318-15-13_獣人と鳥人
ククリナも腕を組んで奴を見下ろす。カッペルの頭部からは、二本のカールした黒い角が伸びており、姿も変化していてどこから見ても山羊獣人だ。
「ねぇ、これって獣人でしょ? でも、さっきまで姿は完全に人間だったみたいだけど、変身なんて出来るのね」
誰に尋ねるともなしに何気なくそう言うと、セシリカが教えてくれた。
「獣人はタイプが原種型と派生進化型の二つに別れまして、これは、派生進化型の獣人、いわゆる獣人の覚醒者ですね」
「獣人の覚醒者? 何だか凄そうね」
なるほど。これが覚醒獣人か。戦闘にも野生的な感性を覚える。相手が強かろうが弱かろうが初撃から全力を出す戦いぶり。まるで、ウサギを狩るライオンだ。
「まぁ、凄いと言いますか、見た目通り、派生進化型の獣人はヒューマンの社会に馴染みやすいですからね。でも、獣人社会では、色々と苦労も多いようですけど……」
「そうなの?」
「はい……」
セシリカの話によると、獣人のタイプは原種と言われる見た目が変化しないものと、人間そっくりに変化することが出来る派生進化型がいるそうだ。これは、この世界の歴史の中で、人間と獣人との交配が進んだ事によって、獣人の子どもには一定程度、派生進化型の特徴を持つ者が生まれてくるらしい。そして、ヒューマンの視点から、そうした派生進化型を獣人の覚醒者と呼んでいるのだという。しかし、彼らは獣人社会の中では決して尊敬されているような存在ではないとの事だ。
「……つまり、獣人の覚醒者は獣人社会では半端者扱いされるようで、彼らは生き辛さを感じているようです。しかし、ヒューマン社会では獣人の頭抜けた身体能力や繁殖能力が重宝されますから、彼らは、結構、ヒューマン社会に溶け込んでいますね。奴隷にされている場合が多いのですけど……。あっ、そうそう、エリア様の身近にもいるじゃないですか。アムちゃんも覚醒者ですよ」
「そう言われればそうね。でも、耳と尻尾は隠せないみたいだけど」
「はい。そういうタイプなのでしょう。でも、彼女は山犬の姿にも変身出来ると思いますよ」
「嘘? 全然知らなかった!」
アムも覚醒獣人なのね……。全くそんなそぶり見せなかったけど、じゃぁ、あの子、カムイの里で辛い経験してたのかな?
セシリカの話を聞いて、アムのことが心配になってきた。
もう少し、あの子と一緒にいてあげる時間を作ってあげないとダメかな……。
この件が落ち着いたら、出来るだけ早いうちにアムを連れて森の病気の調査と冒険に行くとしよう!
それで、目の前のコイツのことだけど……。
「まだ死んではいないようね、どうしよう、これ?」
「呑み込んでおきますか?」
ククリナがそう言うと、セシリカが、「後のことは私にお任せ下さい」と言って、胸を拳でトンと叩いた。
「……ピュリス様も何かあれば連絡するように仰っておられましたし、通報しましたから王宮騎士団の方が直ぐに来てくれるでしょう。と言いますか、もう来られたようですよ」
彼女は、そう言って中央広場の方を指差した。
「えっ?」
セシリカが示した方向を見ると、馬の乗った数人の騎士がこちらに向かってくる。
「セシリカが連絡してくれたの?」
「いえ、私ではありません。彼です」
そう言って、セシリカが空を見上げる。そして、彼女に釣られるように上空を仰いだ。
「ん? 何あれ?」
目を凝らして見ると、建物の間の暗い夜空に、大きな翼を広げた生き物が空中を悠々と旋回している。
「大きな鳥ね」
あっ! 今、鳥と目が合った?
その途端、その生き物は翼を縮めて勢いよく急降下を始めると、瞬く間に頭上十メートルほどの距離まで近づき、そこで翼を羽ばたかせてからゆっくりと着地した。
凄い! やっぱり鳥だ!
その存在は、茶色い羽毛を持つ人型の姿をしていた。
「へぇ〜、こんな種族見た事ないよ〜」
その人物を上から下までマジマジと見てしまう。それは、顔に黄色いクチバシがあり、手は羽なのに腕組みしている。どうやら指もあるようだ。そして、下半身は七部丈の黒いズボンを履いており、鋭い鉤爪の足をしている。どこから見ても鳥だけど立ち振る舞いは人間だ。
「鳥人、だよね?」
「な〜に、この子? 珍しいもの見るみたいにして。私に興味でもあるのかしら?」
もしや、この人……。
「……それにしても、セシリカちゃんの言っていた通りね。驚いちゃったわよ。可愛い子猫ちゃん」
子猫ちゃん?
何て返事をしようかと考えていると、セシリカが彼を紹介した。
「アクレイさんは、ワシの鳥人族で、ウチの事務所で働いてもらってるんです。通信係と言ったところですね。ちょっと冗談好きが過ぎますけど。あと、彼もさっき言っていた覚醒者で、かつ、トランス女性です」
この人も覚醒者なのか……。今は鳥の姿をしているけれど、全くの人間の姿にもなれるってことよね。でも、そんなのどっちだっていい。
「ふ〜ん、鳥人族の通信係かぁ、それは適任そうね。アクレイさんっていうんだ。私はエリアって言います。ヨロシク!」
「あら? 覚醒者ってところにも、トランス女性ってことにも、全然反応ないみたいね?」
アクレイが、以外そうにそう言った。
「え? あー、まぁ、覚醒者の話は今セシリカから聞いたし、後、トランス女性っていうのも、別に普通だと思うけど。私も似たようなもんだから」
彼が、私の反応を気にしているのかどうかは知らないけれど、他人の事情にはあまり首を突っ込みたくない。それに、トランス女性っていうけど、性別なんてただのグラデーションだよね。私だって、女の身体をしているけれど中身は男だし。ただ、クリトリアのせいで成長した身体になると気持ちが女の子のようになってしまう。とは言え、やっぱり私はシスジェンダーの女性ではない。でも、それが私なのだし私はこの状態が気に入っていて、自分の事を鏡で見ると我ながら胸がキュンとしてしまう。誰にも言えないけど……。
アクレイは、ニンマリと笑って言った。
「あんたおもしろい子ね。私、気に入っちゃったわ……」
彼は、そう言ってウィンクした。
「私もアクレイさんの事、気に入っちゃった! 今度、鳥人族の事を教えてくれない?」
「鳥人族の話なんて何も面白くないけど興味あるなら教えてあげるわ。いつでもいらっしゃいな、子猫ちゃん」
「うん、そうするっ!」
ヤッター! これで鳥人族の知り合いが出来たっ! デミヒューマンとの交流なんて興味しか無いわ。だって、この異世界でのやりたい事リスト上位五番以内に入るんだからっ!
するとその時、背後に馬の蹄の音が近づいてそれが止まると、セシリカが私の頭を超えたところに視線を向けた。そして、その方向から声が掛けられた。
「みなさん、お怪我はありませんか?」
声のした方を振り返ってみると、馬から降りた三人の王宮騎士団員がこちらに歩み寄ってきた。
「遅かったじゃないの、光の聖騎士さん」
アクレイは一番手前の団員に向かってそう言った。
光の聖騎士?
「その呼び名は誤解を生みますので、あまりそう呼ばれたくはありません。それに、空を飛ぶアクレイさんには敵いませんよ……」
騎士団の白い制服に身を包んだ彼は、感情を表に出さないような表情でそう言った。そして、改めて姿勢を正すと、右手をこめかみに当てて敬礼した。
「……私は、王宮騎士団の中央広場警備隊長を務めるオスカルと申します」
彼らの一番先頭で挨拶したのは、スラッとした身体つきの精悍な面構えをした青年だ。彼は中背で、髪はブロンドの短髪だけど右サイドの髪を短い三つ編みにしている。
なんかオシャレ〜!
そして、サファイア色の涼しい眼差しをしながら、きめ細かい白い肌の頬をキリッと引き締めた!
まつ毛、長っ!!!
「エリア様でございますね……」
「そ、そうだけど……」
凄いよこの人、イケメンだけじゃなさそうね。とっても不思議なオーラをしているわ。危うく気遅れしそうになっちゃった。でも、こんな風に見つめられたら女は骨抜きにされそうね。って、なんか固まっちゃってるけど、何処をそんなに見てるのかなぁ……?
「ご、ご苦労様ぁ……」
何も言わない彼に焦れてしまい、気の抜けた挨拶をしてしまった。ところが彼は、不動の姿勢のまま次の言葉が出てこない。
何だろう? あ、そうか。こっちから状況を説明しろってことね。
「え〜と、オスカルさんって言ったわね。今、私たち……」
「お、お美しい……」
「えっ?」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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