312-15-7_調査報告
「男爵様、落ち着いて! そうはならないんだから!」
「そ、そうであったな。し、しかし、奴らがただの悪徳商会だと考えておったワシの考えは甘かった。これならば、王国に仇なすテロリストではないか!」
「どうしますか? 父上っ!」
「う〜む、本来なら王宮騎士団に通報するべきだろうが、しかし、今、通報して騎士団が動いてしまえば、セシリカ女史の計画が頓挫する事も考えられる。そうなればローズ男爵殿の補償金が賄えん事態も考えられるな。とは言え、知ってしまった以上、黙っておる訳にもいかん。ヌヌヌゥ〜」
「男爵様、取り敢えずピュリスさんに相談しましょ! ピュリスさんなら事情も分かってくれているし。でも、考えれば、奴らの意図が分かったからと言っても、私たちの計画が大きく変わる事ではないわ。私たちの本番はもう明日だし、奴らが魔獣を暴れさせようとしているのは、まだ先のタイミングでしょ?」
「うむ。エリアの言う通りだな。我々は、ピュリス様にだけ報告するとしよう」
「だ、大丈夫なのですか? 父上?」
「多少、焦る気持ちもあるが、ピュリス様に報告する事で、我らの臣民としての義務は果たすことができる。もし仮に、奴らが魔獣を動かせば、即座に王宮騎士団が動けるだろう」
「わ、分かりました、父上!」
「じゃぁ、エイルからピュリスさんに伝えといてもらうわね。お願いできる? エイル?」
「いいわよ!」
「エイル様、ありがとうございます」
「もっと、褒め称えてもいいのよ」
「エ、エイルちゃん、じゃなくて、エイル様。感謝します!」
「ガラガラガラガラ〜〜〜〜!」
「エイルっ!」
「い、今のエイルちゃん、え〜と、様の反応、何?」
「シャッターが下りちゃったのよ。お兄様は、エイル商店への入店拒否だって」
「出禁? トホホ……」
「ところでエリア、奴が何度も言っておった、かのお方、とは一体何者なのだ?」
「私も、それ気になってたんだけど、アトラス派貴族にそれらしい人物はいないの? 男爵様?」
「う〜む、奴の言い方からすると、マラジーナ伯爵の事では無さそうだ。しかし、奴は、先ほど自らも言っておったが、その謎めいた人物に急かされ、功を焦っておるようだ。レイナードに届いた手紙の数字もそれを示しておったし、今回、セシリカ女史が蒔いた餌に飛び付いた事もそれが理由なのでは無いか?」
「あっ! セシリカが言っていたことね? 奴らが小麦手形を挙って買い漁ったもう一つの理由でしょ?」
「そうだ」
やっぱりジャブロクは、何か焦ってるんだわ!
その時、レイナードが言葉を挟んだ。
「誰かがやってきたみたいだよ!」
意識をイメージに集中する。すると、突然、廊下を慌ただしく走る足音が近づき、部屋の前でドタバタと止まった。そして、扉が力一杯ノックされた。
「か、会頭! ここにおいででございやすかっ!? 大変な事がっ! ローズの畑がっ!」
念話で話す。
「ようやく到着のようね」
「そのようだな」
そして、ジャブロクが不快な顔付きで言った。
「何だ? 騒々しい」
ジャブロクがそう言うと、バイスが立ち上がり奴に向かって言った。
「会頭、この声はローズ領の調査に行っていたマッドのようです。今戻ったのでしょう」
「そうか。ならば開けてやれ」
ジャブロクがそう言うと、バイスは扉を押し開けて一歩下がった。すると、息を切らした一人の男が勢いよく扉を引き開け、バイスに構いもせずジャブロクに向かって焦るように言った。
「か、会頭! ロ、ローズの畑の小麦が、い、一面、め、芽を出してやがるんです……」
マッドと呼ばれた短髪のその男は、マントを脱ぐことも忘れて悲壮な表情をしている。
「マッド、ゆっくり話さぬか! ローズの畑がどうしたと言うのだ?」
ジャブロクは、少し苛立った口調でマッドに尋ねた。
「で、ですんで、ロ、ローズの畑の小麦が、す、全て、め、芽を、だ、出しちまって……」
「貴様っ! しっかりと話さんかっ! 何を言うておるのか分からんわっ!!!」
ジャブロクは立ち上がり、入り口にいるマッドに向かって持っていた葉巻を投げつけた! 苛立ちを募らせた奴の葉巻はマッドの額に命中し、小さな火の粉を散らして床に転がり落ちた。マッドは狼狽え、ワナワナと身体を震わせている。その様子を落ち着いて見ていたバイスは、自分の葉巻を口に咥えながら落ちた葉巻を拾い上げると、その葉巻を灰皿に押し付けて火を消し、ジャブロクに向かって丁寧な言葉で言った。
「会頭、マッドから詳しく話を聞きましょう」
奴はそう言うと、ソファに腰を下ろし、ジャブロクにも腰掛ける様手振りで促した。すると、ジャブロクも渋々の顔付きでソファに座り直すと、腕を組んでガタガタと貧乏ゆすりを始めた。そして、バイスはマッドに調査内容を話すよう言った。
「マッド、向こうでの経緯から順に、改めて、状況を説明してくれ」
「へ、へいっ!」
念話で会話する。
「今のところは、セシリカの予測通りね。調査員が戻る時間も、あの子が言っていた通りだわ」
「うむ。それにしても、本当に、奴らはこの事態を想定しておらなんだようだな。もちろん、ワシらとて、エリアがおらなんだら、ローズ領のように広大な面積の死んだ畑が、まさか生き返るなどとは想像もつくまい。見てみよ、エリア、あのジャブロクの顔を。さっきまでとは違い、奴は、興奮して、相当頭にきている様だぞ」
「ホント。口から泡を吹いて怒ってるわ。セシリカにも見せてあげたかったわね」
「まったくだ」
「エ、エリアに父上。その様に落ち着いていて良いのですか? ぼ、僕は、ライラの身が余計に危なくなるんじゃないかと気が気でなりませんよっ!」
「レイナードよ、気持ちは分かるがワシらはまだ動くべき時ではない。そうはならぬのだからな……」
「それ、さっき父上がエリアに言われたことじゃないですか〜。それに、ご自身でも仰っていましたよ〜」
「そうであったか? そんなことよりも、今は奴らの動きをしっかりと見ておかねばいかん」
「レイナードお兄様、気を落ち着けてちょうだい。ほら、セシリカの予測した事を教えてあげたでしょ? ライラさんもここにいることが分かったじゃない」
「そうだったね。でも、この先も、本当に彼女の言う通りになるのかなぁ?」
「大丈夫。セシリカの予測は大したものよ。何てったって、彼女は演算の上級スキル持ちなんだから! まぁ、見てなさいって!」
そう! セシリカは大した女なのだ!
ーーーー。
少し前、打ち合わせの後の談話室での事を思い出す。
「セシリカの予測?」
「はい……」
「僕らの動きを確認しておくって事?」
そう聞くと、セシリカは瞳を輝かせて話した。
「はい。まぁ、それもありますが、どちらかと言えば、彼らの動きの想定です……」
セシリカは、彼女が持つ上級演算スキルを駆使して、ジャブロクやカバール商会のこれから取り得る行動を予測したと言う。
「へぇ〜、セシリカってそんな事もできるんだ? 流石は上級スキル保持者だね」
そう言うと、ピュリスが目を丸くして言った。
「それは本当なのかい? 凄いよセシリカっ! 上級スキル持ちなんて滅多にいないからね。じゃぁ、私もその予測とやらを聞いておこうか」
ピュリスの言葉に、男爵は、自分が初めてセシリカの聡明さを知った時の事を話した。
「ピュリス様、私もセシリカ女史の計画を初めて聞いた時は驚きましたですな。まさか、カバール商会に喧嘩を売るような事を、このような若き女性が考えるのですから。しかし、エリアから彼女が上級の演算スキルを持っていると聞いて納得し、なおのこと上級スキルの恐ろしさに驚いてしまいました。ハッハッハッ」
男爵はそう言って笑うと、「それなら、ワシも聞いておきたい」と言ってセシリカに大きく頷いた。
「ありがとうございます! では、順を追ってお話し致します……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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