320-15-15_オスカル・フォ・ドルーイ
「なるほど、そういうことね。精霊たちは契約によって力を貸すのだから、人間にはその意図をはっきりさせろってことで、それが魔法詠唱ってことなんだ、納得!」
「当然よ!」
「それなら真ん中のくだりに出てきたところだけど、アミタバって、光の精霊の名前なの?」
「違うわ。このオスカルっていう人間がそう呼んでいるってことだけよ。元々、精霊に名前なんて無いんだから」
「あっ、そうか。ヴィースもククリナも名前無かったしね。じゃぁ、ウィンディーネの名前は?」
「いつの間にか人間が私のことそう呼ぶようになっただけ。まぁ、気に入っているからいいんだけど」
「そんなものなの? もの凄くテキトーね」
「なんかトゲがある!」
「じゃぁ、精霊の名前なんてテキトーに詠唱しても、契約さえしていれば、精霊はちゃんと力を貸してくれるのね」
「なんかムカつく言い方! そんな訳無いでしょ! お母様はいいかもしれないけど、私ならウィンディーネ ”様” って言われないと、絶対言うことなんて聞いてあげないっ!」
うわ〜、精霊には、こんなワガママな存在もいるって事なんだ〜。ウィンディーネと契約した魔法術師は大変だわ。レイナードお兄様に教えといてあげないと! まぁ、お兄様ならウィンディーネに振り回される方が返って嬉しいかも知らないけどね。
ウィンディーネと念話でやり取りをする一方で、視界にはアクレイやセシリカ、そして、オスカルの部下たちの様子も確認できている。しかし、彼らはまるで蝋人形のように動きを止めていた。
それにしても、光の魔法ってやっぱり凄い! こんな風に時間を操作することが出来るんだわ! どう言う仕組みか分かんないけど、私たちは時間が止まってる人たちに干渉出来るのよね? この魔法を使われたら、時間が止められた方は成す術もないわね。
オスカルは跪いたまま、こちらを見上げて言った。
「エリア様、簡潔に申し上げます。私は王家の墓守を仰せつかっているドルーイ侯爵家の者でございます。そして、先祖より受け継がれた言葉に従い、隷属の女神様を、王家の墓である女神ガイア様の迷宮へとご案内させて欲しいのです。詳しくはいずれまた……」
彼は、そう言って跪いた姿勢のままもう一度頭を下げた。
「それから、話は変わるのですが……」
オスカルは、この件とは別に、団長のピュリスから受けている指示があると言って、それを説明した。
「例の件ね。流石はピュリスさん、段取りが早い!」
「では、もう魔法の効力が切れますので、今ご説明した手筈通りにお願いします」
「分かったわ」
そして、次の瞬間には彼の魔法がその効果を失い周囲の状態が元に戻った。アクレイたちは、今起こったことに全く気付いていない様子だ。
「ねぇ、ちょっとイケメン隊長! 光魔法ってどんなものなの? 私たちに見せなさいよ」
オスカルはアクレイの言葉を無視するように反応を示さず、立ち上がった。
「ところでエリア様、その賊は、どなたかが殴って地面にめり込んだように見えるのですが」
彼は、淡々と状況をなぞるようにそう言った。
「私が殴って地面にめり込んじゃったの。この男を、そっちで引き取ってくれる?」
「ちょっと! 私の事は無視なのっ!?」
アクレイの抗議は誰も気にしない。
「この男はカバール商会のカッペルという奴です。これまで色々と陰謀や暗殺に関わっていたようで、王宮騎士団でも目を付けていたんですが、後一歩のところでいつも上手く逃げられていたのですよ。でも、エリア様のお陰でようやく現行犯で身柄を確保することが出来ました」
彼が、ニッコリと笑う。
ま、眩しい!
「そ、それなら良かったわ……」
え、え〜と、ここで私の方から依頼するんだよね。
「……それから、後もう一つお願いがあるんだけど、奴隷……」
「奴隷狩りの件ですね。それなら団長から聞いています……」
ちょっと返事、早くない?
「……後ほど囚人運搬車をお屋敷の方へ向かわせますので、その時にお引き渡し下されば結構です」
「それは助かるわ。ザリッパの一味は全部で二十人くらいるからよろしくね」
そう言うと、オスカルの部下の一人が一歩前に進み出た。
「た、隊長! その任務は私にお任せ下さいっ!」
オスカルは、サッと右後ろに視線だけを流す。
「分かりました、プロディさん。では、あなたにお願いします」
コイツが……。
彼が返事をすると、オスカルの部下たちは、気絶したままのカッペルを縄で縛り馬に乗せて鞍に括り付けた。
「ではエリア様、私たちはこれにて失礼いたします。先ほどの件、後日、こちらからご連絡いたしますので」
そう言ってオスカルは、また笑顔になった。
うっ!
「え、ええ」
この笑顔には、まだ慣れないわ。
動揺していると、ククリナが頬を膨らませジト目で目上げてくる。
アハハ、なんか怒ってる?
そして、念話で会話した。
「な、何?」
「ダメですよ〜」
「違うって!」
「じゃぁ、手を繋いで下さい!」
「もちろんよ、はい」
そう言ってククリナと恋人繋ぎで手を繋ぎ、オスカルと部下たちが広場の方へと引き返して行く様子を見送った。すると、アクレイが、腕組みしながら言う。
「先ほどの件って、一体、何なのよ、まったく!」
アクレイは、彼らの去り行く姿を横目で追いかけながら、不満そうな顔をしている。
「ホント、蚊帳の外だわね、私たち。ねぇセシリカちゃん?」
「別に興味ないですよ。それよりも刺客が来るのなら、うかうか寝ていられないですね」
セシリカは、そう言って腕組みしながら困った顔をした。その様子をジト目で流し見る。
「よく言うわね、あんなに豪快に寝てたくせに」
「すみません」
セシリカは、悪びれる様子もなくそう言った。まぁ、しかし、確かに彼女の言うとおりだ。さっきから騒ぎを聞きつけたローズ家の使用人たちが一階に降りてきて事務所に集まっているけれど、腕っぷしの強そうな男は一人も見当たらない。
「でも、本当にあなたの護衛になる様な人はいないみたいね」
「はい。ローズ家で一番強いのは、アクレイさんですからね」
セシリカは、不安そうな目で彼を見た。
「何よ、セシリカちゃん、私は用心棒で雇われてるんじゃないのよ」
「ですよね〜」
そう言って、セシリカはククリナに愛想笑いを向けた。
「いいわよセシリカ……」
ククリナは、仕方ないとばかりにセシリカにそう言うと、満面の笑みをこちらに向ける。童顔少女の可愛過ぎる笑顔には何も裏など感じられない。
「……エリア様、それなら私が引き続き彼女の護衛をいたしますわ」
「そ、そうね、じゃぁお願いできる? ククリナ」
「はい、喜んで……」
とは言え、裏がある事は間違いない。
「その代わりと言っては何ですが……」
ほらね。
「あのお約束と、次の満月の夜の事は……」
ククリナは、そう言って人差し指を自分の唇に当てた。
あのお約束? あ、そうだった。レイナードお兄様を飲み込んじゃったククリナに吐き出してもらうために、私は彼女の生け贄になるんだった。それと、満月の夜……だよね。
「わ、分かってるわよ」
お腹の当たりを両手で抑えた。
あ〜、次の満月の夜には、あれだ〜。
「何なの〜? しんみりしちゃって子猫ちゃん。満月の夜に何かあるのかしら。悩み事ならこの私が聞いてあげるけど?」
「な、何でもないです」
「分かりやすい子ね」
もう〜、アクレイさんってば〜。そんなの言えるわけないよ〜、とっても恥ずかしい事なのにぃ〜。だって、セイシェル王女に妖精女王のマブでしょ、それにククリナとアリサ。こんなにたくさんの人の前であの ”秘奥義の儀式” をしなきゃいけないんだからね〜。
その事を考えると、儀式のシーンが思い浮かんでしまった。
あ〜、みんなに見られちゃうのかなぁ〜。で、でも、み、みんな女の子だし、ほ、ほんのちょびっとだけなら、み、見られても平気? なのかな〜。何ちゃって。ちょっと、ドキドキ……。
……???
う、嘘っ? な、何、今の気持ち……?
首を振って頭の中のイメージを消した。
「ほ、ほら、そんな事よりアクレイさん、落ち着いたら鳥人族の話を聞かせてくれない?」
「あら、話をすり替えちゃって。まぁいいわよ、子猫ちゃん。何なら鳥人族の里に案内してあげる」
「ホント! じゃぁ約束ね」
「オッケーよ」
ふぅ〜、上手く話を逸らすことが出来たかな?
するとその時、慌てた様子のエイルから念話が入った!
「エリア様、大変よっ! 男爵さんが伸びちゃった!」
ああ、男爵様、魔力切れ起こしちゃったのね。でも、いいタイミングだわ。このままここにいたら、アクレイさんに色々と勘ぐられそうだし。
「直ぐに戻るわっ!」
エイルに念話で返事を返すと、セシリカに事情を話す。
「……だからセシリカ、私、すぐに戻らないといけないわ。あなたはククリナがいるから大丈夫でしょうけど、あの男が戻らないと知れば、奴らはきっと、また誰かをここによこそうとすると思うから、さっきみたいに油断し過ぎちゃダメよ。ちゃんと警戒くらいしなさい」
「はい。分かりました〜」
セシリカは、そう言って頭の後ろに手をやった。
分かってんのかな?
「じゃぁ、アクレイさん、またね」
「子猫ちゃんも、なんだか色々と大変そうだけど、怪我だけはしないようにしなさいよ」
「うん! ありがと」
そうして、二人とククリナに手を振り、屋敷に転移した。
ーーーー。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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