315-15-10_ジャブロクの怒り
「フフフ。それにしても、まさか、私たちに全部見られてるとは考えてもいないでしょうね」
「エリア、油断はいかんぞ」
「は〜い」
心の中で、ペロッ、と舌を出す。すると、エイルまで同じように言う。
「そうよ、エリア様、変なフラグ立てないでよね」
フラグ……。
「フラグって何?」
レイナードが聞いた。
「何? スケベ男! フラグはフラグよっ!」
エイルは、やっぱりお兄様に塩対応だけど、会話してくれただけでも進歩ね。
「エ、エイルちゃんが僕に厳しい……」
「エイル様と呼びなさいっ!」
「ううう〜」
レイナードの嘆きを無視し、また、奴らの会話に集中する。
「ヌググググッ〜! ど、どういう事なのだっ! 何故、腐った種の芽が出るなどと言うことがあるのだっ! 見間違いでは済まんぞマッドっ、貴様っ!」
「い、いえ、み、見間違いじゃ、あ、ありやせんっ! こ、これをっ!」
マッドは焦ってそう言うと、マントの懐から包み紙を取り出した。そして、奴はそれをバイスに手渡した。バイスはそれを受け取ると、ジャブロクの前に差し出して包み紙を開けた。包み紙の中身は土の付いた細い緑の葉の束だ。
バイスがマッドに聞いた。
「これは小麦の苗だな。ローズの畑のものか?」
「へ、へい。一昨日の朝、奴らの畑で採取した物でごぜぇます。そ、それで、こいつが畑一面に……」
ジャブロクは、腕を組んでガタガタと貧乏ゆすりを続けながら、奥歯を剥き出しにして小麦の苗を睨んでいた。バイスは厳しい表情でマッドに聞いた。
「奴らの屋敷の様子は見たのか?」
「へ、へい。奴らには、特に変わった様子はねぇ状況で怪しい奴の出入りも、あ、ありやせんでした……」
「う〜む、あの毒の効果が消えるなど、俄には信じ難いが……」
バイスは、そう言ってマッドを見上げた。
「う、嘘じゃありやせんっ! あっ! そ、そうですっ、所長! 一つ、怪しい情報がっ!」
マッドは、焦りながら手振りを交えてそう言った。
「言え」
「へいっ! レ、レックスの野郎に金で飼われていた農民の話じゃ、なんでも、村の教会に女神とやらが現れやがったって……」
「女神だと? 何だそのくだらん話は?」
バイスが顔を顰めるように言う。マッドは緊張し過ぎて手が震えている。
「あ、あくまで農民からの情報なんで。し、しかし、その女神と呼ばれた若ぇ女は、奴らの前で魔法を使って小麦の芽を発芽させやがったとか……」
男爵が念話で言った。
「教会で行われた寄合いでの話だな」
「そうよ。でも、後から分かったんだけど、農民の人たちの中にレックスと通じていた人間がいたようなのよ。ホルトラスさんはフニス村の村役をしている男だって言ってたわ」
「先程、セシリカ女史が心配しておった事か。う〜む、農民たちの中にはアトラス派に協力しておる者もおるということだな。これは、やはりアトラス派が大々的に裏で動いておるとしか考えられん。ならば、状況を把握しておいた方が良いかもしれんな」
「でも、ローズ男爵領にはたくさんの村があるんじゃないの? 今から調べるていると奴らの襲撃に間に合わないけど、そんなのどうやって調べたらいいんだろう?」
ククリナにレックスを吐き出してもらって、奴の記憶を読み取ることもできるでしょうけど、レックスはどう考えても端役の器だ。奴が全てを仕切っていたとは到底思えない。レックスは指示を受けて動いていただけだと思う。
「うむ。それならばワシに考えがある。ローズ領と隣接してアトラス派男爵の領地がある。領主の名は、ポルクス・イグナーヴァスという男だ。奴は、いつもマラジーナ伯爵の尻にくっついているような男でな、ローズ領の乗っ取りにはこの男も関わっておるはずだ。恐らく、村役たちをアトラス派に靡かせておるのは、此奴で間違いないだろう、小麦手形も大量に購入しておるようだしな。もう自分の領地を増やしたような気になっておるに違いない、欲の皮を張りおって」
「じゃぁ、その貴族の男から情報を奪えばいいのね?」
「そうだ。奴の屋敷はスピカという小さな町にある。エリアの魔法を当てにして申し訳ないが、頼めるか? もし、人手が必要ならばセルティスを連れて行けばいいだろう。あの子なら、屋敷に潜り込むことなど造作もない」
「分かったわ。この成り行きを見届けたらセルティスを連れてスピカに行ってくる」
「うむ。エリアがそこで掴んだ情報はピュリス様にも伝える必要がある」
「その時はエイルの力を借りるわ。ねっ、エイル!」
「何でも言いなさいっ!」
「あ、あの、僕は……?」
レイナードお兄様ったら、クラス行事の役にあぶれちゃった子みたいね。ライラさんの力になりたいって気持ちは分かるんだけど、下手に動いてもらったら面倒だわ。
「お兄様は、引き続き奴らの様子を見張っていて頂戴!」
「レイナード、お前はアイリッシュとともにここに待機しておけ。ライラ嬢の救出に備えておくのだ!」
「了解しましたっ!」
男爵様、結局は私と同じ事言ってるんだけど、お兄様にやる気を出させる言い方をするなんて流石は父親ね!
そうして、また奴らの会話に注目した。すると、バイスがマッドを怒鳴り付けていた。
「バカも休み休みに言わんかっ!」
バイスの覇気が急激に上昇するっ!
「ヒィィィィーーー」
マッドが怯える。
「……そんな小娘ごときが腐った小麦の種を発芽させただと? 黒い魔石の呪いはそう簡単に浄化できるものではないはずだっ! それで、レックスとは合流出来たのかっ?」
「い、いえ、奴とは連絡が取れやせんでした」
「まったく! 伯爵殿の腰巾着め……」
バイスは、腕組みしながらジャブロクの方を向いた。
「少し、奴を甘やかせ過ぎたのではありませんか、会頭?」
そう言ってバイスがジャブロクの様子を伺った。マッドもカメのように首を伸ばして奴を見る。しかし、ジャブロクは心ここに在らずの様な目付きで貧乏ゆすりを続け、怒りの形相のままテーブルの一点を見つめている。
バイスは、マッドに向き直り彼に聞いた。
「他に何か変わった事は?」
「い、いえ、ございやせん。し、しかし、あのローズ領には、強力な魔物でもいるんでしょうかねぇ?」
「どういう意味だ?」
「へい。実は、調査の前日の夜、俺たちが野営をしてると、ローズ領の方向で自然の雷とは思えねぇ、すげぇ異常な稲光を見たんでさぁ……」
マッドがそこまで言うと、ジャブロクがヌッと顔を上げた。
「ヒィッ!」
マッドは、言葉を止め喉を引きつらせる。そして、ジャブロクは、地を揺るがせるような低い声を出し、身体を震わせた。
「雷ぃ〜〜〜〜だとぉーーーーっ!!!」
「へ、へ、へ、へいぃーーーっ!」
マッドは直立不動の姿勢になって返事をした。すると、ジャブロクは、また顔を下げ、今度は自分の震える拳を見つめると、ボソボソと呟くように言った。
「れ、隷属の……女神……」
「隷属の女神? それは一体……?」
バイスがそう言って、ジャブロクに尋ねようとする。しかし、ジャブロクの耳には入っていないようだ。
「……隷属の…女神……。 ヌヌヌゥ〜! 隷属の…女神ぃ……!」
「か、会頭……?」
「ウググググゥ〜っ! 隷属のぉーーーー女神ぃーーーーっ! お〜の〜れぃーーーーっ!」
そして、ジャブロクは大きな怒鳴り声で、部屋の外まで轟くような咆哮を吐いたっ!
「や、奴をっ! その小娘をっ! 探し出せぇぇぇーーーーっ!!!」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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