313-15-8_セシリカの予測
セシリカは、自ら予測した話の説明を始めた。
「……元来、この作戦のアキレス腱となるのは、来年の小麦受け渡し期日までの間に、何者かによって畑が荒らされるという懸念です。もし、彼らがあらゆる事態を想定していて備えているのであれば、最終手段として小麦畑を壊滅させる事や、農村の襲撃などの手立てを用意しているのが普通でしょう。エリア様も仰っていましたが、奴らは、魔獣を操る術も持っているそうですし、事実、第二王女様御一行は操られたワイバーンによって襲撃を受けたと思われます……」
「うむ。それは間違いないであろうな」
そう言って男爵が頷いた。彼の様子を見て、セシリカが話を続ける。
「……そして、もし、彼らがそのように準備を周到にしているのであれば、今日の夜、小麦が芽を出した事を知った彼らは、慌てる事なく、あらゆる手段を使いローズ領を襲撃する筈です……」
「まぁ、悪党の考えそうな事だよ」
ピュリスも、そう言って頷いた。
そんな事になっても対策は万全だけどね。
セシリカは続ける。
「……しかしですね、先ほども申しましたように、彼らは、私たちが先物契約市場に手を出す事を、全くと言っていいほど、想定していませんでした……」
「確かにね。だって、セシリカにしても思いつきのように閃いたアイデアだったもんね」
「ええ、まぁ……」
セシリカは、右手で頭を押さえ、苦笑いしながら話を続けた。
「……それで、奴らは十分な検討もせず目の前の餌に飛び付いた挙句、後手に回るという失態を犯してしまったのです」
「そうか。ならば、小麦畑の報告を聞いた奴らの焦りようは、我々が想像するよりもはるかに大きいということだな。そうなれば、奴らは正常な判断を失うかもしれんな」
「はい、男爵様。私が申し上げたいのもそれなのです……」
セシリカは、メガネのズレを直して話し続けた。
「……小麦発芽の事実を知ったジャブロクたちは、まず、小麦の発芽情報が漏れることを恐れるでしょう。奴らは、アトラス派貴族様たちが大損する事に恐れをなして、取り付け騒ぎを起こしてしまう事のないようにしなければなりません。何故なら、ジャブロクたちの狙いは、ローズ領の全てを手中に収める事であり、もし、小麦手形が売りに出されてしまえば、例え奴らが小麦畑を壊滅させたとしても、カバール商会だけでは契約履行不能で請求できる補償金が限定的となってしまいます。そうなれば、ローズ家を破産に追い込むことができなくなる。そう考えた奴らが次に取ることの出来る行動は……」
セシリカは、ジャブロクたちは、アトラス派貴族への情報流出を抑える方策に走るとともに、翌朝までに小麦の発芽を無かった事にしようと必死になるしかないという。
「……奴らの情報統制への対抗措置は既に取ってありますのでご安心ください。ローズ家と取引のある小さな行商人の皆さんにお願いし、今年はローズ領の小麦が豊作になるとの噂を流してもらっています」
「ハッハッハッ。奴らの調査団よりも先にか? 面白い!」
男爵様って、こういう常識に捉われない事をする話が大好きだよね。
「ありがとうございます。もし、上手くいけば、先物契約市場が開く前から取り付け騒ぎは起きるかも知れません。ジャブロクの屋敷で」
「アトラス派貴族どもが押しかけるという訳か。そうなれば、尚のこと愉快であるな」
「ボズウィック男爵、楽しそうだな?」
ホントだよ。
「これは失礼いたしました、ピュリス様」
「いや、私も楽しいよ……」
あんたもかっ!
「……でもセシリカ、それなら、ジャブロクの出方として、後はどうなるんだい?」
「そうですね、ここまでくれば奴らに残された手は、もう力ずくでの悪足掻きくらいです」
そしてセシリカは、広大な畑に致命的な打撃を与える為に魔獣を暴れさせ、一気にそれを成し遂げようとするだろうと言った。
「なるほど〜。じゃぁ、魔獣の襲撃は今晩だよね。それなら、ヴィースとアムに連絡しておかないと」
「よろしくお願いします」
セシリカは、そう言って軽く会釈した。
小さくピースっ!
ヴィースとアムがいれば、魔獣が大挙して押し寄せて来ようが、小麦畑の心配はいらない。二人がそこにいる事は男爵様にも説明してあるし、こちらの準備は万全だ!
セシリカは話を続ける。
「それで、ここからが勝負どころではあるのですが……」
「勝負どころ?」
最後の追い込みって事かな?
「……はい。奴らの手下である奴隷狩りは、エリア様が捕らえて下さっていますので、奴らからすれば、現地での戦闘員がいない状態な訳ですが……」
「うむ」
「確かに」
男爵とピュリスが、同時に頷いた。
「……奴らにすれば、小麦は芽を出すわ農民は無事だわアトラス派貴族は混乱するわと言う中で現地とも連絡が取れず……」
「そうだな」
「うんうん」
男爵もピュリスが相槌を入れる。
「……この状態は、これまでの奴らの計画が無に帰すと言ってもいい状況ですし、朝になって先物契約市場が開いてしまえば、奴らの方が破産に追い込まれる可能性が高い為、もう、なりふりなど構っている場合ではありません。ジャブロクなどは、少々の無理をしようが後からアトラス派貴族に尻拭いをさせて辻褄合わせをすれば良いと考えるでしょう。つまり……」
「つまり?」
「つまり?」
「つまり?」
「つまり、アトラス派の内部分裂!」
アトラス派が、内部分裂だって?
「な、内部分裂? セシリカ女史、もう少し説明をしてもらえんか?」
「そうだね、私もお願いするよ」
僕も!
「お二方とも、ご説明が足りずにすみません。これは、ジャブロクの行動パターンからの推察ですが、奴は、これまでも犯罪めいた事を平気で行いながら、アトラス派貴族の重鎮、具体的にはマラジーナ伯爵の力でそれらの行いを揉み消されてきた筈です」
「確かにそうだね。王宮騎士団の団長として面目ないよ」
「ち、違いますっ! そんなつもりでは……」
「大丈夫さ、セシリカ、これは本当の事だからね」
「ピュリス様がそのように仰る必要など、何もございません。我々貴族の派閥争いが原因なのですから」
「ボズウィック男爵、気を使わせてすまないな」
「何を仰いますか。セシリカ女史、続けてくれ」
「申し訳ございません。では、前置きは抜きにしまして、ジャブロクの残された手は魔獣などを使って、小麦畑を壊滅させる事ですが、この状況では噂に聞く転移魔石などを使い、ローズ領に魔獣を放つくらいが関の山でしょう。この短時間ではその証拠を消すことが難しいですし、王国内で魔獣を操るなどの反逆行為が表沙汰になります。そうなれば、いくらマラジーナ伯爵と言えど、ジャブロクの味方をすることは出来ません。しかも、マラジーナ伯爵も大きな損失を抱えることとなり、お互いに相手に責任をなすりつける状況になるのは必至です。まぁ、ジャブロクは開き直って暴れ出すかも知れませんが」
「なるほど。私は、転移魔石を見たことも使ったこともないが、人間が使う転移魔法自体が、結構、面倒臭いそうだ」
「へぇ〜、そうなんだ? ピュリスさん良く知ってるね?」
「いや、私も聞いた話さ。今はエリアちゃんのお陰で、自由に飛べるけどね」
「羨ましいですな」
「ボズウィック男爵も、エリアちゃんの眷属になるといいよ。彼女とキスをすれば簡単さ」
「ちょ、ちょっとっ!」
「エ、エリアと、キ、キスですと? 父娘でそのようなっ!」
「ハッハッハ。冗談!」
あー、ビックリした! 本気にしちゃったらどうしようかと思っちゃった。
「まぁ、それはさて置き、言われてみればセシリカの話は、自然な流れだな。つまり、奴らは自滅していくと言うことだろ?」
「ピュリス様、ようやくカバール商会が尻尾を出す時が来たと言うことですな」
「そういう事だよ、男爵! そこで、ようやく王宮騎士団の出番という訳だ」
ピュリスは、そう言って騎士団長のキリッとした表情になった。そして、セシリカは、言葉を続けた。
「最後に一つ、懸念とまでは言えない事なのですが……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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