしたと言うのだ? 伝書魔鳥ならば、奴の魔力を覚えておるはずだし、奴がそこにおれば、間違いなく会頭からの連絡が届くはずだが、魔鳥がそのまま戻ったとなれば、奴のアジトには誰もいない事になるではないか。
留守番くらいは残しておるはずなのだがな……。
しかし、これからローズの小麦畑を壊滅させねばならんと言う時に、このままでは現場の指揮が回らんぞ! 兎に角、ここは状況を確認しなければならん!
「会頭、まだ時間はございます。一度、奴のアジトの様子を見に行かせますか?」
「ムムム! バカどもが手間を掛けさせおって!」
会頭のお怒りはごもっともだ。しかし、冷静によく考えれば、我らの計画が頓挫する事態が立て続けに起きておる。小麦の毒が消え、ザリッパたちも連絡がつかん上に、レックスの姿も確認出来ておらんのだからな。
いや、待てよ……。
会頭は、この屋敷の奴隷が攫われたと仰っていたな。それに加えて事務所の女奴隷と若い連中も居場所が掴めん。もしやそれらも何者かの仕業だとするならば、これらをただの偶然とするには楽観的過ぎかもしれん。やはり、何者かが意図的に我らの行手を遮ろうとしておるのでは?
隷属の女神、か……。
いや、しかし、その様な存在おったとしても、何故、ローズの畑を守るために動いておるのだ? う〜む、分からん事だらけであるな。仕方ない。ここで考えておっても始まらん!
「……会頭、やはりカッペルに現地を見に行かせましょう。あの男ならば、何かトラブルがあったとしても、対処が出来るでしょうからな。それで、この際、人工転移魔石は必要な分だけ使わせてもらいますが、よろしいでしょうか?」
人工転移魔石はアトラス共和国で製造しておるが、かの国は、軍事上のトップシークレットだと言って、表向きには入手するのが困難だ。会頭の顔で何とか手には入っておるが、三度使えば壊れてしまう。使い所を間違えるわけにはいかん。だが、今は、出し惜しみしておる場合でも無いだろう。
「好きにするがいい……」
ん? あれ程、人工転移魔石の使用を渋っておられたのに、アッサリと許可されたな……。
「……それと、教授を呼んでくれ」
「はい。そのつもりをしております」
うむ。教授にはワイバーンの件で相談しなければならんから、お越しいただこうと考えていたところだ。
メーゼスを見やる。
「メーゼス、会頭のお言葉を聞いておったな? 教授殿にも連絡してくれ」
「はい。承知いたしました」
彼は、そう言うと落ち着いた様子でお辞儀をし、部屋を後にした。
「……では会頭、ローズ領の方へはカッペルが戻り次第、奴を転移させるといたしますので」
【幕間(一) 完】
「面白いかも!」
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