310-15-5_奴らの狙い
男爵様には分かっちゃったのかなぁ? お兄様の質問に答えるのが面倒だって思っちゃった事。さっき、しんみりしてるところ見られちゃったもんね。記憶にあるエリアの悲しみが深すぎて、少し辛くなってたからなんだけど、多分、そのせいで、ちょっと身体もだるいのよねぇ。
気持ちを戻して、念話で話す。
「あの男、行っちゃったわ。これで奴らは事務所の異常に気が付くわね。それにしても、馬より早いって、あのカッペルって男、何かスキル持ちなのかな?」
「あれの情報は掴んでおらなんだな。しかし、奴らの事だ、どの雇人も並の者ではないだろう。物腰からすると暗殺系のスキルを持っておるやもしれん」
「暗殺系? それなら要注意ね」
「そりゃそうだよ。カバール商会の手下どもはみんな手練ばかりだって聞くよ。奴らは冒険者ギルドにも所属していないから、どの手下も実力が不明だそうだけど、噂では、殆どがシングルランカークラスだって話さ」
「へぇ〜、そうなんだ。でも、そんなに強い男いたかなぁ?」
「エ、エリア、あまり思い出したくない事は考えなくて良いのだぞ」
「そ、そうだよ、さっきは僕が悪かったんだ。でも、また余計なこと言っちゃったね。ごめん、今の取り消すよ」
「ん? 別に、思い出したくないことでもないんだけど」
「エリア、ワシらは家族だ。む、無理に明るく振る舞わんでも大丈夫であるからな。こう見えて、ワシにも覚えがあるのだ。もちろん、直接、手を下したわけではないが、ワシの指示で何人もの人間を殺めたことがある。その時は、身体が震えてしまったぞ」
「そうなの?」
「す、凄いよエリアは。僕なんて、まだ大した経験なんて無いんだ。だから、君の気持ちを汲み取れなくて申し訳なかったよ。今日のはエリアの初陣なんでしょ? そりゃ気持ちが不安定になるよね」
あぁ、なるほど。さっき、ちゃんと答えなかった事、お兄様は気を悪くしてるのね。
「ごめんなさい、お兄様。カバール事務所で何があったかって事よね?」
全部は言えないけど、魔法で男たちを消した事くらいなら、別に話してもいいか。
「いや、いいよいいよ。エリア。ま、また話せる気持ちになった時で、手練ばかり相手にして大変だったんだよね、分かるよ。エリアは転移魔法も使えるから、男たちから上手く逃げることができたんだって事くらい。そりゃ、死ぬほど怖かったよね。あっ! ごめん、また言っちゃった!」
お兄様ったら、何の話してるのかな?
「何言ってるの? 目障りだったから、魔法で六人ほど消しちゃっただけよ」
ま、まぁ、それ以外の人数はノーカンの話よ。
「はっ?」
レイナードは、まだ理解に及ばないようだ。
「だからね、ピー、シュバって消したのよ」
「ピー、シュバって、け、消した? エリアが何言ってるのかよく分からないんだけど、この世から消したって意味じゃ無いよね?」
「この世からよ」
「ろ、六人、いたんでしょ?」
「そうよ」
「あの短時間で? シ、シングルランカーだよ?」
「知らないけど、だから何?」
「……こ、怖い。やっぱり、エリアって普通じゃない……」
「レイナードよ、気にするな。この世には人の物差しで測れんものもある」
「はいっ! 父上っ!」
「何なのよ二人ともっ! こんな美少女つかまえて怪物みたいに言っちゃって!」
もうっ! あんまりイライラさせないでよねっ!
そして、奴らの様子に集中する。
バイスは、カッペルを見送った後、自ら扉を閉じてジャブロクとの会話を続けた。
「しかし、会頭、このタイミングというのが少々気になりますな。まさか、ローズの件とは関係ないでしょうが」
ジャブロクは、バイスの話を聞きながら目の前の木製ケースに手を伸ばして葉巻を一本取り出すとそれを咥え、その先端に馬の置物みたいなライターで火を付けた。そして、奴は、小さく息を吸い込むと葉巻を摘んで口から離し、鼻から白い煙を吐き出した。
「まぁ、それは無いであろう。今さら、奴らには何もできん……」
そして、奴は、また葉巻を口に加えると、今度は大きく息を吸い込んで、尖らせた口から、ふぅ〜っ、と煙を吐いた。
「……それにしても、ローズの会計責任者の女がバカで助かったわい。まさか、先物契約に手を出すとはな。あんな契約に、まともに金を用意する者があると考えておるとは愚かにも程がある。誰が破産の未来しかない奴らに金を出すと言うのだ。しかし、そのバカのお陰でワシは余計な金を払わずにローズの土地を手に入れる事ができる」
ジャブロクは、そう言って葉巻を吸い、先端の火を赤くした。
「酷い! バカはどっちだって言うのよっ!」
念話で、思わず独り言が出てしまった。
「まあまあ、エリア」
レイナードが宥めるようにそう言った。
「あんな奴、地獄に堕ちればいいのにっ!」
「僕もそう思うよ。でも、今は落ち着きなって、エリア」
ムゥ〜っ!
レイナードにそう言われて、また会話に集中する。ソファに深く座っているジャブロクは、ニンマリとイヤらしく笑みを浮かべると、バイスに言った。
「バイスよ、ここまでワシらに貢献してくれた会計責任者の女には、首輪を付けてお前の事務所で働かせてやったらどうだ? ローズのところにはおれんようになるだろうからな。歳を食っておるようだし妾にはならん。ハッハッハッ」
「ご冗談を」
バイスが、渋い顔をしてそう言った。
「ハッハッハッ。まぁ、しかし、思いがけず半年以上計画の時期を早めることができそうだ。かのお方からも、随分と催促されていたのだ。食うに困っておる農家には娘たちも大勢おるであろうし奴隷も予定どおり集められる。これでかのお方に良い報告が出来るであろう。それにしても、腑抜けの王族どもには手を焼かされたものだわい」
「おっしゃる通りですな。これまで、我々が散々圧力を掛けてきたにもかかわらず、王宮はローズ家の処分を保留し、こうも長引かせてきたのですからな」
「うむ。これも、レムリア派貴族どもによる横槍のせいだ。王族は、貴族たちの派閥争いを極端に嫌いおるのでな。しかし、それも、今日までのことよ。明日になればローズ家は破産し、アトラス派からの圧力によってローズ家への王宮の処分も即日発表されるだろう。これで奴らは完全に終わりだ。フンッ! バカな貴族め、全て、ワシが仕組んだことだとも知らずにのう」
ジャブロクはそう言うと、ニンマリと笑みを浮かべて口元を緩めた。そして、テーブルの上にある木箱を開け、新しい葉巻を一つ取り出してバイスに差し出した。
「ありがとうござます……」
バイスはそう言って葉巻を受け取り、懐から自分のライターを取り出して火を付けると、一息目を吸い込んで鼻から白い煙を出した。
「……しかし、アトラス派貴族どもも、よく踊ってくれたものですな」
「ハッハッハッ、そうだとも。しかし、ワシはこの国の貴族がどうなろうが興味などない。小麦相場を牛耳るという目論見は貴族どもがこだわっておる目的であるが、ワシにとっては、ローズの土地を得る目的はそれだけでは無いのだ。かのお方の崇高なご意向が全てなのだからな……」
男爵が念話する。
「ちょっと待て。奴は一体、何の話をしておるのだ? かのお方だと? それは一体誰のことなのだ?」
「男爵様、静かに!」
「スマン」
再び、奴らの会話に集中した。
「……そうであろう? まぁ、そのついでにローズへの復讐も出来る訳だがな。ワッハッハッ!」
「当然ですとも。会頭は、この小さな国でご満足される様な方ではござらんのですから」
バイスは、葉巻を指で挟み、白い煙をふぅ〜っと大きく吐き出してそう言った。
「フッフッフッ。見ておれよバイス。いずれ、この国はかのお方が支配する事になる。そうなれば、小麦相場がどうと言う様なチンケな話ではない。今のところは、アトラス派貴族どもが幅を効かせることで、かのお方への忠義が果たせる状況であるから、マラジーナ伯爵には協力を惜しむこともないが、クライナ王家の後継問題など、ワシの知ったことではないわ」
「では、間も無く会頭の思い描かれた事の一つが、いよいよ達成ということですな。あの娘はどうするのです? 万一の時の保険と仰っておられましたが?」
バイスはそう言って、大きな鼻の穴を更に広げながら目を細めた。そして、ジャブロクは、葉巻の先を灰皿の淵にトントンと当てながら言った。
「ライラの事か? フッフッフ。あの娘には、自分の親の処分が早々に下ることのないよう、ワシが王宮に口添えしてやると言って、侍女ともども引き取っていたのだ。まぁ侍女の方は奴隷としてだがな」
「ホッホッホ。会頭も、人が悪いですな」
バイスはニヤリと笑みを浮かべる。
「フンッ、何を言うかバイス! ライラの親父がワシにした事はこんなものではない。奴らのせいでこのワシは、民衆の間で大恥をかいたのだぞっ、忌々しい貴族めっ! ローズが処刑されようがそんなものでワシの気は治らんぞっ! これまでは王宮の手前もあり、ライラの身分ある立場を不本意ながらこのワシが尊重してやっていたのだ。他の者の手に渡らんよう手元に置いてなっ!」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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