316-15-11_ローズ家の王都事務所
ジャブロクの絶叫の様な命令により、すぐさまバイスがマッドに指示を出したっ!
「マッドっ! 直ちに人を集めよっ! 事務所の者もこの屋敷の者も全員だっ! 聞いていたであろう! 会頭のご命令であるっ! 急げっ!」
「へいっ!」
バイスに返事をしてマッドが部屋を飛び出して行くと、奴と入れ替わりにカッペルが現れた。
念話で話す。
「あの男が戻ってきたようね」
「かなり早かったよね。馬でも往復二十分は掛かるのに、まだ半分くらいしか時間が経ってないよ」
「本当ね。でも、奴は何て報告するんだろう?」
カッペルは、少し慌てた様子で部屋に入ると、入り口付近で扉に手をかけたまま、バイスに報告した。
「所長、おかしいです! 事務所がもぬけの空で、奴隷娘の姿がどこにもありません!」
「若い連中が外に連れ出したのではないのか?」
「いえ、あの連中に行くところなどありませんよ。金も持っていませんし、寝泊まりも事務所でしているような奴らですから」
「室内はどんな様子だった?」
「はい。連中がいたのは地下の倉庫ですが、誰かのナイフが一本床に転がっていただけで、他には何も気付きませんでしたが……」
「争った形跡も無かったのだな?」
「ええ」
「う〜む、解せんな。あの連中とて、多少は戦える奴もいたであろう。何者かがやって来たのであれば、少なくとも交戦くらいにはなった筈だがな……」
「全くです。突然消えたのなら話は分かるんですが……」
「そんな事がある訳無かろう。若い連中の事だ、趣向を変えて娘どもを野外にでも連れて行ったのではないか?」
「そうですね……」
カッペルは、そう返事をして視線を斜めに向けた。すると、レイナードが念話でボソッと呟いた。
「や、やっぱり、六人とも消したんだね……」
疑ってたの、お兄様? だから、さっきそう言ったのにね。
そしてまた、奴らの会話に注意を向ける。
「会頭、念の為、事務所の警戒を高めておきましょう」
バイスがそう言っても、ジャブロクはその事に答えようとはせず、その代わり、バイスに唸る様な声で命令した。
「バイスよ、……木偶魔獣どもを奴らの畑に向かわせろ〜! ローズの会計をしている女もここに連れてこい〜……どんな手を使ってもいい……その女に隷属の女神の情報を吐かせるのだ〜っ!」
バイスは、サッと立ち上がり、カッペルに言った!
「カッペル!」
「御意!」
カッペルはそれだけ返事をすると、部屋を飛び出した。
「セシリカが危ないわ! 私、ちょっと行ってくる!」
「いえ、彼女の護衛を仰せ使ったのは私です」
「ありがとう、ククリナ。じゃぁ一緒にお願い!」
「かしこまりました!」
「それなら僕は、このまま奴らの監視を続けるよ」
「エ、エリア、む、無理な事だけは……するな」
「ええ、分かったわ。でも、男爵様こそちょっと休憩しないと」
「ワ、ワシは、大丈夫だ」
「エリア、父上には僕が付いているからこっちは心配しないで」
「分かったわ」
「……それから、さっき奴らが……いや、なんでもない」
「何よ、お兄様、言いかけの途中で止めちゃって」
「いや、いいんだ。エリア、気をつけてね」
あぁ、男爵様もお兄様も気づいているわよね。隷属の女神が誰の事を指してるのかってこと。でも、二人とも、呑み込んでくれて助かったわ。
そして、気持ちの中で踵を返す。
「エイル、分身体を一つ私に着けてくれない?」
「もちのろんよ!」
そうして自分のシンクロを解除し、ローズ家の王都事務所前に転移した。
ーーーー。
ローズ家の王都事務所は、中央広場から放射状に伸びる道を東へ百メートルほど入ったところにある。事務所の大きさは二階建てで、ハイツのような四角い形をした煉瓦造りの建物だ。通路には街灯が無いものの、夜の十時近くになったこの時間でも周囲の事務所はまだ業務をしているようで、窓から漏れる明かりが道を照らしているため歩けない程でもない。ただ、商社の集まるこちらの街区は、この時間帯になれば人通りも殆ど無いようだ。
「セシリカ、まだ、仕事しているようね」
「いいえ、あの子、仕事はいつも五時で終わりです。単に夜型人間なのですわ。趣味の本でも読んでいるのでしょう」
「そうなの? ちょっと緩み過ぎじゃない?」
「いつもの事ですわ」
ククリナはそう言って、呆れたように両手を広げた。
「ふ〜ん、じゃぁ、ちょっとセシリカの様子を見に行こうかな」
「はい。では、私は、念の為ここで身を隠しておきます」
「うん。お願い」
ククリナが地面に沈んで行くのを見送り、事務所の入り口から中に入る。
鍵も掛けて無いんだから、ホント不用心だよ。
扉の取っ手を引いて中に入ると小さなカウンターがあり、その向こうには木製の机が向かい合って並んでいる。そして、一番奥には、一回り大きな机が入り口を向くよう置かれていた。さらに、その机の上には小さい足の裏がこちらに向けられていて……。
「って、足?」
嘘っ! まさかっ、もうっ?
なんて事は、無い。足の裏の向こうから、クゥクゥと寝息が聞こえている。
「まったく!」
側に寄ると、彼女は、椅子の背に両腕を垂らし顔の上に開いた本を被せて眠っていた。
「気持ち良さそうに寝てるわ」
セシリカは、口元に涎の跡を付け、ブラウスのボタンを二つほど外し、スカートが太ももの付け根まで捲り上がっている。
「だらしないなぁ〜。カマキリのパンツ、丸見えになってるじゃないの」
彼女の履いているパンツは、サリィが作った昆虫刺繍シリーズの試作品だ。サリィは小さな頃から昆虫が大好きで刺繍も大の得意なのだ。それで、彼女が考案したのが、スパイダークロスで縫製した薄ピンク地のパンツに、ヒップの上部と前方の股グリサイドの部分にそれぞれワンポイントの昆虫刺繍をあしらった可愛いデザインのパンツだった。何種類かあった試作品のうち、私は、カタツムリを選んだのだけれど、セシリカはカマキリが気に入ったようで、見たところ今日はそのパンツを履いている。
「それにしても無防備過ぎじゃないの? イタズラしちゃうおうかな」
そうして、ピアスを指で弾いた。
「ラーシャ、セシリカに雷神ヒーリングをして上げて!」
「女神、了解!」
ラーシャがそう言うと、セシリカの周囲から、ブ〜ン、という低周波音が鳴り始める。そして、彼女を取り囲む空気が振動をすると、セシリカが、突然、悶え泣き出した!
「ギャハハハハーーーーっ! ギャァーーーーっハッハッハッハッ! や、やめて〜〜〜っ! キャハハハハ!」
「早く起きなさい!」
「わ、分かりました〜〜〜っ! だ、だから、と、止めてっ! く、くすぐったいっ! 止めてくださいっ! キャハハハハハーーーーっ!」
束の間放置する。
「お〜! お願いしますっ! 起きますっ! 起きますから〜〜〜ギャハハハハ〜〜〜っ! ダメ〜〜〜っ! 死にそうっ! もう死にそう〜〜〜キャハハハハ〜〜〜〜っ!」
「どこが感じるの?」
「く、く、く、首とかっ、脇の下とかっ! 足の裏もっ! ぜ、全部っ、全部ですよ〜〜〜っ! やめて〜〜〜キャァァーーーハハハハ〜〜〜〜っ!」
「ラーシャ、もういいわよ、静電気魔法を止めてちょうだい」
「女神、OK」
ラーシャが魔法を止めると、セシリカは放心状態で目だけをこちらに動かした。ラーシャが彼女に掛けていた魔法は微弱な静電気を起こして肌を刺激する魔法、いわゆるくすぐり拷問魔法だ。
「た、助かった。ふぅ〜〜〜。わ、笑い死にしそうでした。お、おはようございます。エリア様」
「おはようじゃないわよ、セシリカ。私が何しに来たのか分かってる?」
「い、いえ……。あ〜、でも何となく予想はできます。奴らが動き出したとか。ですよね?」
セシリカは、肘掛けに腕をついて身体を起こし、ようやく座り直した。
「それもそうだけどもっと緊急事態なんだから。ジャブロクは、小麦を浄化した存在の情報を知っているだろうあなたを捕らえるために、ついさっき、刺客をここに向かわせたわよ」
「えっ? じゃぁ、私、とっても危険な状態じゃないですかっ?」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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