309-15-4_ジャブロクとバイス
念話で会話しながら視覚を使って様子を探る。すると、屋敷の中では使用人たちが慌ただしく動いていた。さらにその時、廊下の奥からジャブロクの大きな怒鳴り声が響き渡った。
「バカもんっ!!! 何をやっとるんだっ! 早く賊どもを探せっ、能無しめっ!」
「はっ! た、只今、全力で周囲を捜索しておりますっ!」
返事をしたのは、大人の男性の声だ。それらの声は、開けっ放しの扉の中から聞こえてくる。
「……た、ただ、賊がどこから侵入したのか不明で……て、転移魔石ではないかと……」
「何っ!? いい加減な事を言うでないぞっ! 転移魔石などそれ一つで庶民の家が一軒建つほどの高価な物だ。それに、あれは、使う前には準備が必要である上、三回使えば割れてしまってもう使えん。奴隷娘を三人や四人攫うだけに使っておっては割に合わんぞっ! よう知らん者が適当な事を言うで無いっ、この馬鹿者がっ!」
「す、すみませんっ!」
「分かったら、お前も、賊どもを探して来いっ!」
「はっ!」
その返事とともに、黒服を着た男が部屋から出てくると、その男は、足早に廊下の奥へと向かった。
「ジャブロクはあの部屋のようね。移動して様子を見てみるわ」
「エリア、見つからない様に注意するのだぞ」
「慎重に移動するから大丈夫よ、男爵様」
そうして、ジャブロクが真上から見える位置に移動した。奴は、暖炉に火がついた応接室の様な部屋で一人ソファに座っており、腕を組み右足をガタガタと揺すっている。そして奴は、部屋の入り口で縮こまったようにして立っている若い女性に向かって言った。彼女は、隷属の首輪を嵌めているようだ。
「おいっ! お前っ! バーバラはどうしたっ? まだ、目を覚まさんのかっ?」
ジャブロクは、そう言って彼女に怒声を浴びせる。
「は、はい。メイド長様は、今、お目覚めに……」
女性は怯えた様に返事をした。
「それならそうと、早よう言えっ! グズどもめっ! それで、バーバラは何と言っておるのだっ!?」
「は、はい。メイド長様は、侵入者の顔を見ていないと……」
「何だとっ!? クソッ! どこのどいつなのだ、まったく! 人の財産に手をつけおるとは赦さんぞっ! とっ捕まえて手足をもいでやらんと気が治らんわっ!」
そして、メイドの女性は、体を小さくして廊下に出て行った。
「今のメイドの女の子も奴隷なのね。とても怯えていたわ。私が助けてあげられたのは、檻に入れられていた女の子たちだけだったけど、他にも何人かいるみたいね」
「そのようだな、ああいう光景は見ておれん。それにしても、ジャブロクの奴、相当、苛立っておる様だ」
「男爵様! 私は、もっと怒ってるわよっ!」
「僕もさっ! 奴の首に隷属の首輪を嵌めてやりたいよ、まったく!」
レイナードも、そう言って会話に加わった。
「ワシもだがな」
男爵も怒っているようだ。しかし、怒っていても声音が普段と変わらない。
「男爵様、本当に怒ってるの?」
「もちろんだ。ワシも奴以上にな。しかし、どのような時でも冷静さを欠いてはいかん。その状況に飲まれてしまうのでな」
「そうね」
目の前の場面では、別の奴隷メイドがジャブロクのいる部屋にやって来たところだ。彼女は開いている扉をノックして言った。
「所長がお越しです」
「うむ。早う、通せ」
「かしこまりました」
メイドがそう言うと、彼女と入れ替わって、カバール商会で所長と呼ばれていた男と細面の部下が部屋に入ってきた。彼らは、コートと帽子をメイドに預けると、入り口でジャブロクに挨拶をした。
「会頭、このような時間までお疲れ様です」
奴らの様子を見ながら念話で話す。
「さっきの奴らだわ」
「カバール商会の事務所の奴らだな、エリア、もしかして、奴らに会ったのか?」
「今の様に天井から見ていただけなんだけどね」
「そうか。あの男は、ジャブロクの右腕で特に注意が必要な奴だ。どれ程の力を秘めておるのか分からんが、傭兵をやっていた男だとモートンから聞いた事がある。確か、名前は……」
男爵は、男の事を知っている様だ。しかし、男爵が名前を言うより先に、ジャブロクが男たちに声を掛けて、二人を部屋の奥に招き入れた。
「バイスか、ご苦労だな。カッペル、お前もそこに座れ」
「ありがとうございます。では、カッペル、そこに掛けさせてもらうがいい」
「はい」
所長のバイスと部下のカッペルは、ジャブロクから見て左手のソファに腰掛けた。
「会頭。ところで、使用人が騒がしい様ですが何かあったのでしょうか?」
バイスがそう言って尋ねた。
「うむ。実はな、つい先ほど、屋敷にネズミが入り込んで、ワシの奴隷娘三人とメイドを一人攫っていきおったのだ。バーバラが気絶させられてな」
「何ですとっ? それで、どうなったのです?」
「犯人はまだ見つかっておらん。今、警備のものに探させておるが、外から侵入した形跡が無いらしい。転移魔石を使ったのでは無いかと言っておったが」
ジャブロクは、腕を組んで目を閉じた。
「それは本当ですか? しかし、たかだか屋敷に侵入する為に転移魔石を使う事はしないでしょうな」
「お前もそう思うか?」
「ええ。あの魔石は、本来、軍隊の移動など大量輸送に使うもので、しかも、かなり高価でもありますからな。私ならば隠形スキルを使い、出入り業者か客に紛れ込んで侵入するでしょう。しかし、会頭、いずれにしても、かなりの手練れに違いありませんぞ。もしや、ローズの娘を攫いに来たのでは?」
「いや、ライラは躾部屋から一歩も出ておらんし、その部屋に侵入された形跡もない。奴らの目的がよう分からん。ワシに対する嫌がらせをするために、ワザワザやってきたとも思えんが」
ジャブロクは、そう言って顎を摘んだ。
「会頭、それならばシンプルに考えて、奴隷娘を奪い返す事自体が犯人の目的と考えてはいかがでしょうか? 自分で言うのも何ですが、我々も、最近、随分と荒っぽい手を使っておりますからな。以前の様に、親が娘を売ろうというケースだけではありません。攫われた娘を取り返そうという動きが出てきてもおかしくはございませんが」
「う〜む……」
ジャブロクは、顎を掴んだまま唸った。
「……確かに、注文の数の奴隷娘を揃えるために多少の無理はしておるが、それならば、わざわざこの屋敷におる者を攫わんでも、集積所を襲えば良いことだ。まぁ、今は出荷したばかりで一人も残ってはおらんがな。しかし、バイスよ、念の為、先に事務所で下ろした奴隷娘たちが攫われておらんか確認しておく方が良いかもしれんぞ。お前たちがおらん今が、手薄と言えば手薄なのだからな」
「左様でございますな。若い衆には戦闘の経験を十分積ませておりますし人数も揃っております。ただ、今は周りが見えておらんかもしれん……」
バイスはそう言うと、奴の部下に向かって言った。
「カッペル、来たばかりでスマンが、一っ飛びして事務所の様子を見てきてくれないか。お前なら、馬で向かうよりも早い」
「はっ! 分かりました。では行ってまいります」
そうして、カッペルは部屋を後にした。すると、レイナードが念話で聞いてきた。
「ねぇ、エリア? カバール商会の事務所からは女の子二人を助け出して来たけれど、戦闘にはならなかったの?」
「えっ!? あー、い、いや、一応は戦闘になったと思うんだけど……」
適当に返事しちゃった。なんか、さっきからお腹が重いのよねぇ。ちょっと気を張り過ぎてたのかなぁ……。
「何? その曖昧な言い方。まぁ、無事に帰って来てくれたから良かったんだけどさ」
「レイナードよ、お前は、少し想像力が足らんようだ。もし、欲情に狂った複数の男どもの中から今まさに襲われておる娘二人を助けるとするのなら、お前は、一体どうする?」
「私はもちろん、悪党どもを全員……あっ! は、はい……。ご、ごめん、エリア、僕は無神経で考えが至らなかったよ」
「いいのよ、お兄様。私なら平気だから……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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